豪CUBの取得(2019年・アサヒグループHDの決断)

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論点 豪州に第三の海外基盤を得るか
アサヒグループHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
取得対価1兆1,682億円による、豪州ビール事業の一挙獲得

何をなぜ決めたか:取得対価1兆1,682億円による、豪州ビール事業の一挙獲得

概要

2019年7月19日、アサヒはAB InBevが豪州で保有する全事業(CUB事業)を取得することで合意し、株式売買契約を締結した。豪州競争法当局と豪州外国投資審査委員会の承認が先行条件で、当初予定の2020年第1四半期から第2四半期へクロージングが延期され、2020年6月1日に取得を完了した。取得対価は1,168,241百万円であった。

背景

国内ビール類の市場は少子高齢化と酒離れで縮小が続き、成熟した国内首位だけでは成長を描きにくくなっていた。アサヒは2016年に旧SABMillerの西欧事業、2017年に中東欧5か国の事業を取得しており、有価証券報告書は本件を、日本・欧州・豪州の3極を核としたグローバルプラットフォームの構築と位置づけている。

内容

取得対価の手当てには、金融機関からのブリッジローン1兆1,850億円を用いた。2020年9月には公募増資で新株20,875千株(払込金総額67,189百万円)と自己株式25,300,000株(処分価額76,288百万円)を出し、10月には2080年満期の劣後特約付社債297,854百万円を発行して、ブリッジローンの返済に充てている。

含意

豪州競争法当局の承認は問題解消措置と引き換えで、取得したStella Artois・Beck's・Strongbow等のブランドは2021年1月にHeinekenへ売却された。取得で発生したのれん933,142百万円は2021年12月期第2四半期に確定し、変動はなかった。オセアニア事業に配分されたのれんは2024年12月期末で1,380,398百万円である。

いつ何が起きたか 5件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2019年3月株主総会決議)

考察:買収を終えた先の三極と、承認の代償
考察

考察:買収を終えた先の三極と、承認の代償

CUB事業の取得は、2016年の西欧、2017年の中東欧に続く海外ビール買収の締めくくりにあたる。ゼロから販売網を築くのではなく、定着した現地最大手を丸ごと買い取り、その販路に自社のブランドを乗せる。国内でカルピスやニッカを取り込んできた発想を、欧州から豪州へと連ねた一連の判断だったと推察される。取得対価1,168,241百万円のうち933,142百万円がのれんとして立ったことは、買ったものの大半が有形の設備ではなく、現地に根づいた地位そのものであったことを示している。

もっとも、この規模を1年足らずで決済する条件は軽くなかった。ブリッジローン1兆1,850億円をまず借り、公募による新株発行67,189百万円と自己株式の処分76,288百万円、そして2080年満期の劣後特約付社債297,854百万円で組み替えていく——負債で買い、資本で戻すという手順が、そのまま買収の条件の一部になっている。加えて豪州競争法当局の承認は問題解消措置と引き換えで、取得したばかりのStella Artois等は半年余りでHeinekenへ渡った。買える機会には、手放す約束がついていた。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

アサヒグループHD:のれんと無形資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)
アサヒグループHD:のれんと無形資産の推移
(百万円) のれんのれん及び無形資産総資産 備考
2015年12月期 125,008223,4851,804,673 IFRSへ組み替えた比較年度。移行日ののれんは133,705百万円
2016年12月期 247,322499,4892,094,332 旧SABMillerの西欧事業を10月に連結した期
2017年12月期 737,9471,538,6793,346,822 中東欧5か国を4月に連結し、のれんが427,995百万円増えた
2018年12月期 705,0871,428,5433,079,315
2019年12月期 702,9301,398,4223,140,788 7月に株式売買契約を締結。取得は翌期のため数字はまだ動かない
2020年12月期 1,723,9432,701,9854,439,378 CUB事業を6月に連結し、のれんが933,142百万円増えた
2021年12月期 1,816,8622,819,6344,547,748 第2四半期に暫定的な会計処理が確定。のれんに変動はなかった
2022年12月期 1,966,9713,027,9294,830,344
2023年12月期 2,147,1393,283,9485,285,913
2024年12月期 2,203,4253,353,8965,403,405 オセアニア事業でのれんの減損は無く、商標権等1,500百万円を計上
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第93〜101期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第93〜101期(連結財政状態計算書、のれん及び無形資産)

アサヒグループHD:オセアニア事業の推移

オセアニア事業に配分されたのれん(百万円)
アサヒグループHD:オセアニア事業の推移
(百万円) オセアニア事業に配分されたのれんオセアニアセグメントの対外部売上収益オセアニアセグメント利益 備考
2019年12月期 67,726−− 取得前の豪州既存事業ぶん。セグメントは国際に含まれ区分が無い
2020年12月期 1,088,459−− CUB事業を6月に連結。オセアニアのセグメント区分はまだ無い
2021年12月期 1,165,801499,72362,536 2022年12月期の区分変更に伴い組み替えられた数値
2022年12月期 1,255,241580,84580,177 オセアニアセグメントとして開示された最初の期
2023年12月期 1,358,310649,51389,673
2024年12月期 1,380,398713,43681,844 2025年12月期からアジアパシフィックセグメントへ区分が変わる
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第97〜101期(のれん及び無形資産、事業セグメント)
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第97〜101期(のれん及び無形資産、事業セグメント)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 CUB Australia Holding Pty Ltd 持株会社。2020年8月にABI Australia Holdingから商号変更。他54社
事業の内容 ビール・サイダーの製造販売等 CarltonやGreat Northernなど豪州ビール市場のトップブランドを持つ
株式売買契約の締結日 2019年7月19日 AB InBevが豪州で保有する全事業を取得することで合意した
買収実行の先行条件 豪州の関連政府機関の承認 豪州競争法当局と豪州外国投資審査委員会の承認が得られず取得が延びた
取得日(企業結合日) 2020年6月1日 当初は2020年第1四半期を予定し、第2四半期へ変更された
企業結合の法的形式 現金を対価とした株式の取得
取得した議決権比率 100.00%
適時開示で公表した買収額 160億豪ドル 有価証券報告書【事業等のリスク】が過去の買収額として挙げた金額
取得対価 1,168,241百万円 全額を現金で支払った
取得関連費用 5,880百万円 販売費及び一般管理費で費用処理した
受け入れた資産合計 397,599百万円 流動資産54,404百万円、非流動資産343,195百万円
引き受けた負債合計 162,500百万円 流動負債45,971百万円、非流動負債116,528百万円
のれん 933,142百万円 2021年12月期第2四半期に暫定的な会計処理が確定し、変動はなかった
商標権の償却 主として38年の定額法 CUBの買収で認識した商標権は2021年12月期末で304,974百万円
取得資金のブリッジローン 1兆1,850億円 金融機関からの借入。社債と増資で返済に充てた
公募増資(新株式の発行) 67,189百万円 2020年9月14日払込。20,875千株、発行価格は1株3,357円
公募増資(自己株式の処分) 76,288百万円 2020年9月14日払込。25,300,000株を処分価額の総額で処分した
劣後特約付社債 297,854百万円 2020年10月15日発行、2080年10月15日満期。利払繰延条項が付く
問題解消措置 Stella Artois等5ブランドの売却 豪州競争法当局の承認に基づき、2021年1月5日にHeinekenへ売却した
取得日以降の売上収益 165,326百万円 営業利益は31,909百万円。連結は6月からの7か月にあたる
期首結合と仮定した売上収益 2,122,893百万円 営業損益152,286百万円。この概算は監査証明を受けていない
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第96期(2019年12月期)【追加情報】、第97期(2020年12月期)・第98期(2021年12月期)【企業結合】
出所:アサヒグループホールディングス 有価証券報告書 第96期(2019年12月期)【追加情報】、第97期(2020年12月期)・第98期(2021年12月期)【企業結合】
当時の取締役 8名

当時の取締役(2019年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書「第96期(2019年12月期)【追加情報】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書「第97期(2020年12月期)【企業結合】【重要な後発事象】【株式等の状況】【事業等のリスク】」
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書「第98期(2021年12月期)【企業結合】【のれん及び無形資産】」
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書「第97〜101期(のれん及び無形資産、事業セグメント)」

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