江崎グリコ342億円を投じた基幹システムの全面移行と、7カ月に及んだチルド商品の出荷停止
- 概要
- 2024年4月3日、江崎グリコが調達・生産・物流・財務の情報を統合する新基幹システムへ全面移行した判断。切り替え直後に障害が起き、4月14日からチルド食品(冷蔵品)の出荷が止まり、全品の出荷再開は11月5日まで7カ月を要した。
- 背景
- 2015年のグリコ乳業の吸収合併後もシステムは分かれたまま残り、調達から財務までの情報がつながらなかった。経済産業省がレガシーシステムの限界を『2025年の崖』と呼び、SAPの標準サポート終了も迫るなかでの刷新であった。
- 内容
- 2019年12月に着手し、投資予定総額342億円・完了予定2024年3月として構築を進めた。当初は2022年の稼働を予定していたが1年以上遅れ、投資額も膨らんだ。移行は主要業務を一度に切り替える方式で実施された。
- 含意
- 出荷停止は17ブランド82品目と、キリンビバレッジから受託する37品目に及んだ。2024年12月期は営業利益が75億円減り、システム障害対応費用64億円を特別損失に計上した。原因の検証結果は公表されていない。
筆者の見解
止まったのは、つなげようとした場所であった
この判断の中心にあるのは、合併で分かれたままだった業務を一本の仕組みへ束ね直すという、それ自体は避けにくい課題であった。調達から財務までを一つのシステムに載せる構想は、人手で埋めてきた継ぎ目をなくす方向を向いている。342億円という金額は野心の大きさに見合う一方、稼働の遅れとともに膨らんだ数字でもあった。二度目の延期を選べば費用はさらに増え、選ばなかったことで7カ月の出荷停止を招いた。どちらの道にも代償が置かれていたなかで、江崎グリコは前へ進むほうを選んでいる。
つなげる範囲を広げるほど、切り替えの当日に一度で動かす業務も増える。止まったのが物流センターの出荷という、つなげようとした結び目そのものであった点に、この移行の性格が表れているとみられる。特別損失64億円と営業利益75億円の目減りは有価証券報告書に記録され、監査法人は移行の検証を主要な検討事項として書き残した。一方で何がどう失敗したのかは社外秘の内側にとどまり、プリンが店頭から消えた事実は誰もが覚えているのに、その理由だけが公表されないまま社名だけが業界の教訓として流通している。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
- 江崎グリコ「当社グループにおけるシステム障害および今後の見通し(通期連結業績予想の修正)について」(2024年5月8日)
- 江崎グリコ「当社基幹システム障害に伴うチルド商品(冷蔵品)の全品出荷再開に関するご報告」(2024年12月6日)
- 江崎グリコ 2024年12月期 第3四半期決算短信(2024年11月6日)
- 江崎グリコ 有価証券報告書(2023年12月期)
- 江崎グリコ 有価証券報告書(2024年12月期)
- ITmedia NEWS(2024年7月19日)