セイコーエプソン監査等委員会設置会社へ移行:監督の担い手を取締役会の内側へ移し、審議を重要議案に絞った機関設計の切り替え

更新:

時期 2016年6月
当時の社長 碓井稔
論点 取締役会の監督機能と意思決定の速さの両立
概要

2016年6月28日開催の定時株主総会において定款の変更が決議され、同日付で監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。取締役会の監督機能のさらなる向上、審議の一層の充実および経営の意思決定の迅速化を図るためには、監査等委員会設置会社がふさわしい機関設計であると考えたためである。

定款では監査等委員でない取締役を9名以内、監査等委員である取締役を5名以内と定めた。移行後の取締役会は社外取締役5名を含む12名、監査等委員会は社外取締役である監査等委員3名を含む4名で構成し、委員長は常勤の監査等委員が務める。

背景

移行前の体制は取締役10名と監査役5名で、社外取締役は2名にとどまっていた。2011年3月期には社外取締役の記載がなく、独立性は3名の社外監査役が担っていた。

移行によって社外取締役は5名となり、取締役会に占める比率は2割から4割へ上がった。社外取締役の構成比率を3分の1以上とすることを原則とする旨は、コーポレートガバナンス基本方針に定めている。

内容

取締役会が決定すべき事項以外の業務の執行およびその決定は業務執行側へ委任し、その範囲を拡大した。取締役会の審議事項は重要性の高い議案に限定している。同じ2016年6月28日開催の取締役会では、内部統制システムの基本方針を一部改定する決議をした。

報酬の枠も組み替わった。監査等委員でない取締役の基本報酬は月額62百万円以内(うち社外取締役分は月額10百万円以内)、監査等委員である取締役の基本報酬は月額20百万円以内となり、2001年6月26日の決議による取締役70百万円以内・監査役12百万円以内に代わっている。同じ総会の承認により、役員報酬BIP信託による業績連動型株式報酬制度も導入した。

含意

2016年6月28日の定時株主総会終結の時をもって取締役3名と監査役4名が退任し、顔ぶれは一度に入れ替わった。以後の5期は取締役11〜12名、監査等委員4名(うち社外3名)で動いていない。

監査等委員会の実効性評価は移行後の2017年度から毎年実施され、2019年度からは結果を取締役会へ報告・共有することが定例化された。2021年度は実効性が確保されているとの評価結果を取締役会で共有するとともに、内部統制やガバナンス体制の向上に関する提言も行っている。

筆者の見解

監督を薄くせずに執行を速くする

機関設計の切り替えは、名札を替える話として片づけられやすい。だがエプソンがこの移行で実際に動かしたのは、取締役会が何を議論するかの線引きだった。業務執行側への委任範囲を広げ、取締役会の審議を重要性の高い議案に絞る。そのうえで、議決権を持たない監査役という立場を、議決権を持つ監査等委員へ組み替え、監督の担い手を取締役会の内側へ入れた。監督を薄くしないまま執行を速くするための、配置の組み替えだったとみられる。

もっとも、機関設計そのものよりも、社外取締役が2名から5名へ増えたことのほうが効いたのかもしれない。同じ総会では取締役3名と監査役4名が退き、報酬の枠も業績連動の株式報酬も新しくなった。移行はそれら一式を一度に通すための器でもあった。以後の5期にわたって取締役会と監査等委員会の規模が動いていないことは、その器がひとまず落ち着いたことを示しているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
移行の決議 2016年6月28日 定時株主総会で定款の変更が決議され、同日付で移行した
移行の理由 監督機能の向上と意思決定の迅速化 取締役会の監督機能のさらなる向上、審議の一層の充実もあわせて挙げている
定款の員数枠 監査等委員でない取締役は9名以内 監査等委員である取締役は5名以内と定めた
取締役会の構成 社外取締役5名を含む12名 移行前は社外取締役2名を含む10名
監査機関の構成 社外取締役3名を含む監査等委員4名 委員長は常勤の監査等委員。移行前の監査役会は社外3名を含む5名
社外取締役の比率 3分の1以上を原則 コーポレートガバナンス基本方針に定めた
権限の委任 業務執行側への委任範囲を拡大 取締役会の審議事項は重要性の高い議案に限定した
内部統制システム 基本方針を一部改定 2016年6月28日開催の取締役会で決議した
改定後の報酬枠 監査等委員でない取締役は月額62百万円以内 うち社外取締役分は月額10百万円以内。監査等委員である取締役は月額20百万円以内
改定前の報酬枠 取締役は月額70百万円以内 2001年6月26日開催の定時株主総会の決議による。監査役は月額12百万円以内
株式報酬の導入 業績連動型株式報酬制度 役員報酬BIP信託による仕組み。2016年度から適用した
退任した役員 取締役3名・監査役4名 2016年6月28日開催の定時株主総会終結の時をもって退任した

出所:セイコーエプソン 有価証券報告書 第74期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の報酬等】、第75期(2017年3月期)【役員の報酬等】

セイコーエプソン:取締役会と監査機関の員数

(名) 取締役うち社外取締役監査役・監査等委員うち社外 備考
2011年3月期 10053 監査役会設置会社。社外取締役の記載はない
2012年3月期 10153
2013年3月期 9153
2014年3月期 10253
2015年3月期 10253
2016年3月期 12543 2016年6月28日に監査等委員会設置会社へ移行した後の員数
2017年3月期 11543
2018年3月期 12543
2019年3月期 12543
2020年3月期 12543
2021年3月期 11543
取締役の員数と社外取締役の比率
取締役(名)うち社外取締役率(%)

出所:セイコーエプソン 有価証券報告書 第69〜79期(コーポレート・ガバナンスの状況等) / 員数は各期の有価証券報告書提出日現在。監査等委員は取締役を兼ねるため移行後の取締役の数に含まれる

同じ問いに直面した会社

取締役会改革2016年サイゼリヤ社外取締役のいない取締役会を改め、過半数を社外とする監査等委員会を設置した機関設計の切り替え取締役会に社外の議決権がない統治体制
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2016年任天堂社外監査役を取締役会へ移し、監督と執行を分けた機関設計の組み替え社外の監督をどう取締役会の中へ入れるか
2017年フジクラカンパニーへの権限委任と社外取締役4名の監督を、一つの取締役会へ収める機関設計を選んだ機動的な意思決定と客観的な監督の両立
2015年荏原製作所監査役会を畳み、執行への権限委任と社外取締役の監督に組み替える機関設計の転換経営の監督と業務執行の分離をどこまで進めるか
出典・参考
  • セイコーエプソン 有価証券報告書「第74期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • セイコーエプソン 有価証券報告書「第74期(2016年3月期)【役員の報酬等】」
  • セイコーエプソン 有価証券報告書「第75期(2017年3月期)【役員の報酬等】」
  • セイコーエプソン 有価証券報告書「第80期(2022年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

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