中部電力 浜岡原発の基準地震動データ不正 再稼働申請の取り下げと、会長・社長の退任による経営体制の刷新
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2025年5月15日、原子力規制庁から浜岡原子力発電所3号機・4号機の新規制基準適合性審査に係る基準地震動の策定について調査を受けた。その対応の結果、地震動評価における代表波の選定が審査会合での説明内容と異なる方法や意図的な方法で実施されていた疑いが確認され、2026年1月5日、外部専門家のみで構成する特別調査委員会の設置を取締役会で決議した。
2026年9月11日に調査報告書を受領し、同月14日の臨時取締役会で、3号機・4号機の設置変更許可申請、4号機の工事計画認可申請および保安規定変更認可申請を取り下げることを決めた。あわせて代表取締役会長の勝野哲氏と代表取締役社長の林欣吾氏が9月30日付で退任し、10月1日付で安井稔氏が社長に就く。会長職は置かない。
- 背景
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浜岡原子力発電所は2011年5月に全面停止し、2014年2月から3号機・4号機の適合性審査を受けてきた。電気出力361万7,000kWは、火力発電事業をJERAへ移す直前の2018年度に発電設備全体の約10.8%を占めていた。停止による収支影響額は2025年度実績の燃料価格を前提に年間約2,400億円で、2026年3月期の連結営業利益2,300億円に並ぶ。
早期再稼働は経営目標として社内報の年頭挨拶でも繰り返し掲げられ、取締役会と原子力推進会議では再稼働スケジュールが定期的に議論された。2011年7月の取締役会は2012年6月頃までに基準地震動を確定させる工程を決議したが、以後も工程は繰り返し引き直され、全ての基準地震動が確定したのは2023年9月だった。
- 内容
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「断層モデルを用いた手法」の統計的グリーン関数法において、地震動の計算を多数回行い、定量的な基準によらず人為的に代表波を選定していた。対象の全225ケースのうち、平均値との残差が最小の候補から人為的に選ぶ方法が104ケース、残差最小でない結果まで候補を広げた方法が7ケース、加速度等の閾値を超えた結果を除外して選ぶ方法が63ケース、別のケースで使った入力値を流用した方法が34ケースにのぼる。
さらに、残差が最小の結果を代表波に選んだという、実際には行っていないことの証跡として事後的にバックデータを作成し、その一部を審査会合で提示して実態と異なる説明をしていた。波数積分法による評価結果の一部分を消去する処理を施した応答スペクトル図の提示もあった。
- 含意
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2019年10月と2021年1月の二度の内部通報、そして規制庁の照会という是正の機会がありながら、いずれも通報対象事実を主管する原子力土建部が自ら調査する体制のもとで生かされなかった。一度目の通報では、計算最短周期を審査会合資料に明記すべきだとする事務局と外部弁護士の意見に対し、主管部は「等」を付記するにとどめる案を示し、当時社長の勝野哲氏と副社長が、他の専門家の意見を得ることを条件にこれを了承した。その条件とされた意見を受領した事実は確認されていない。
原因として挙がったのは、安全性に影響はない・技術的には正しいとして行為を正当化する「独自の正当化理論」、審査の実態に対する経営層の理解の欠如、牽制機能の脆弱性である。原子力本部は原子力安全推進本部へ改称する。
いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
動かすための説明が、動かす資格を奪った
15年止まったままの発電所を動かすには、地震をどう見積もるかという、一義的な正解のない問いに答えを出さねばならない。時間をかけて正面から争うか、「仮にあるとすれば」という形で相手の前提に乗るか。中部電力が選んだのは後者だった。争えば審査は延び、年間2,400億円の重荷が続く。乗れば早く進む。その計算は経営として不合理ではない。だが相手の前提に乗ると決めた瞬間から、評価は「正しさ」ではなく「通るかどうか」で測られるようになる。多数回の計算から人為的に代表波を選ぶ操作も、選んだ後に選び方の証跡を作る作業も、その物差しの上では手続きに見えたのだろう。動かすために積み上げた説明が、動かす資格そのものを失わせた。
もっとも、この構図を現場の逸脱に収めることはできない。工程が遅れるたびに「当社の努力が足りないだけである」と叱責が向かった先は、規制当局の審査という、自社では動かせない相手だった。担当部署は達成できない工程を描き、描いた工程に合わせて資料を整える。二度の内部通報はその歪みを外へ出す機会だったが、通報された当の部署が自ら調べる体制のまま閉じられ、一度目は当時の社長が「等」の一字を足す決着を了承した。会長職を置かず、原子力本部を原子力安全推進本部へ改めるという今回の措置は、この一字を足せてしまった距離を詰められるかにかかっているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
業績の推移
経緯と対応
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 発端(規制庁照会) | 2025年5月15日 | 基準地震動の策定に関する調査を行う旨の連絡を受けた。外部からの情報提供が端緒 |
| 公表 | 2026年1月5日 | 審査会合での説明内容と異なる方法や意図的な方法で代表波が選定された疑いを公表 |
| 調査委員会の設置 | 2026年1月5日 | 取締役会決議。中部電力から独立した外部専門家のみで構成する |
| 調査の対象期間 | 2014年頃〜2025年 | 4号機の設置変更許可申請時当初から、規制庁照会への対応まで |
| 検討の対象とした事実 | 16件 | 代表波の選定など8件、事後的な証跡の作成など4件、通報・照会への対応4件 |
| 報告書の受領 | 2026年9月11日 | 開示版の公表は9月14日 |
| 申請の取り下げ | 2026年9月14日 | 臨時取締役会で決議。準備が整い次第、原子力規制委員会へ提出する |
| 取り下げる申請 | 設置変更許可など3件 | 3号機・4号機の設置変更許可、4号機の工事計画認可、保安規定変更認可 |
| 代表取締役の退任 | 2026年9月30日付 | 代表取締役会長の勝野哲氏、代表取締役社長の林欣吾氏。相談役の水野明久氏も退任 |
| 退任後の処遇 | 特別嘱託 | 3氏とも2026年10月1日就任。対外呼称は「特別顧問」 |
| 新社長 | 安井稔氏 | 2026年10月1日付で代表取締役社長 社長執行役員 CEO。会長職は置かない |
| 再発防止策の方向性 | 2026年9月14日 | 意識・行動の変革、組織風土の変革、ガバナンス・牽制機能の変革・強化の3本柱 |
| 原子力部門の改組 | 原子力安全推進本部 | 原子力本部から改称。保安規定改定の認可が前提。ガバナンス組織を2026年10月に新設 |
| 組織風土改革推進部 | 2026年10月 | 副社長執行役員の統括下に置く。執行役員が経営戦略本部の部長と兼務する |
| 地域対応の組織 | 静岡地域本部 | 2026年10月設置。浜岡地域事務所を原子力本部から移し、地域対応を一体で担う |
出所:中部電力「調査報告書(開示版)」(2026年9月11日付・特別調査委員会)、同「役員人事等について」「浜岡原子力発電所3号機・4号機の設置変更許可申請などの取り下げ」(2026年9月14日)
代表波の選定方法別のケース数
中部電力:代表波の選定方法別のケース数
| (ケース) | ケース数 | 備考 |
|---|---|---|
| 選定方法① 残差最小の候補から人為的に選定 | 104 | 2014年頃以降。20回の計算を1セットとし、各セットの残差最小から1個を選ぶ |
| 選定方法② 残差最小でない結果まで候補を広げる | 7 | 2018年以降。①で適当と考える代表波を見出せなかったケースで行われた |
| 選定方法③ 閾値の超過分を除外して選定 | 63 | 遅くとも2019年前半以降。プレート間地震の連動ケース(一体計算)が対象 |
| 選定方法④ 別ケースの入力値を流用 | 34 | 「不確かさ」や増幅を考慮するケースで、既採用の位相特性等を流用した |
- ①残差最小の候補から人為的に選定 50%
- ②残差最小でない結果まで候補を広げる 3%
- ③閾値の超過分を除外して選定 30%
- ④別ケースの入力値を流用 16%
出所:中部電力「調査報告書(開示版)」(2026年9月11日付・特別調査委員会)第4
浜岡原子力発電所の停止に伴う負担
中部電力:浜岡原子力発電所の停止に伴う負担
| (億円) | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 年間の収支影響額 | 2,400 | 運転停止による。2025年度実績の燃料価格を前提とした概算 |
| 2026年3月期の連結営業利益 | 2,300 | 年間の収支影響額とほぼ同じ規模にあたる |
| 運転停止以降の維持費用(累計) | 15,000 | 2011年5月の運転停止以降の累計 |
| 安全性向上対策工事の投資額(累計) | 2,800 | 2011年5月の運転停止以降の累計 |
出所:中部電力「調査報告書(開示版)」(2026年9月11日付・特別調査委員会)第2 / 中部電力 有価証券報告書 第102期(2026年3月期・連結損益計算書)
経営体制の異動
中部電力:経営体制の異動
| 異動前 | 異動後 | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 代表取締役社長 社長執行役員 CEO | 林欣吾 | 安井稔 | 林氏は9月30日付で退任し、10月1日付で特別嘱託。安井氏は取締役 専務執行役員 グループ経営推進部統括から昇格 |
| 代表取締役会長 | 勝野哲 | − | 9月30日付で退任し、10月1日付で特別嘱託。会長職は置かない |
| 相談役 | 水野明久 | − | 9月30日付で退任し、10月1日付で特別嘱託。特別嘱託の対外呼称は3氏とも「特別顧問」 |
| グループ経営推進部統括 | 安井稔 | 鍋田和宏 | 副社長執行役員 経営戦略本部長が兼ね、経営戦略本部 アライアンス推進部長も兼務する |
| 組織風土改革推進部の統括 | − | 佐々木敏春 | 副社長執行役員。秘書部・安全健康推進部・総務部・広報部・環境・立地部・人事部の統括に加わる |
| 組織風土改革推進部長 | − | 太田卓志 | 執行役員 経営戦略本部 部長が兼務する |
| 原子力ガバナンス推進部長 | − | 宮本文武 | 執行役員 原子力本部 副本部長が兼務する |
| 静岡地域本部長 | − | 植田光紀 | 常務執行役員 静岡支店長から。静岡県担当は続ける |
出所:中部電力「役員人事等について」(2026年9月14日)