荏原製作所公共工事入札談合事件:公共工事の入札をめぐる摘発と、経営体制の刷新による再発防止
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- 概要
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2006年3月、鋼鉄製水門工事とトンネル換気設備工事の入札に関し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで公正取引委員会の立入検査を受けた。前年8月に立入検査を受けたし尿処理施設建設工事では公正取引委員会による刑事告発を受け、社員が大阪地方検察庁に逮捕され、法人としても起訴された。
2004年3月30日には東京都が下水道局において発注する下水道ポンプ設備工事の件で、ポンプメーカー13社とともに排除勧告を受けている。公共部門の主要な工事種別で摘発が重なった。
- 背景
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風水力事業とエンジニアリング事業は公共事業の占める割合が高く、政府および地方公共団体の進める公共事業費削減が業績の変動を増大させる構造にあった。摘発の重なった2006年度は、それまで高かった国内官需比率を引き下げる取り組みを進めている。
同じ年度には汎用送風機事業の再編、子会社の合併によるポンプ事業の新会社の発足、汚泥再生処理施設事業からの撤退を含む再編と上下水道事業の分社を実施した。摘発の対象となった工事種別そのものから退く再編でもあった。
- 内容
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排除勧告は承服しかねるとして応諾せず、審判で独占禁止法違反の事実がなかったことを明らかにする道を選んだ。一方、トンネル換気設備工事及び汚泥再生施設工事の入札における独占禁止法違反では公正取引委員会から課徴金納付命令を受け、汚泥再生処理施設工事については2007年3月29日に大阪地方裁判所で有罪判決を受けた。
同月には国土交通省から建設業法違反として1都8県において15日間の営業停止処分を受けている。2007年3月期には独禁法違反に係る損失引当金を新たに設け、損失1,927百万円と引当金繰入920百万円の計2,847百万円を特別損失に計上した。
- 含意
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2007年4月3日付で代表取締役の交代を含む経営体制の刷新を図り、社長を委員長として外部有識者を加えた再発防止対策委員会を設置した。争っていた下水道ポンプ設備工事は2008年4月に排除措置を求める審決の送達を受けている。
独禁法違反に係る損失引当金は2009年3月期に残高がなくなり、関連する支払いは3期で終わった。公共部門を主戦場とするエンジニアリング事業の営業損益は、摘発の重なった2008年3月期に121億81百万円の損失まで沈んでいる。
官需に寄りかかった事業構造
摘発が下水道ポンプ設備、し尿処理施設、鋼鉄製水門、トンネル換気設備と四つの工事種別に及んだことは、個々の現場の逸脱ではなく、公共事業に深く依存した事業構造そのものが問われたことを意味していたとみられる。風水力事業とエンジニアリング事業はどちらも官需の比率が高く、公共事業費の削減が続くなかで受注を維持しようとすれば、同じ顔ぶれの競合と同じ発注者に向き合い続けることになる。摘発の重なった2006年度に国内官需比率の引き下げを掲げ、汚泥再生処理施設事業からの撤退を決めたのは、処分への対応というより、談合が生まれる土壌そのものを手放す判断だったのだろう。
もっとも、事業構造の組み替えには時間がかかる。エンジニアリング事業の営業損益は2008年3月期に121億81百万円の損失まで沈み、黒字に転じたのは水処理プラント事業を連結から外した2011年3月期である。処分そのものが与えた損失は特別損失28億47百万円と引当金の3期での取り崩しで区切りがついたが、官需に寄りかかった事業を立て直す作業は、それよりはるかに長く続いたことになる。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 排除勧告 | 2004年3月30日 | 東京都が下水道局において発注する下水道ポンプ設備工事の件。ポンプメーカー13社が対象 |
| 勧告への対応 | 応諾せず審判で争う | 承服しかねるとして、審判で独占禁止法違反の事実がなかったことを明らかにする方針とした |
| 立入検査(し尿処理施設建設工事) | 2005年8月 | 独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いによる |
| 立入検査(鋼鉄製水門工事) | 2006年3月 | |
| 立入検査(トンネル換気設備工事) | 2006年3月 | |
| 刑事告発と起訴 | 社員の逮捕と法人としての起訴 | し尿処理施設建設工事で公正取引委員会が刑事告発。社員は大阪地方検察庁に逮捕された |
| 課徴金納付命令 | トンネル換気設備工事及び汚泥再生施設工事 | 入札における独占禁止法違反による。納付額と命令の日付は有価証券報告書に記載がない |
| 有罪判決 | 2007年3月29日 | 大阪地方裁判所。汚泥再生処理施設工事について。罰金の額は有価証券報告書に記載がない |
| 営業停止処分 | 1都8県において15日間 | 2007年3月。トンネル換気設備工事について国土交通省から建設業法違反として受けた |
| 審決の送達 | 2008年4月 | 下水道ポンプ設備工事について、排除措置を求める審決を受けた |
| 特別損失の計上 | 2,847百万円 | 2007年3月期。独禁法違反に係る損失1,927と同損失引当金繰入920の合計 |
| 引当金の新設 | 独禁法違反に係る損失引当金 | 2007年3月期に新設し、損失見込額を計上する方針を会計方針に加えた |
| 経営体制の刷新 | 2007年4月3日 | 代表取締役の交代を含む。元経営幹部による会社資金の不正支出への対応も併せて行った |
| 再発防止対策委員会 | 社長を委員長とする6名 | 外部委員は早稲田大学法学学術院長の上村達男氏と、弁護士の松山遥氏 |
| 事業の再編 | 汚泥再生処理施設事業からの撤退 | 2006年度に上下水道事業の分社と併せて実施した |
出所:荏原製作所 有価証券報告書 第141期(2006年3月期)【事業等のリスク】・第142期(2007年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】・第143期(2008年3月期)【事業等のリスク】
荏原製作所:独禁法違反に係る損失と引当金
| (百万円) | 独禁法違反に係る損失 | 同損失引当金繰入 | 損失引当金の残高 | 独禁法違反・訴訟等の支払額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2001年3月期 | − | − | − | − | |
| 2002年3月期 | − | − | − | − | |
| 2003年3月期 | − | − | − | − | |
| 2004年3月期 | − | − | − | − | |
| 2005年3月期 | − | − | − | − | |
| 2006年3月期 | − | − | − | − | 立入検査を受けた期。独禁法違反に係る損失引当金はまだ設けていない |
| 2007年3月期 | 1,927 | 920 | 920 | 1,998 | 有罪判決と課徴金納付命令の期。引当金はこの期に新設した |
| 2008年3月期 | 6 | 298 | 962 | 834 | |
| 2009年3月期 | 3 | − | − | 965 | 引当金の残高がなくなり、関連する支払いは3期で終わった |
| 2010年3月期 | − | − | − | − | |
| 2011年3月期 | − | − | − | − |
出所:荏原製作所 有価証券報告書 第142〜144期(連結損益計算書・連結貸借対照表・連結キャッシュ・フロー計算書)
荏原製作所:エンジニアリング事業の売上高と営業損益
| (百万円) | 売上高 | 営業損益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2001年3月期 | − | − | |
| 2002年3月期 | − | − | |
| 2003年3月期 | − | − | |
| 2004年3月期 | − | − | |
| 2005年3月期 | 164,717 | △4,844 | |
| 2006年3月期 | 172,823 | △587 | |
| 2007年3月期 | 148,062 | △8,347 | 翌期の区分変更後は売上高140,298・営業損失7,444に組み替えられている |
| 2008年3月期 | 141,445 | △12,181 | エネルギー供給と原子力関連装置を風水力事業へ移した後の区分による |
| 2009年3月期 | 146,045 | △11,472 | |
| 2010年3月期 | 139,387 | △138 | |
| 2011年3月期 | 51,660 | 942 | 水処理プラント事業の連結除外などで前年度比60.4%減。前期からは連続しない |
出所:荏原製作所 有価証券報告書 第141〜146期(事業の種類別セグメント情報・セグメント情報等)
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- 荏原製作所 有価証券報告書「第142期(2007年3月期)【対処すべき課題】」
- 荏原製作所 有価証券報告書「第143期(2008年3月期)【事業等のリスク】」