サイゼリヤ 為替デリバティブの一括解約 含み損の先送りを避けた解約損の一括計上と、無借金経営の放棄

更新:

時期 2009年
当時の社長 正垣泰彦
論点 為替デリバティブの含み損処理と財務基盤
何をなぜ決めたか
概要

2009年8月期、サイゼリヤが保有していた為替デリバティブ契約を解約し、解約損153億10百万円を一括で計上した経営判断。売上高883億23百万円は37期連続の増収で、営業利益も91億68百万円まで伸びていた。

それでも営業外費用が162億86百万円へ膨らみ、経常損失69億29百万円・当期純損失48億96百万円に沈んだ。解約金の支払いは長期借入金160億円で賄い、第36期まで0だった連結の有利子負債は123億72百万円となった。

背景

輸入食材の比率が高いサイゼリヤにとって、為替の変動は仕入価格に直結する。外貨建の債権債務の変動を抑える目的で通貨スワップ取引や為替予約を用い、余剰資金は元本が保証され預金利率がマイナスにならないデリバティブ内包型預金で長期運用していた。投機的な取引は行わない方針であり、執行と管理は取引権限と取引限度額を定めた社内規則に従っていた。2008年秋以降の急激な為替変動で、第36期末の時点ではその後に多額のデリバティブ評価損が発生する可能性が生じていた。

内容

第37期に契約を解約し、解約金153億10百万円を支払った。営業活動によるキャッシュ・フローは62億81百万円の支出となり、前期から145億94百万円減少している。原資は長期借入金160億円で、返済36億28百万円を差し引いた財務活動によるキャッシュ・フローは114億52百万円の収入となった。

期末に残した通貨スワップ取引の契約額は78億72百万円で、内訳は豪ドル18億91百万円・ユーロ52億47百万円・米ドル7億34百万円、評価損益は5億40百万円の損失だった。デリバティブ評価損は第36期の8億31百万円から5億76百万円へ縮んでいる。

含意

翌第38期は解約損が消え、デリバティブ評価損も44百万円まで縮み、経常利益140億22百万円・当期純利益78億42百万円へ戻った。長期借入金は第38期に69億30百万円、第39期に14億88百万円まで減り、財務の姿は数年で元へ近づいた。一方、2009年4月には1973年の法人設立から36年社長を務めた正垣泰彦氏が会長へ退き、堀埜一成氏が代表取締役社長に就任している。損失の確定と経営の世代交代が、同じ事業年度に重なった。

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筆者の見解
筆者の見解

良い年に、悪い契約を断ち切る

この決断の芯は、為替で損を出したことではなく、含み損を抱えた契約を満期まで持ち越さずその期で断ち切ったところにある。相場が戻れば損は消えるという賭けを続けることもできたはずだが、サイゼリヤは153億10百万円を一度に払い、創業以来守ってきた無借金を崩してでも不確実性を帳簿の外へ出した。営業利益が91億68百万円まで伸びていた期に、あえて経常段階で赤字を見せている。本業の数字が良い年だからこそ払える代金だったと思われる。

もっとも、この処理は財務の判断そのものを取り消すものではない。輸入食材の為替リスクを抑えるはずの取引が、結果として一期の営業利益を超える支払いを生んだという事実は残る。翌期には経常利益140億22百万円まで戻り、借入金も二年で14億88百万円まで減ったから、傷は浅く済んだとみることができる。ただ、豪州に食材の製造子会社を持ち、中国で店を増やし、外貨の出入りがこれから太くなっていく会社にとって、為替をどう扱うかという問いがこの解約で片づいたわけではない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

業績の推移
解約の条件

解約の条件

科目 概要 備考
デリバティブ解約損 15,310百万円 第37期の営業外費用。第36期には計上がない
解約による支払額 15,310百万円 営業活動によるキャッシュ・フローに計上。同期の営業CFは6,281百万円の支出
デリバティブ評価損 576百万円 第37期の営業外費用。第36期は831百万円、第38期は44百万円
営業外費用合計 16,286百万円 第36期は4百万円。支払利息80百万円と為替差損297百万円もこの期から立った
資金の手当て 長期借入金による収入16,000百万円 返済3,628百万円を差し引き、財務活動によるCFは11,452百万円の収入
期末の有利子負債 12,372百万円 第34期から第36期までは0。全額が長期借入金で、短期借入金と社債はない
期末に残した通貨スワップ取引 契約額7,872百万円 豪ドル1,891・ユーロ5,247・米ドル734。評価損益は△540百万円
期末に残したデリバティブ内包型預金 契約額1,500百万円 期限前解約特約・条件充足型預金。評価損益は△196百万円
経常損益 △6,929百万円 第36期は経常利益7,853百万円。営業利益は9,168百万円で前期を上回った
当期純損益 △4,896百万円 売上高88,323百万円は過去最高額で、創業以来37期連続の増収だった

出所:サイゼリヤ 有価証券報告書 第37期(2009年8月期)【デリバティブ取引関係】【連結損益計算書】【連結キャッシュ・フロー計算書】

連結の損益の推移

サイゼリヤ:連結の損益の推移

(百万円) 売上高営業利益経常利益当期純利益 備考
2004年8月期 72,8004,8142,531 営業利益は当時の開示に欠落があり、CSVに値がない
2005年8月期 74,6024,3854,4982,391
2006年8月期 78,9765,6166,7223,563
2007年8月期 82,8667,4448,2984,411
2008年8月期 84,9497,5017,8534,011 デリバティブ評価損831百万円を営業外費用に計上
2009年8月期 88,3239,168△6,929△4,896 デリバティブ解約損15,310百万円。営業利益は増えたが経常段階で赤字へ
2010年8月期 99,45914,36514,0227,842 解約損が消え、デリバティブ評価損も44百万円まで縮んだ
2011年8月期 99,86011,55211,9825,874
2012年8月期 104,2359,88410,5265,471
2013年8月期 110,4287,5478,4503,937
2014年8月期 125,6185,4885,9171,193
売上高と当期純利益率
売上高(百万円)当期純利益率(%)

出所:サイゼリヤ 有価証券報告書 第32期〜第42期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

有利子負債と自己資本の推移

サイゼリヤ:有利子負債と自己資本の推移

(百万円) 有利子負債合計自己資本総資産額 備考
2005年8月期 1,08244,74259,653
2006年8月期 049,26759,870 ここから第36期まで有利子負債はない
2007年8月期 053,15662,619
2008年8月期 054,35463,951
2009年8月期 12,37247,24368,369 解約金の支払いのため長期借入金16,000百万円を調達した
2010年8月期 6,93053,88474,102
2011年8月期 1,48858,30575,462
2012年8月期 3,50262,96880,316
2013年8月期 6,09167,34487,472 千葉工場の建設にあわせて借入が増えた
2014年8月期 2,07868,64387,224
有利子負債と自己資本比率
有利子負債合計(百万円)自己資本率(%)

出所:サイゼリヤ 有価証券報告書 第33期〜第42期(連結貸借対照表)

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外的危機への対応2012年東京電力ホールディングス1兆円の公的資金の受け入れと、議決権の過半の政府への移転事故後の資本と統治
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1991年日本興業銀行架空の預金証書を担保とした料亭経営者への2400億円融資与信管理と調達構造
参考文献
出典・参考
  • サイゼリヤ 有価証券報告書【沿革】
  • サイゼリヤ 有価証券報告書【関係会社の状況】
  • サイゼリヤ 有価証券報告書「第36期(2008年8月期)【追加情報】」
  • サイゼリヤ 有価証券報告書「第37期(2009年8月期)【業績等の概要】【連結損益計算書】【連結キャッシュ・フロー計算書】」
  • サイゼリヤ 有価証券報告書「第37期(2009年8月期)【デリバティブ取引関係】」
  • サイゼリヤ 有価証券報告書「第38期(2010年8月期)【連結損益計算書】」

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