任天堂監査等委員会設置会社へ移行:社外監査役を取締役会へ移し、監督と執行を分けた機関設計の組み替え

時期 2016年6月
当時の社長 君島達己
論点 社外の監督をどう取締役会の中へ入れるか
概要

2016年6月29日の第76期定時株主総会で定款の変更を決議し、同日付で監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。掲げた目的は、取締役会の監督機能を強化し、コーポレート・ガバナンス体制の一層の充実を図ることである。同じ日に執行役員制度も導入し、取締役を兼務しない執行役員7名を置いた。取締役会は10名から9名へ、社外取締役は1名から3名へ変わり、4名いた監査役は姿を消した。

背景

移行の前年、2015年7月に代表取締役社長の岩田聡氏を在職のまま失い、社長の座は2か月にわたって空いた。9月に常務取締役 経営統括本部長の君島達己氏が社長へ就任している。

この会社の取締役会は長く社内出身者だけで構成されていた。社外取締役が初めて置かれたのは2014年6月、弁護士・弁理士の水谷直樹氏が監査役から取締役へ移ったときである。監査役会には社外監査役2名がいたが、取締役会の議決には加われない。

内容

監査等委員である取締役4名のうち3名が社外で、全員を東京証券取引所の規程で定める独立役員に指定した。この3名はいずれも移行前の任天堂の監査役である。水谷直樹氏は2003年6月、三田村善生氏と梅山克啓氏は2012年6月に監査役へ就任していた。常勤の監査等委員には1980年入社の野口直樹氏が就任する。

任期は監査等委員でない取締役が1年、監査等委員である取締役が2年。報酬も枠が分かれ、監査等委員である取締役は業務執行から独立した立場を考慮して固定報酬のみとなった。同じ総会で、経営企画室長の古川俊太郎氏が取締役・常務執行役員に就任している。

含意

移行後の9名・社外3名という構成は5期にわたって動かない。次に形が変わったのは2020年1月30日で、代表取締役社長と全ての監査等委員である取締役で構成する指名等諮問委員会を設置し、取締役等の指名・報酬の審議を取締役会の外へ出した。2021年3月期には監査等委員でない社外取締役が初めて置かれ、取締役10名のうち社外は4名となる。社外の比率は移行時の3分の1から4割へ上がった。

筆者の見解

監査役を取締役会へ入れた移行

この移行で動いたのは社外の人数ではなく、社外の座る場所である。移行前も社外監査役2名は毎月の監査役会に出て会計監査人と意見を交わしており、欠けていたのは情報でも専門性でもなく取締役会の議決権だった。監査等委員会設置会社への移行は、その2名を取締役へ変え、議案の採決に加わる立場へ移す操作だったとみられる。社外取締役が1名から3名へ増えたという数字も、外から新しい人を招いた結果ではない。社内出身者だけで議決してきた取締役会に、既にいた監督者を入れ直した。

もっとも、監督の形を整えることと監督が働くことは別である。移行時の社外3名は全員が監査等委員で、指名と報酬を独立に審議する場が置かれるのは2020年1月まで待つことになる。経営の議論そのものに外から加わる取締役、すなわち監査等委員でない社外取締役が現れるのは2021年3月期である。社長を突然失った会社が翌年に選んだのは、監督の担い手を入れ替えることではなく、既にいた監督者の席を移すことだった。外の人を足していったその後の歩みのほうが、移行そのものより大きな変化だったのかもしれない。

Yutaka Sugiura

経緯と対応

科目 概要 備考
移行の決議 2016年6月29日 第76期定時株主総会で定款の変更が決議され、同日付で移行した
移行の目的 取締役会の監督機能の強化 コーポレート・ガバナンス体制の一層の充実を図ることを目的として掲げた
同時に導入した制度 執行役員制度 導入日も2016年6月29日。取締役を兼務しない執行役員は7名
執行役員制度の目的 意思決定・監督機能と業務執行機能の分離 業務執行権限の委譲を進め、責任の所在を明確にするとともに迅速化を図る
移行前の取締役会 取締役10名(うち社外1名) 任期は1年。別に監査役4名(うち社外監査役2名)を選任していた
移行後の取締役会 取締役9名 監査等委員でない取締役5名と、監査等委員である取締役4名で構成する
社外取締役 3名(全員が監査等委員) 全員を東京証券取引所の規程で定める独立役員に指定した
社外取締役3名の前歴 全員が移行前の任天堂の監査役 水谷直樹氏は2003年6月、三田村善生氏と梅山克啓氏は2012年6月に監査役へ就任
監査等委員会の構成 常勤の社内取締役1名と社外取締役3名 社外2名は公認会計士または税理士で、財務及び会計に相当程度の知見を持つ
監査等委員会室 監査等委員会の職務を補助する部署 移行前は監査役の業務を支援・補助する監査役室を置いていた
取締役の任期 監査等委員でない取締役は1年 監査等委員である取締役は2年。移行前の取締役は全員が1年だった
定款の定数 取締役15名以内、監査等委員5名以内 移行前は取締役15名以内だけを定めていた
報酬の枠 監査等委員とそれ以外で別枠 監査等委員である取締役は固定報酬のみ。ほかは基本報酬と業績連動の変動報酬
その後の任意機関 2020年1月30日に指名等諮問委員会 代表取締役社長と全ての監査等委員である取締役で構成する取締役会の諮問機関

出所:任天堂 有価証券報告書 第75期(2015年3月期)・第76期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】 / 任天堂 コーポレート・ガバナンスに関する報告書

任天堂:取締役会と監査役会の構成

(人) 取締役うち社外取締役監査役うち社外監査役 備考
2011年3月期 10053 取締役は全員が社内出身。社外の監督は監査役会だけが担っていた
2012年3月期 9053
2013年3月期 10053
2014年3月期 10142 水谷直樹氏が監査役から取締役へ移り、社外取締役が初めて置かれた
2015年3月期 10142
2016年3月期 9300 監査等委員会設置会社へ移行。監査役4名が監査等委員である取締役4名になった
2017年3月期 9300
2018年3月期 9300
2019年3月期 9300
2020年3月期 9300 2020年1月30日に指名等諮問委員会を設置
2021年3月期 10400 監査等委員でない社外取締役が初めて置かれ、社外は4名になった
取締役の数と社外取締役比率
取締役(人)うち社外取締役率(%)

出所:任天堂 有価証券報告書 第71期〜第81期【コーポレート・ガバナンスの状況等】(各期の有価証券報告書提出日現在の員数)

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出典・参考

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