荏原製作所指名委員会等設置会社へ移行:監査役会を畳み、執行への権限委任と社外取締役の監督に組み替える機関設計の転換

更新:

時期 2015年6月
当時の社長 前田東一
論点 経営の監督と業務執行の分離をどこまで進めるか
概要

2015年6月24日開催の第150期定時株主総会をもって、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行した。掲げたのは、取締役会による経営の監督機能の強化と透明性の向上、業務執行権限の拡大と競争力強化、グローバルに理解されやすいコーポレート・ガバナンス体制の構築の三つである。

移行後の取締役会は14名となり、その内訳は独立社外取締役7名(うち女性2名)、執行役を兼務しない社内取締役4名、執行役を兼務する社内取締役3名となった。

背景

監査役会設置会社であった2002年に執行役員制度を導入し、2008年に社外取締役2名を招聘、2011年度に2名を増員して4名としてきた。移行前の取締役会は社外取締役4名を含む12名で、議長には代表権を持たない取締役会長が就任し、最高経営責任者である代表取締役社長との分離を図っていた。

監査役会は社外監査役3名を含む5名。指名委員会規則と報酬委員会規則を定めて任意の指名委員会・報酬委員会を設置し、両委員会の構成員の半数以上を社外取締役としていた。

内容

法定の三委員会を設置し、指名委員会は宇田左近氏・松原亘子氏・矢後夏之助氏、報酬委員会は国谷史朗氏・澤部肇氏・渋谷勝氏、監査委員会は並木正夫氏・山崎彰三氏・佐藤泉氏・藤本哲司氏・津村修介氏で発足した。取締役の定数は15名以内を定款で定め、独立社外取締役を全取締役の3分の1以上、執行役を兼務しない取締役を全取締役の過半数とする構成方針を置いている。

執行役は取締役会の決議で選任され、取締役会が決めた基本方針に沿って委任された業務執行を担う。同じ総会では、剰余金の配当を取締役会の決議によって定める旨の定款変更も承認された。

含意

移行後の取締役会は縮んでいく。2017年3月期に13名、2018年12月期には執行役を兼務する取締役を3名から1名に減らして11名、2019年12月期に社内取締役をさらに1名減らして10名となった。独立社外取締役は7名のまま動かず、2019年12月期には社外が過半を占めている。

取締役会議長も2018年12月期から独立社外取締役が務め、代表執行役社長との分離が制度として固まった。監督の側に人を残し、執行の側を薄くしていく組み替えが続いたことになる。

筆者の見解

監督を厚くし、執行を薄くする

この移行で荏原が選んだのは、監督と執行のどちらに人を置くかという配分の組み替えだったとみられる。掲げた三つの理由のうち二つ目は「業務執行権限の拡大」であり、監督を強めることと執行を自由にすることが同じ決断のなかに並んでいる。監査役会という助言も議決権も持たない機関を畳み、監査を議決権のある取締役の仕事に変える一方で、日々の執行は取締役会が決めた基本方針の範囲で執行役へ委ねる。監督の実効を上げるためには執行を切り離すしかない、という割り切りがここにはあらわれている。

もっとも、制度を入れることと制度が働くことは別である。荏原の場合、移行の前から社外取締役4名と任意の指名・報酬委員会を持ち、取締役会議長と社長の分離も済ませていた。つまり移行は、それまで任意でやってきたことを法定の器へ移す作業でもあった。器が変わったことの意味は、移行そのものよりも、その後に取締役会を14名から10名へ絞り、執行役を兼務する取締役を3名から1名へ減らし、議長を独立社外取締役に委ねていった経過のほうに出ているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

移行の経緯と体制

科目 概要 備考
移行の決議 2015年6月24日 第150期定時株主総会をもって監査役会設置会社から移行した
移行の理由(監督) 経営の監督機能の強化と透明性の向上 取締役会による監督機能を指す
移行の理由(執行) 業務執行権限の拡大と競争力強化 執行組織における権限の拡大を指す
移行の理由(対外) グローバルに理解されやすい体制の構築 海外の投資家や取引先から見た分かりやすさを挙げた
移行前の機関設計 監査役会設置会社 取締役12名(うち社外4名)、監査役5名(うち社外3名)。任意の指名・報酬委員会を設置していた
移行後の取締役会 14名 独立社外7名(うち女性2名)、執行役を兼務しない社内4名、兼務する社内3名
取締役の定数 15名以内 定款で定める
取締役会の構成方針 独立社外取締役を3分の1以上 執行役を兼務しない取締役が全取締役の過半数を占めるものとする
指名委員会 宇田左近氏、松原亘子氏、矢後夏之助氏 取締役の選解任議案の内容と、執行役の選解任に関する取締役会への提言を担う
報酬委員会 国谷史朗氏、澤部肇氏、渋谷勝氏 取締役・執行役の個人別の報酬等の内容を決定する
監査委員会 並木正夫氏、山崎彰三氏、佐藤泉氏、藤本哲司氏、津村修介氏 監査役会に代わる機関として置いた
執行役の選任 取締役会の決議 取締役会が決めた基本方針に沿い、委任された業務執行を担う
執行会議体 全執行役で構成する経営会議 委任された範囲の業務執行を審議する場として設置した
定款変更(配当) 剰余金の配当を取締役会が決議 2015年6月24日に効力発生。年2回の配当と、基準日を定めた配当を可能にした
移行までの布石 執行役員制度の導入と社外取締役の招聘 2002年に執行役員制度、2008年に社外取締役2名、2011年度に2名増員して4名

出所:荏原製作所 有価証券報告書 第150期(2015年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【配当政策】・第151期(2016年3月期)【対処すべき課題】【コーポレート・ガバナンスの状況等】

荏原製作所:取締役会の構成と監査役

(名) 取締役うち社外取締役監査役 備考
2011年3月期 1245
2012年3月期 1245
2013年3月期 1245
2014年3月期 1245
2015年3月期 1245 移行を決議した総会の直前の期末。監査役会設置会社としての最後の期
2016年3月期 1470 2015年6月24日に移行。監査役会に代えて監査委員会を設置した
2017年3月期 1370
2017年12月期 1370 決算期を3月から12月へ変更した9か月の期
2018年12月期 1170 執行役を兼務する取締役を3名から1名へ減員。議長を独立社外取締役が務める
2019年12月期 1070 社内取締役をさらに1名減員した
2020年12月期 1070 独立社外7名のうち女性は3名
取締役会の規模と社外取締役の比率
取締役(名)うち社外取締役率(%)

出所:荏原製作所 有価証券報告書 第146〜156期(コーポレート・ガバナンスの状況等) / 各期の人数は有価証券報告書の提出日現在。移行後は社外取締役がいずれも独立社外取締役

同じ問いに直面した会社

取締役会改革2015年三菱重工業取締役会を監督に寄せ、重要な業務執行の決定を取締役社長へ委ねた統治の組み替え取締役会の役割と機関設計
2015年三菱UFJフィナンシャル・グループ監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移り、持株会社の執行と監督を分けた持株会社の執行と監督の分離
2016年セイコーエプソン監督の担い手を取締役会の内側へ移し、審議を重要議案に絞った機関設計の切り替え取締役会の監督機能と意思決定の速さの両立
2016年サイゼリヤ社外取締役のいない取締役会を改め、過半数を社外とする監査等委員会を設置した機関設計の切り替え取締役会に社外の議決権がない統治体制
2016年ニコン監査役会を廃して監査等委員5名を取締役会に置き、重要な業務執行の一部を執行側へ委ねた機関設計の組み替え監督機能の強化と業務執行の委任をどう両立させるか
出典・参考
  • 荏原製作所 有価証券報告書「第150期(2015年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 荏原製作所 有価証券報告書「第150期(2015年3月期)【配当政策】」
  • 荏原製作所 有価証券報告書「第151期(2016年3月期)【対処すべき課題】」
  • 荏原製作所 有価証券報告書「第151期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

免責事項およびポリシー