豪カールトン&ユナイテッド(CUB)の約1兆2000億円取得

欧州の次に豪州を選んだアサヒは、なぜ過去最大の巨費を投じ、そこでキリンと対峙したか

更新:

時期 2019年7月
意思決定者 小路明善 社長兼CEO
論点 縮む国内市場の外に、日本・欧州・豪州の三極でどう成長基盤を組み直すか
概要
2019年7月、アサヒはAB InBevから豪州最大のビール会社カールトン&ユナイテッドブルワリーズ(CUB)を約1兆2000億円で取得することで合意した。同社としては過去最大の買収で、2020年6月に取得を完了し、日本・欧州・豪州の三極体制を整えた経営判断である。
背景
国内ビール類の出荷は少子高齢化と若者のビール離れで14年連続の減少が続き、成熟した国内首位だけでは成長を描きにくくなっていた。アサヒは2016年と2017年に欧州で総額1兆円超を投じており、次の柱として先進国である豪州が残されていた。
内容
CUBは「ビクトリアビター」など多数のブランドを持ち、親会社AB InBevは豪州ビール市場で4割超のシェアを握っていた。アサヒはその販路で主力のスーパードライを拡販する狙いで、約9000億円を金融機関から借り入れて取得に充てた。
含意
豪州シェア2位は、2009年に現地のライオンネイサンを子会社化したキリンであった。CUB取得で日本ビールのトップ2が豪州でも対峙する構図となり、海外ビール買収シリーズの総仕上げが、そのまま長年の国内ライバルとの再戦の舞台になった。
筆者の見解

買い切った先の三極と、対峙するライバル

CUB取得は、2016年の西欧4社、2017年の中東欧5カ国に続く海外ビール買収シリーズの締めくくりにあたる。ゼロから販売網を築くのではなく、定着した現地最大手を丸ごと買い取り、その販路にスーパードライを乗せる。国内でカルピスやニッカを取り込んできたアサヒ独自の発想を、欧州から豪州へと連ねた一連の判断だったとみることができる。三極体制という言葉は、この三度の巨額買収が積み上がった結果として輪郭を得たものといえる。

もっとも、買い切った先で待っていたのが長年の国内ライバルであった点に、この買収の含みがある。国内で四半世紀にわたり首位を争ってきたアサヒとキリンが、成熟した国内を横目に、それぞれ海外へ活路を求め、豪州という同じ市場で再び向き合った。約2兆円へ膨らんだ有利子負債と1兆4000億円を超えるのれんを抱えながら、遠い南半球で挑む再戦が、投じた巨費に見合う成長へつながるのかは、なお見届けるべき問いとして残されているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

縮む国内と、欧州の次に残された豪州

国内のビール類出荷量は、少子高齢化と若者のビール離れを背景に14年連続で減っていた。アサヒは1987年のスーパードライで国内シェア首位を争う位置に立ったが、市場そのものが縮む以上、国内で固めたシェアの先に成長を描くのは難しくなっていた。世界を見渡しても、先進国では健康志向の高まりでビール消費が漸減しており、量を追う戦い方は行き詰まりつつあった[1]

そこでアサヒはここ数年、海外展開を急速に進めていた。海外で働く社員は7年前には全体の3割だったが、この時点では5割を超え、赤字だった海外事業は連結営業利益の4割を稼ぐまでになっていた。その原動力が2016年と2017年に相次いで行った欧州の超大型買収で、2年間で総額1兆1600億円超を投じ、欧州ビール12社を取り込んでいた。欧州の柱を築いたアサヒにとって、次の先進国市場として残っていたのが豪州であった[2]

決断

過去最大の1兆2000億円で豪州最大手を取る

2019年7月、アサヒは豪州最大のビール会社CUBを取得することで、ベルギーの親会社AB InBevと合意したと公表した。投じる金額は同社として過去最大となる約1兆2000億円で、2020年の第1四半期中に全株式を取得する計画であった。CUBは「ビクトリアビター」など数多くのブランドを持ち、AB InBevは豪州のビール市場で4割超のシェアを握っていた。豪州では輸入ビールなど高価格帯商品の消費が伸びており、幅広い商品群を持つCUBの販路は、主力のスーパードライを広げる足場になり得た[3][4]

この取得は、国内で成熟したアサヒが成長の場を海外へ移してきた流れの総仕上げでもあった。小路明善社長は、経営資源をスーパードライに集中させて高価格路線を明確にし、その海外展開を加速する方針を掲げていた。CUBを傘下に収めることで豪州展開へ踏み込む一方、2018年には中国・青島ビールの株式を現地企業に売却するなど、展開エリアを絞り込んでいた。欧州買収で得たペローニやピルスナー・ウルケルなどのブランドとスーパードライを軸に、日本・欧州・豪州の三極で稼ぐ形が、ここで輪郭を持った[5]

豪州でキリンと対峙し、財務の重みを背負う

豪州でシェア2位につけていたのは、ほかならぬキリンであった。キリンは2009年に豪ライオンネイサンを完全子会社化して現地展開してきており、CUB取得によって日本ビールのトップ2が豪州でも対峙する構図が生まれた。キリンは低価格帯の商品が多く、アサヒが取り込むCUBは高価格帯を含む幅広い品ぞろえを持つ。野村証券の藤原悟史氏は「現時点ではアサヒが有利」と分析しており、国内で長く争ってきた両社の競争が、南半球の市場へ持ち込まれた[6]

過去最大の買収には相応の負担が伴った。CUB取得に際してアサヒは約9000億円を金融機関から借り入れ、有利子負債は約2兆円に膨らむ見込みであった。事業から得られるキャッシュフローに対する借入の倍率を示すEBITDA有利子負債倍率も、約3倍から一時的に4倍へ悪化するとみられていた。買収で「のれん及び無形資産」は1兆4000億円を超えて膨らみ、国際会計基準の下でも計画どおりに収益を上げられなければ減損損失を計上する危うさを抱えた[7]

結果

三極体制の完成と、コロナ下での統合

取得は当初計画からずれ込み、2020年6月に完了した。最終的な取得額は約1兆1700億円となり、アサヒは日本・欧州・豪州の三極体制を整えた。ただ、始動の環境は厳しかった。CUBを傘下に入れた2020年12月期は新型コロナの直撃を受け、外食向けの需要が世界的に落ち込んだ。連結売上高は2兆277億円、親会社株主に帰属する当期純利益は928億円と、前期の1422億円から減り、巨費を投じた豪州事業は逆風のなかでの出発となった[8][9]

アサヒは組織統合を進め、CUBの強い販売網を生かした販売シナジーと、既存事業との組織統合によるコスト削減を収益改善の柱に据えた。豪州の外食市場は州ごとに差はあるものの、規制緩和とともに回復に向かうとみて、主力ブランドの底上げに加え、ノンアルコールビールやRTDといった新カテゴリーへの展開を掲げた。コロナ下で始まった統合は、買収時に想定したスーパードライ拡販とシナジーづくりが計画どおり進むかどうかに、その成否がかかっていた[10]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2019年10月19日号「激突! アサヒVS.キリン 「正反対」のビール戦略」
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書(連結・IFRS)
  • アサヒグループホールディングス 2020年12月期 決算説明会 質疑応答