基幹システムの全面移行(2024年・江崎グリコの決断)

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論点 基幹刷新を一括で行うか段階で行うか
江崎グリコ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
342億円を投じた入れ替えが招いた、チルド商品の出荷停止と75億円の営業減益

何をなぜ決めたか:342億円を投じた入れ替えが招いた、チルド商品の出荷停止と75億円の営業減益

概要

2024年4月、調達・生産・物流・ファイナンスなどの情報を統合する基幹システムへ全面的に移行した判断。目的はバリューチェーンの構築と経営の迅速な意思決定であった。切り替えた際に起きたシステム障害で、チルド商品は全国の物流センターでの出荷業務に遅滞が生じ、取引先に遅配や欠配が出た。

出荷業務は一時停止し、6月から段階的に再開したが、障害前の全品出荷の状態に戻ったのは11月5日の出荷分であった。

背景

新しいシステムが対象としたのは調達・生産・物流・ファイナンスという主要な業務で、移行にあわせてデータの移行と業務プロセスに係る内部統制も変更している。設備計画では江崎グリコ本社ほかを所在地とする全社(共通)の設備に区分され、特定の事業ではなく会社全体にかかわる投資であった。

内容

着手は2019年12月で、投資予定金額の総額は34,200百万円。2023年12月期末までに27,180百万円を自己資金で支払い、完了予定は2024年3月としていた。切り替え後、チルド商品では物流センターでの出荷に関するデータの不整合などが起き、想定を超える受注品目数に対して処理が間に合わず、出荷業務を一時的に止めた。原因究明の調査は、客観的な立場の法律事務所等の協力の下で進めるとした。

含意

2024年12月期の売上高は331,129百万円で、当初計画の351,000百万円を19,871百万円下回った。営業利益は11,065百万円と前期から7,556百万円減っている。悪化が集中したのは乳業事業で、売上高は69,675百万円から56,077百万円へ19.5%減り、セグメント損益は529百万円の利益から6,368百万円の損失へ転じた。

原料・製品の廃棄費用や補償費用などの追加費用6,403百万円は、システム障害対応費用として特別損失に計上した。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2024年3月株主総会決議)

考察:止まったのは、つなげようとした場所であった
考察

考察:止まったのは、つなげようとした場所であった

この判断の中心にあるのは、調達から財務までの主要業務を一本の仕組みに載せ直すという構想であった。34,200百万円という投資予定金額は、対象を主要業務の全域に広げたことの裏返しでもある。つなげる範囲を広げるほど、切り替えの時点で一度に動かす業務も増える。止まったのが物流センターの出荷という、受注と在庫と配送が交わる結び目であった点に、この移行の性格が表れているだろう。

もっとも、傷は一年で閉じてはいない。乳業事業の売上高は2025年12月期に66,492百万円まで戻った一方、セグメント損益は7,145百万円の損失と前期よりさらに深くなっている。新基幹システムの移行は監査上の主要な検討事項に選ばれ、データ移行の正確性から出荷再開時の復旧状況までが検証の対象となった。それでも障害の年度の有価証券報告書の時点で、原因究明は法律事務所等の協力による調査の途中とされ、何がどう失敗したのかは会社の言葉ではまだ語られていない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

江崎グリコ:乳業事業の推移

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
江崎グリコ:乳業事業の推移
(百万円) 売上高セグメント利益セグメント資産 備考
2019年12月期 67,0322,38629,574 決算期変更により2019年4月1日から12月31日までの9か月
2020年12月期 83,4452,52227,020
2021年12月期 79,8922,09526,690
2022年12月期 66,01626738,914
2023年12月期 69,67552950,993
2024年12月期 56,077△6,36861,293 チルド商品の出荷停止で19.5%の減収。当初計画72,500に対し56,077
2025年12月期 66,492△7,14558,411 出荷停止の反動で18.6%の増収。売上原価率の上昇で損失は拡大
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期(セグメント情報)
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期(セグメント情報)

江崎グリコ:連結業績と特別損失の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
江崎グリコ:連結業績と特別損失の推移
(百万円) 売上高営業利益特別損失合計 備考
2019年12月期 288,18715,6054,087 決算期変更により2019年4月1日から12月31日までの9か月
2020年12月期 344,04818,5231,265
2021年12月期 338,57119,3071,820
2022年12月期 303,92112,8453,229
2023年12月期 332,59018,6221,792
2024年12月期 331,12911,0657,008 特別損失にシステム障害対応費用6,403を計上。営業利益は7,556の減益
2025年12月期 361,3908,7365,604 特別損失は減損損失3,399と製品回収関連費用1,340が主。増収だが営業減益
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期(連結損益計算書)
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期(連結損益計算書)

移行と障害の条件

移行と障害の条件
科目 概要 備考
対象システム 調達・生産・物流・ファイナンスを統合する基幹システム 全社(共通)の設備として計上。会社名は江崎グリコ、所在地は本社他(大阪市西淀川区他)
投資予定金額 34,200百万円 2023年12月期末時点の既支払額は27,180百万円。資金調達方法は自己資金
着手及び完了予定 2019年12月着手・2024年3月完了予定 完成後の増加能力の記載はない。第120期では重要な設備の新設等に特記すべき事項なし
全面移行 2024年4月 調達・生産・物流・ファイナンスといった主要な業務を対象とする新システムへの全面的な移行
障害の内容 チルド商品の出荷業務を一時停止 全国の物流センターでの出荷業務に遅滞が生じ、取引先に遅配や欠配が発生した
障害の中身 出荷データの不整合と受注品目数の超過 物流センターでの出荷に関するデータの不整合、想定を超える受注品目数への処理の遅れ
出荷再開 2024年6月から段階的に再開 全品の出荷再開は当連結会計年度(2024年12月期)中となった
売上高への影響 331,129百万円(当初計画351,000) 乳業事業は当初計画72,500に対し56,077。連結では前期比0.4%の減収
営業利益への影響 11,065百万円(当初計画19,000) 前期比7,556百万円の減益。修正後計画14,000も2,934百万円下回った
システム障害対応費用 6,403百万円 原料・製品廃棄費用、補償費用等。特別損失に計上し同名の引当金を設定した
原因究明 法律事務所等の協力の下で調査 客観的な立場の法律事務所等の協力の下で原因究明の調査を実施中(第120期の記載)
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第119期(2023年12月期)【設備の新設、除却等の計画】・第120期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【連結損益計算書】
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第119期(2023年12月期)【設備の新設、除却等の計画】・第120期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【連結損益計算書】
当時の取締役 8名

当時の取締役(2024年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 江崎グリコ 有価証券報告書 第120期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 江崎グリコ 有価証券報告書 第120期(2024年12月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • 江崎グリコ 有価証券報告書 第120期(2024年12月期)【連結損益計算書関係】
  • 江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期(セグメント情報)
  • 江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期(連結損益計算書)
  • 江崎グリコ 適時開示「当社グループにおけるシステム障害および今後の見通し(通期連結業績予想の修正)について」
  • 江崎グリコ 適時開示「当社基幹システム障害に伴うチルド商品(冷蔵品)の全品出荷再開に関するご報告」
  • 江崎グリコ 有価証券報告書「第119期(2023年12月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 江崎グリコ 有価証券報告書「第120期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【連結損益計算書】」
  • 江崎グリコ 有価証券報告書「第120期(2024年12月期)独立監査人の監査報告書【監査上の主要な検討事項】」
  • 江崎グリコ 有価証券報告書「第121期(2025年12月期)」

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