保険料調整事案と業務改善命令(2023年・東京海上HDの決断)

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論点業界慣行の解消にどこまで踏み込むか
東京海上HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
子会社の独占禁止法違反による処分と業界慣行の解消2023年12月26日、金融庁が東京海上日動火災保険に保険業法に基づく業務改善命令を発した。独占禁止法に抵触すると考えられる行為および同法の趣旨に照らして不適切な行為と、その背景にある態勢上の問題が認められたことによる。同社は深く反省するとともに再発防止策の策定等に取り組み、2024年2月29日付で業務改善計画書を金融庁へ提出した。

何をなぜ決めたか:子会社の独占禁止法違反による処分と業界慣行の解消

概要

2023年12月26日、金融庁が東京海上日動火災保険に保険業法に基づく業務改善命令を発した。独占禁止法に抵触すると考えられる行為および同法の趣旨に照らして不適切な行為と、その背景にある態勢上の問題が認められたことによる。同社は深く反省するとともに再発防止策の策定等に取り組み、2024年2月29日付で業務改善計画書を金融庁へ提出した。

2024年11月1日には、不当な取引制限の禁止に違反する行為を行っていたとして、公正取引委員会から排除措置命令および課徴金納付命令を受けている。

背景

東京海上日動は、適正な競争を阻害してきた業界慣行を長く抱えてきた。保険料調整事案は、その業界慣行等に起因して発生している。2023年度には金融庁から保険業法に基づく処分を受けるに至った。

持株会社は、グループ会社における保険料調整事案等の不祥事案等が発生したこともあり、2024年4月1日付で内部統制委員会を改組してグループ監査委員会を設置した。グループの法令等遵守態勢および内部統制・ガバナンス態勢のより一層の強化・充実を図るためである。

内容

東京海上日動は2024年度から中期経営計画「Re-New(新しい会社につくりかえる)」を開始し、組織風土の改革、適正な競争を阻害する業界慣行等の解消、ガバナンス態勢の強化、顧客の視点に立った業務プロセスの抜本的な見直しに取り組んだ。営業目標の設定方法の見直しや不適切な本業協力の解消も、この枠組みに置かれている。

政策株式についても、適正な競争実施のための環境整備という新たな目的を加え、2029年度末までに残高をゼロにする取組みへ着手した。

含意

再発防止の取組みのなかで自浄作用を発揮して発見した同根同軸の不適切事案として、情報漏えい事案が明るみに出た。個人情報保護法および不正競争防止法に抵触するおそれがある行為と、その背景にある態勢上の問題が認められ、2025年3月24日付で二度目の業務改善命令を受け、同年5月9日付で業務改善計画書を提出している。

国内損害保険事業の元受正味保険料は、命令を受けた2024年3月期に火災保険が5,372億円・前期比1.19%増と伸びが鈍り、翌2025年3月期には5,867億円・同9.21%増へ戻した。

いつ何が起きたか8件
当時の取締役14名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:態勢が名指しされた処分
考察

考察:態勢が名指しされた処分

この一件で問われたのは、保険料の水準そのものよりも、価格を他社と合わせることを異常と感じなくなっていた組織の感覚だっただろう。行政処分の根拠に挙がったのは独占禁止法に抵触すると考えられる行為と、その背景にある態勢上の問題であり、個々の担当者の逸脱ではなく態勢が名指しされた。持株会社が内部統制委員会をグループ監査委員会へ改組したのも、個別の不正を潰すためではなく、各社の再発防止策が実際に回っているかを確かめる機能を取締役会の直下へ置き直す動きだったと読める。

もっとも、慣行の解消がどこまで進んだのかを外から測る手立ては乏しい。課徴金の額は開示されず、業績についても本件を理由とした見直しは行っていないとされたままである。火災保険の元受正味保険料が翌期に9.21%伸びたことは、料率改定が通るようになった証しとも、競争のかたちが変わった証しとも読める。むしろ注目すべきは、再発防止の過程で自ら掘り当てた情報漏えい事案により二度目の命令を受けた経緯のほうだろう。不都合を自分で見つけられる状態には戻りつつある、とみてよいのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る2表

数字で見る

図と表

東京海上HD:国内損害保険事業の元受正味保険料(含む収入積立保険料)

火災保険(百万円)火災保険以外(百万円)火災保険率(%)
東京海上HD:国内損害保険事業の元受正味保険料(含む収入積立保険料)
(百万円)火災保険海上保険元受正味保険料合計備考
2019年3月期416,84867,6632,676,786
2020年3月期466,56871,5192,763,830
2021年3月期490,42367,9582,754,954
2022年3月期495,04180,4312,778,476
2023年3月期530,93295,3802,846,830
2024年3月期537,26493,8482,869,651業務改善命令を受けた期。火災保険は前期比1.19%増にとどまった
2025年3月期586,75396,4073,004,031火災保険は前期比9.21%増。排除措置命令および課徴金納付命令はこの期
出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第17〜23期(2019年3月期〜2025年3月期)【業績等の概要】国内損害保険事業の元受正味保険料。諸数値はセグメント間の内部取引相殺前
出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第17〜23期(2019年3月期〜2025年3月期)【業績等の概要】国内損害保険事業の元受正味保険料。諸数値はセグメント間の内部取引相殺前

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
業務改善命令2023年12月26日金融庁が東京海上日動へ保険業法に基づき発出した
処分の理由独占禁止法に抵触すると考えられる行為同法の趣旨に照らして不適切な行為と、その背景にある態勢上の問題も認められた
業務改善計画書の提出2024年2月29日持株会社は計画の実効性および十分性を取締役会で確認および検証する
排除措置命令・課徴金納付命令2024年11月1日公正取引委員会が独占禁止法(不当な取引制限の禁止)に基づき発出した
課徴金の額会社の公表資料に記載なし有価証券報告書は命令を受けた事実のみを記し、金額を記していない
命令を受けた後の追加対応独占禁止法に関する研修等排除措置命令の内容を踏まえ、改めて実施するなどの追加的な対応に取り組んだ
情報漏えい事案の業務改善命令2025年3月24日再発防止の取組みのなかで自浄作用を発揮して発見した同根同軸の不適切事案
情報漏えい事案の根拠法個人情報保護法・不正競争防止法両法に抵触するおそれがある行為と、同法の趣旨に照らして不適切な行為
情報漏えい事案の計画書提出2025年5月9日金融庁へ提出し受領された。全社的な調査と情報の取扱いに関する研修等も実施
持株会社の態勢の組み替え2024年4月1日内部統制委員会を改組し、取締役会委員会としてグループ監査委員会を設置した
再発防止の枠組み中期経営計画「Re-New」2024年度から。営業目標の設定方法の見直しや不適切な本業協力の解消を含む
業界慣行への対応政策株式の残高を2029年度末までにゼロ適正な競争実施のための環境整備という新たな目的を加え、削減を加速した
業績への影響本件を理由とした業績見直しは行っていない2023年11月時点。特別調査委員会による調査が継続していた段階の判断
出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第22期(2024年3月期)・第23期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】 / 東京海上ホールディングス 2023年度第2四半期決算電話会議 質疑応答要旨(2023年11月17日)
出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第22期(2024年3月期)・第23期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】 / 東京海上ホールディングス 2023年度第2四半期決算電話会議 質疑応答要旨(2023年11月17日)
当時の取締役14名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 東京海上ホールディングス 決算電話会議 質疑応答要旨「2023年度第2四半期決算電話会議 質疑応答要旨」
  • 東京海上ホールディングス 有価証券報告書「有価証券報告書 第22期(2024年3月期)」
  • 東京海上ホールディングス 有価証券報告書「有価証券報告書 第23期(2025年3月期)」

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