事業のデジタル化
日本企業が情報機器へ支出する理由は、長く社内にあった。1970年代後半にマイコンが注目されたのは、知識集約型の組織への転換を促す技術と見られたからで、代替の対象は事務と作業であった。1980年前後には、人手で行っていた集計を機械へ移し、データ処理から意思決定の支援へ用途を広げる考え方が現れた。社内の稟議を通しやすいのも、事務と作業を機械に置き換える省力化の投資であった。削減できる人件費と在庫は事前に試算できるが、販売方法を変える投資の効果は試算できないためである。
セコムは1962年の創業から巡回警備をオンライン監視へ置き換え、DCMホールディングスは1983年にIBMの業務用コンピュータと物流センターを組み合わせた。いずれも、人が巡回していた現場と、人が数えていた在庫を機械に委ねる投資である。省力化と並んで、蓄積したデータを経営判断に用いる投資も進んだ。セリアは1997年に全店へリアルタイムPOSを導入し、データに基づいて品揃えを決めた。ワークマンは2014年にデータに基づく経営へ移行し、勘に依存した発注を廃している。
転機は1980年代末で、戦略情報システムが掲げられると、情報システムはシェアを獲得する手段と見なされた。用途は費用を削減する機械から、売上を獲得する機械へ移った。さらに1990年代末からのインターネットの普及で、対象は販売方法そのものへ広がった。東日本旅客鉄道のSuicaは、改札の処理を駅の外の決済へ広げた。
やがて、最初の三十年に蓄積したシステムそのものが次の転換の対象になる。事務と物流を委ねたシステムは資産として残り、その刷新は新規の導入より大規模になる。みずほフィナンシャルグループは勘定系システムの刷新に4,000億円台半ばと35万人月を投じ、江崎グリコは342億円の基幹システム移行で7カ月の出荷停止を招いている。導入の失敗では業務は止まらないが、刷新の失敗は出荷を止める。日立製作所が2021年に1兆円規模でGlobalLogicを買収したのは、他社の基幹システムの刷新を受注するためである。自社の事務を機械へ委ねる支出は、半世紀を経て、他社の転換を請け負う事業へ変わった。
財務諸表のどこを見るか
無形固定資産のソフトウェアと、その前段にあるソフトウェア仮勘定の残高を並べる。仮勘定は開発中の投資額そのもので、稼働の年に本勘定へ振り替わるため、いつ何を作っていたかが残高の動きに出る。次に償却年数と償却方法を注記で確かめる。5年で償却する会社と10年の会社では、同じ投資でも損益の見え方が違う。稼働後は特別損失のソフトウェア除却損・減損損失を見て、作り直しがあったかを判じる。設備投資額の内訳と、事業等のリスクのシステム障害に関する記載も併せて読む。
2020年代
2010年代
2000年代
1990年代
1980年代
1970年代
1960年代
事業モデル転換のほかの論点
- 祖業の転換242
- 収益モデルの転換146
- 販路の転換96
- プラットフォームの構築67