中部電力電力カルテルの課徴金275億円:命令の取消訴訟を提起しながら、課徴金を特別損失へ計上した二正面の対応

更新:

時期 2023年3月
当時の社長 林欣吾
論点 カルテル認定への対応と信頼の回復
概要

2023年3月30日、中部地区等における特別高圧電力及び高圧電力の供給について、中部電力は独占禁止法に基づく課徴金納付命令を、子会社の中部電力ミライズは排除措置命令及び課徴金納付命令を、公正取引委員会からそれぞれ受領した。嫌疑は不当な取引制限である。

この命令により、2023年3月期に独占禁止法関連損失27,555百万円を特別損失へ計上した。一方で、事実認定と法解釈について見解の相違があるとして、同年9月25日に取消訴訟を提起している。

背景

立入検査は二度に及んだ。2021年4月13日は中部地区等の特別高圧電力・高圧電力の供給と、中部地区の低圧電力・都市ガス供給等が対象で、同年10月5日は中部地区の特別高圧電力・高圧電力・大口需要家向け都市ガス等に係る供給が対象となった。

2016年4月の電力小売全面自由化により、大手電力が地域を越えて互いの顧客を奪い合う市場が生まれていた。その競争の只中で問われたのが、競合他社との接触のあり方であった。

内容

命令の翌週にあたる2023年4月7日、コンプライアンス徹底策を公表した。柱は、コンプライアンス意識の深化、独占禁止法遵守の仕組みの強化、より良い組織風土の醸成、徹底策のPDCAの四つである。競合他社との懇親会等を禁じ、会社所定の方法以外での連絡をルールで封じたうえで、社内リニエンシー制度にあたる「独占禁止法違反行為等への処分・調査協力に関する規程」を定めた。

2024年3月4日には中部地区の大口需要家向け都市ガスの供給についても課徴金納付命令を受け、同日、徹底策の強化策を公表している。

含意

課徴金275億円は、2023年3月期の特別損失417億円のおよそ3分の2を占めた。同期の親会社株主に帰属する当期純利益は382億円で、課徴金と同じ規模の利益を一度に失った勘定になる。一連の命令を受けて、経済産業省などからは補助金交付等の停止と契約に係る指名停止等の措置も受けた。

2024年4月には法務・コンプライアンス部門をコンプライアンス本部として独立させ、チーフ・リーガル・オフィサーを置いている。命令を争うことと、命令を前提に体制を組み替えることとが同時に進んだ。

筆者の見解

争いながら、備える

この案件で中部電力が選んだのは、どちらか一方に賭けない構えであった。課徴金275億円は2023年3月期のうちに特別損失として落とし、財務上はその期で決着させている。同時に、事実認定と法解釈には見解の相違があるとして取消訴訟を提起した。訴訟の帰趨がどうであれ、課徴金を払う前提で数字を組み、命令が誤っているという主張は司法の場に預ける。争うことと備えることを切り分けたこの処理は、係争が長引く事案で会社が採りうる現実的な形だといえる。

もっとも、命令を争うことと、命令を前提に体制を組み替えることとは、社内で同じ向きを指しにくい。競合他社との懇親会の禁止も、所定の方法以外での連絡の禁止も、行為そのものが問題だったという理解の上に立つ規律である。2024年4月のコンプライアンス本部の独立とCLOの配置は、その規律を担う組織を執行の系統から引き離す措置であった。訴訟で何を主張するかとは別に、二度と疑いを持たれない仕組みを先に作る。含みを残したまま前に進むほかなかったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
立入検査(一度目) 2021年4月13日 中部地区等の特別高圧電力・高圧電力と、中部地区の低圧電力・都市ガス供給等が対象
立入検査(二度目) 2021年10月5日 中部地区の特別高圧電力・高圧電力・大口需要家向け都市ガス等に係る供給が対象
嫌疑 独占禁止法違反(不当な取引制限)
命令(特別高圧電力・高圧電力) 2023年3月30日 当社は課徴金納付命令、中部電力ミライズは排除措置命令及び課徴金納付命令
独占禁止法関連損失(電力) 27,555百万円 2023年3月期の特別損失。うち当社単体での計上額は20,183百万円
命令(大口需要家向け都市ガス) 2024年3月4日 中部地区が対象。中部電力ミライズは排除措置命令も併せて受領した
独占禁止法関連損失(都市ガス) 26百万円 2024年3月期の特別損失。うち当社単体での計上額は19百万円
命令に対する立場 事実認定と法解釈に見解の相違 公正取引委員会との間で相違があるとして、司法の公正な判断を求めることとした
取消訴訟の提起 2023年9月25日
行政上の措置 補助金交付等の停止・指名停止等 経済産業省などから受けた
業務改善命令の勧告 2023年6月19日 電力・ガス取引監視等委員会が、中部電力ミライズへの命令を経済産業大臣へ勧告
再発防止策 コンプライアンス徹底策 2023年4月7日公表。意識の深化・仕組みの強化・組織風土・PDCAの4本柱
行為ルールの整備 競合他社との接触ルールの運用強化 懇親会等の禁止徹底と、会社所定の方法以外での連絡の禁止をルール化した
内部通報制度の強化 独占禁止法違反行為等への処分・調査協力に関する規程 社内リニエンシー制度にあたる規程を制定した
再発防止策の強化 コンプライアンス徹底策の強化策 2024年3月4日公表。ガス販売組織で戦略・調達と営業を分け、牽制機能を強めた
組織の新設 コンプライアンス本部 2024年4月に法務・コンプライアンス部門を独立させ、CLOを配置した

出所:中部電力 有価証券報告書 第99期(2023年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】・第100期(2024年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】

中部電力:独占禁止法関連損失と連結業績

(百万円) 独占禁止法関連損失経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2018年3月期 128,53274,372
2019年3月期 112,92979,422
2020年3月期 191,803163,472
2021年3月期 192,209147,202
2022年3月期 △59,319△43,022 燃料価格の高騰と期ずれ差損により経常損失。立入検査を受けた翌期にあたる
2023年3月期 27,55565,14838,231 課徴金納付命令を受けた期。特別損失41,792のうち27,555が独占禁止法関連損失
2024年3月期 26509,295403,140 都市ガスの課徴金を計上。取消訴訟は同期の9月25日に提起した
2025年3月期 276,400202,087
2026年3月期 291,072227,795
2027年3月期 第103期は未到来
2028年3月期 第104期は未到来

出所:中部電力 有価証券報告書 第94〜102期(連結損益計算書・連結損益計算書関係)

中部電力:ミライズの業績

(百万円) 売上高セグメント利益 備考
2018年3月期 分社前。中部電力ミライズは2020年4月1日に小売電気事業を承継した
2019年3月期 分社前。報告セグメントに「ミライズ」の区分が無い
2020年3月期 2,604,24745,242 分社前の期を翌期有報が組み替えた値。セグメント利益は経常利益ベース
2021年3月期 2,357,01838,036
2022年3月期 1,966,812△83,461 市場価格の高騰が電源調達を直撃し、セグメント損失となった
2023年3月期 2,989,15164,851 排除措置命令と課徴金納付命令を受けた当事者。減価償却を定額法へ変更した期
2024年3月期 2,848,984203,836
2025年3月期 2,911,129117,079
2026年3月期 2,815,065137,990
2027年3月期 第103期は未到来
2028年3月期 第104期は未到来
ミライズの売上高とセグメント利益率
売上高(百万円)セグメント利益率(%)

出所:中部電力 有価証券報告書 第96〜102期(セグメント情報)

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出典・参考
  • 中部電力 有価証券報告書「第99期(2023年3月期)【事業等のリスク】(7)コンプライアンス」
  • 中部電力 有価証券報告書「第99期(2023年3月期)【連結損益計算書関係】独占禁止法関連損失」
  • 中部電力 有価証券報告書「第100期(2024年3月期)【事業等のリスク】(7)コンプライアンス」
  • 中部電力 統合報告書「中部電力グループレポート2023「社会的信頼の高みを目指して」」
  • 中部電力 統合報告書「中部電力グループレポート2024「独占禁止法遵守に向けた取り組み」」

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