東アフリカEABLの取得(2025年・アサヒグループHDの決断)

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論点 成長市場の足場を高い倍率でも買うか
アサヒグループHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
英Diageoの保有株の取得によるケニア・ウガンダ・タンザニアへの参入

何をなぜ決めたか:英Diageoの保有株の取得によるケニア・ウガンダ・タンザニアへの参入

概要

2025年12月17日、アサヒグループホールディングスはDiageo plcの子会社2社と株式売買契約を結び、Diageo Kenya Limited(DKL)の株式100%とUDV (Kenya) Limited(UDVK)の株式53.68%の取得を決めた。DKLが持つEast African Breweries PLC(EABL)の株式65.00%を間接的に取得する仕組みで、UDVKの残る46.32%はEABLが保有する。

取得価格は株式価値ベースで30億米ドル(1ドル155.12円換算で約4,654億円)、2025年6月期ベースのEV/EBITDAで約17倍にあたる。2025年12月期の決算説明会では、この倍率を 『この直近業績で見た場合のバリュエーションは多少高くはなりますが、強い事業基盤や中長期的な高い成長ポテンシャルを踏まえたM&Aであり、アサヒグループの将来を見据えた適切な投資であると確信しております』 と認めた。クロージングは2026年下半期を予定する。

背景

アサヒは2009年のSchweppes Australia、2016〜2017年の欧州ビール事業、2020年のCUB事業と買収で海外を広げてきたが、CUBの後は財務規律を重んじ、既存事業の収益性とキャッシュ・フロー創出力の強化を優先していた。中長期経営方針は、ビールを中心とした既存事業の成長に加えて展開エリアの拡大を掲げる。EABLの3か国のビール市場は2024年にケニアとタンザニアが約6ミリオン・ヘクトリットル、ウガンダが約4ミリオン・ヘクトリットルと小さいが、アフリカ大陸ではいずれも上位10か国に入り、年齢中央値は20歳前後と若い。

内容

EABLはケニア・ウガンダ・タンザニアでビール・スピリッツ・RTDを手がけ、製造拠点は10(ケニアのマイクロブルワリー1拠点を含む)。ビールに「Tusker」「Senator」「Serengeti」、スピリッツに「Chrome」「Kenya Cane」を持ち、Diageoからは「Guinness」「Johnnie Walker」「Smirnoff Ice」を販売し続けるための長期ライセンス供与を受ける予定である。2025年6月期の売上高は128,791百万ケニア・シリング(約1,546億円)、営業利益は25,171百万ケニア・シリング。2025年6月期の売上はケニアが66%、ビールが7割弱を占める。

含意

取得資金は自己資金と金融機関からの借入金で賄う予定で、上限6,500億円のコミットメント契約を結んだ。2025年12月期末で借入の実行残高は無い。同じ期は日本で起きたサイバー攻撃に伴うシステム障害で営業利益が185,870百万円と30.9%減り、営業CFは104,816百万円にとどまった。Net Debt/EBITDAはガイドラインを超えたが、2030年までの主要指標のガイドラインと財務方針は変えないとした。取得原価の配分とのれんの額は、クロージング前のためまだ開示されていない。

いつ何が起きたか 3件
当時の取締役 13名

当時の取締役(2025年3月株主総会決議)

考察:17倍で買った若い市場
考察

考察:17倍で買った若い市場

EABLの2025年6月期の売上高は約1,546億円で、アサヒの売上収益2兆8,947億円の5%余りにすぎない。それでもCUB以来の大型買収に踏み込んだのは、いまの規模ではなく、年齢中央値20歳前後の3か国で1人あたり消費量が伸びる余地を買ったのだと思われる。営業利益率は19.5%と全社の6.4%を大きく上回り、日本・欧州・オセアニアの3極に、成熟市場には無い伸びしろを足す判断と読める。

もっとも、時機は重い。システム障害で営業CFが1,048億円まで落ちた年に、その4倍を超える対価を決め、6,500億円の借入枠を用意した。EABLの営業利益率は2023年6月期から3年続けて下がっており、17倍の倍率を正当化するのは足元の業績ではなく、これからの数量の伸びである。のれんの額と借入の実額はクロージング後に初めて見え、ROICを一時的に押し下げる分をどこまで早く取り戻せるかが、最初の答え合わせになるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年10月
数字で見る 4表

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図と表

アサヒグループHD:EABLの業績の推移

売上高(百万ケニア・シリング)営業利益率(%)

EABLの2025年6月期の売上高は128,791百万KES、営業利益率は19.5%

アサヒグループHD:EABLの業績の推移
(百万ケニア・シリング) 売上高営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2023年6月期 109,64924,1949,857 EABL以下の連結(UDVKを含む)
2024年6月期 124,13124,8988,146
2025年6月期 128,79125,1719,466 決断の直近期。2025年12月に取得を決定
出所:アサヒグループホールディングス 臨時報告書(2025年12月18日提出、取得対象事業の最近3年間に終了した各事業年度の売上高・営業利益・親会社の所有者に帰属する当期利益)
出所:アサヒグループホールディングス 臨時報告書(2025年12月18日提出、取得対象事業の最近3年間に終了した各事業年度の売上高・営業利益・親会社の所有者に帰属する当期利益)

アサヒグループHD:キャッシュ・フローの推移

営業CF(百万円)投資CF(百万円)財務CF(百万円)

2025年12月期の営業CFは1,048億円で、取得価格約4,654億円の4分の1に満たない

アサヒグループHD:キャッシュ・フローの推移
(百万円) 営業CF投資CF財務CF 備考
2020年12月期 275,859△1,243,372956,759 CUB事業を6月に取得し、投資CFが膨らんだ
2021年12月期 337,812△14,348△320,325
2022年12月期 265,991△69,186△219,556
2023年12月期 347,547△117,713△226,746
2024年12月期 403,723△118,665△272,784
2025年12月期 104,816△200,468125,939 12月に取得を決定。システム障害で営業CFが減った期
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第101期・第102期(主要な経営指標等の推移)
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第101期・第102期(主要な経営指標等の推移)

アサヒグループHD:のれんと無形資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)

2025年12月期ののれんは2兆4,107億円で、総資産の約4割

アサヒグループHD:のれんと無形資産の推移
(百万円) のれんのれん及び無形資産総資産 備考
2020年12月期 1,723,9432,701,9854,439,378 CUB事業を6月に連結し、のれんが933,142百万円増えた
2021年12月期 1,816,8622,819,6344,547,748
2022年12月期 1,966,9713,027,9294,830,344
2023年12月期 2,147,1393,283,9485,285,913
2024年12月期 2,203,4253,353,8965,403,405
2025年12月期 2,410,7193,657,9036,028,414 取得の決定期。EABLはまだ連結に入っていない
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第97〜102期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第97〜102期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)

アサヒグループHD:地域別売上収益の推移

日本(百万円)海外(百万円)

2025年12月期の海外売上は1兆6,202億円で、売上収益の56%を占める

アサヒグループHD:地域別売上収益の推移
(百万円) 日本海外 備考
2020年12月期 1,223,159804,602 CUB事業を6月から連結
2021年12月期 1,203,5941,032,481
2022年12月期 1,281,7681,229,340
2023年12月期 1,340,9891,428,101
2024年12月期 1,340,3851,599,037
2025年12月期 1,274,4301,620,245 海外のうちオーストラリアが666,476
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第97〜102期(地域に関する情報、対外部売上収益)
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第97〜102期(地域に関する情報、対外部売上収益)
当時の取締役 13名

当時の取締役(2025年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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