BluStellar戦略への転換と再成長——ハード売り切りからの脱却

危機で守りに徹した会社は、どう再び攻めへ転じようとしたか——脱ハードと社会価値創造への事業モデル転換

更新:

時期 2021年4月
意思決定者 森田隆之 社長
論点 事業モデルの転換と再成長
概要
「捨て続けた10年」で祖業周辺を整理し国内IT事業へ集中したNECが、2020年6月就任の森田隆之社長のもとでハードの売り切りビジネスから脱却した戦略。2021年4月発表の2025中期経営計画を出発点に、DX・生成AI・セキュリティを束ねる価値創造モデル「BluStellar」を2024年5月に公表し、社会価値と経済価値の同時実現を掲げた。2020年代を通じて固まった面的な事業モデルの再設計にあたる。
背景
2009年3月期に上場後最大の2966億円の連結赤字を計上したNECは、以後10年をかけて半導体・パソコン・携帯電話など祖業周辺を切り離し、国内IT中心のポートフォリオへ縮んだ。赤字は止まったものの売上規模は縮小したままで、新しい成長の柱は見えていなかった。
内容
森田隆之社長は、個別商材を売り切るSI型から、業種に共通する課題解決のシナリオを束ねて提案するオファリング型への転換を進めた。2024年5月30日に価値創造モデル「BluStellar」を公表し、システムインテグレーターから「Value Driver」への転身と、DXを軸に生成AI・セキュリティ・グローバルの三位一体で成長を実現する方針を掲げた。
含意
2025中期経営計画は4年をかけて完走し、2025年3月期には売上収益3兆4234億円・営業利益2565億円と過去最高水準の営業利益に達した。発表の翌日に14%下落した株価が映した市場の懐疑は事後的に覆り、2025年10月のCSG買収など、守りから攻めへと転じる段階に入った。
筆者の見解

危機で守った会社が、攻めへ転じるということ

この判断の中心にあるのは、危機に追われて守りに徹した会社が、その守りの果てに再び攻めへ転じられるのか、という問いである。NECは10年をかけて祖業周辺を手放し、国内IT事業へ縮むことで赤字を止めた。BluStellar戦略は、その縮んだ体から、売り切りではなく課題解決を売る事業モデルを立ち上げ直す試みであった。守りが生んだ身軽さを、攻めの資源へ組み替えられるかどうかに、この戦略の成否がかかっていたとみることができる。

もっとも、社会価値と経済価値を同時に高めるという掲げ方が、どこまで実体を伴うのかは、なお見えにくい。DX・生成AI・セキュリティを束ねる構想が過去最高益として結実した一方で、生成AIの競争は世界規模で速く、束ねた強みが持続するとは限らない。守りに徹した20年ののち、NECがどんな攻めを選ぶのか——BluStellar戦略とその後のCSG買収は、危機を生き延びた会社が次に何を賭けるのかという、今日的な問いにつながっている。断定するにはなお早いその答えを、これからの中期経営計画が映していくとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

祖業周辺を整理し国内IT事業へ集中した後で

NECが2020年代の再設計に入る前提には、10年をかけた守りの構造改革があった。2009年3月期、リーマンショック後の需要蒸発と構造改革費用が重なり、連結最終損益は上場後最大の2966億円の赤字に沈んだ。以後の10年間、同社は半導体・パソコン・携帯電話など祖業周辺を次々と切り離し、国内IT事業を中心とするポートフォリオへ縮んでいった。かつてC&Cの名のもとに広げた事業領域を、逆向きにたたみ直す10年であった[1][2]

守りの改革は赤字を止めたものの、売上規模は縮んだままで、次の成長の柱は見えていなかった。2020年6月に社長へ就いた森田隆之社長は、残る構造改革を仕上げつつ新しい柱を探す役回りを負った。2021年4月、森田社長体制は2025中期経営計画を発表する。従来型の構造改革とDX・AI・セキュリティへの先行投資を同時に走らせる二段構えであったが、発表の翌日に株価は14%下落した。先行投資で目先の利益が細ると市場は読み、20年以上にわたり計画と下方修正を繰り返してきた会社への信認は薄かった[3][4]

決断

ハードの売り切りからの脱却

森田社長が事業モデルの組み替えを急いだ背景には、危機の記憶があった。森田社長は後のインタビューで、構造改革に踏み切った最も大きな理由を「NECが倒産するかもしれないほどの経営危機に直面したこと」と振り返っている。装置やシステムを一度売って終える売り切り型のビジネスでは、価格競争にさらされて利益率が上がらず、景気の波を受けるたびに収益が揺れた。祖業周辺を手放して身軽になったNECに残されたのは、国内IT事業の稼ぐ力そのものをどう引き上げるかという課題であった[5]

売り切りからの脱却は、2024年5月に一つの旗印にまとまった。NECは同月30日、これまでDX事業の共通基盤としてきた「NEC Digital Platform」を発展させ、価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」として公表する。コンサルティングから開発・運用までを一貫して担い、システムを請け負うインテグレーターから、顧客の事業成長そのものを牽引する「Value Driver」への転身を掲げた。森田社長は、高い営業利益と成長率を実現してきたDX事業を、「お客さまと社会の成長を実現するもの」へ引き上げると述べた[6]

社会価値と経済価値の同時実現

BluStellarに込めた狙いは、単なる商材ブランドの刷新にとどまらなかった。森田社長は、この戦略によって「社会価値と経済価値を同時に高める」ビジネスへ転じると宣言する。個別の製品を売り切るのではなく、業種に共通する課題解決のシナリオを束ね、顧客が気づいていない課題まで掘り起こして解決する設計である。生成AIで社会課題の解決に貢献するという語り口は、収益と社会性を切り離さずに追う立場を示していた[7]

戦略の柱として森田社長が挙げたのは、「DXを軸に、生成AI・セキュリティ・グローバルの三位一体で成長を実現する」という組み立てであった。NECは自社開発の生成AI「cotomi」を業務領域へ組み込み、上流のコンサルティングから入ってDX需要を取り込んだ。2024年11月の時点で、森田社長はBluStellar関連の2025年度売上目標を4900億円、うち生成AI単体で約500億円に置くと語り、ブランド化がもたらした反響の大きさを「うれしいサプライズ」と述べた[8][9]

結果

2025中計の完走と過去最高益

市場の懐疑をよそに、2025中期経営計画は4年をかけて完走した。2024年3月期の連結売上収益は3兆4772億円・営業利益1880億円、2025年3月期は売上収益3兆4234億円・営業利益2565億円と、過去最高水準の営業利益に達した。営業利益率はおよそ7.5%まで戻り、2009年の赤字から16年を経て、国内IT中心のポートフォリオに見合う稼ぐ力にようやくたどり着いた。構造改革と先行投資を同時に走らせた二段構えが、4年越しに収益へ表れた[10]

発表の翌日に14%下げた株価が映した懐疑は、事後的に覆った。森田社長は決算説明会で、「2021年に2025中計を発表した翌日に株価が14%下落しましたが、挫けずにしっかりと構造改革と先行投資を実施したのが現在に活きている」と振り返っている。守りに徹してきたNECは、2025年10月29日に米CSG Systemsを約4417億円で買収すると発表し、10年以上続けた事業の切り離しから、北米企業を買い増す攻めの段階へ入った。過去最高益が、次の一手を支える裏づけとなった[11][12]

出典・参考