三菱商事 チリ銅山アングロスールの減損 約4,200億円で取得した銅権益を、市況低迷のなかで2,712億円減損した

更新:

時期 2011年11月
当時の社長 小林健
論点 資源投資と市況リスク
何をなぜ決めたか
概要

三菱商事は2011年11月10日、チリ国銅資源権益保有会社アングロ・アメリカン・スール社の株式24.5%を、53.9億米ドル(約4,200億円)で取得した。アングロ・アメリカン社からの打診を受けたもので、ロスブロンセス銅鉱山、エルソルダド銅鉱山、チャグレス銅製錬所と大型の未開発鉱区を持つ資産である。

だが銅市況の低迷が続き、2016年3月期に中長期の銅価格見通しを引き下げた結果、持分法で会計処理される投資として271,194百万円の減損損失を持分法による投資損益を通じて計上した。所有者に帰属する当期純利益は1,494億円の損失となった。

背景

優良資源事業投資の拡大と、持続的に成長可能な資源ポートフォリオの拡充を重点分野に位置付け、権益の積み増しを続けていた。チリではエスコンディダ銅鉱山8.25%、ロスペランブレス銅鉱山5%、ペルーではアンタミナ銅鉱山10%を保有し、3プロジェクト合計の年間持分銅生産量は約14万トンだった。

アングロスール社は2011年11月にロスブロンセス銅鉱山の拡張工事を終え、2012年中のフル生産で年間約44万トンとなる見通しだった。株式取得により、三菱商事の銅の年間持分生産量は約25万トンへ引き上がる計算になる。

内容

取得は三菱商事が100%出資する連結子会社MC RESOURCE DEVELOPMENT LTD.(英国ロンドン)を通じて行った。その後の出資比率は、アングロ社グループが50.1%、チリ国営コデルコ社と三井物産の合弁会社が29.5%、三菱商事グループが20.4%となり、取得額は45.1億米ドルと記載される。24.5%から20.4%へ変わった経緯は有価証券報告書に記載がない。

投資には持分法を適用しており、持分法で会計処理される投資として減損テストの対象となる。生産・開発計画が長期に及ぶため、短期の価格動向より中長期の価格見通しが評価を左右する。

含意

減損後も撤退はしていない。帳簿価額は2017年3月期の約1,800億円から2021年3月期の約1,500億円まで下がり、2020年3月期にはチリ国M.C. Inversiones Limitadaへ株式を移管して一過性利益767億円を計上した。アングロスール社の銅生産量は2015年の約44万トンから2025年には約21万トンまで減少している。

一方、2025年9月にはコデルコ社と、隣接するアンディナ鉱山との一体操業で最終合意した。2026年3月期には事業環境の変化を踏まえて53,193百万円の減損損失を戻し入れ、帳簿価額は216,544百万円となっている。

いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
筆者の見解

資源投資の光と影

ブルネイLNGとチリ銅山は、同じ事業投資の光と影である。資源に資本を投じて権益を握るという発想は変わらず、違ったのは投じた時点の価格だった。銅価が高値をつけた2011年に53.9億米ドルを払い、価格が崩れた2016年に2,712億円を落とした。権益は買った瞬間に価値が決まるのではなく、その後の数十年の価格見通しで測り直される。減損テストが見るのは短期の値動きではなく中長期の価格見通しであり、だからこそ一度その見通しを下げると、損失は一度に大きく出る。長く持てることは資源事業の強みだが、見通しが下がれば、その強さはそのまま減損の重さに変わるのだろう。

もっとも、この投資は失敗として閉じてはいない。減損後も三菱商事はチリから退かず、株式を現地の中核会社へ移し、隣接するアンディナ鉱山との一体操業でコデルコ社と最終合意した。2026年3月期には事業環境の変化を踏まえて減損損失の一部を戻し入れ、帳簿価額は減損直後を上回るところまで戻っている。減損は投資の終わりではなく、見通しの書き換えを財務に映した通過点だっただろう。残るのは、生産量が減少していく鉱山を抱えたまま、未開発鉱区の開発をどこまで引き受けるかという問いである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
権益取得と減損の条件

権益取得と減損の条件

科目 概要 備考
取得した株式と比率 アングロスール社株式24.5% アングロ社が100%保有していたチリ国銅資源権益保有会社の株式
取得日 2011年11月10日 アングロ社からの打診を受けて協議を進めた結果の取得
取得価額 53.9億米ドル(約4,200億円) 2012年3月期末のリスクエクスポージャーは取得価額と同額の約4,200億円
取得の主体 MC RESOURCE DEVELOPMENT LTD. 三菱商事が100%出資する連結子会社。本社は英国ロンドン
対象資産 ロスブロンセス銅鉱山・エルソルダド銅鉱山・チャグレス銅製錬所 大型の未開発鉱区を含む。2012年中のフル生産で年間約44万トンの見通し
三菱商事の銅の年間持分生産量 約25万トン 取得前はエスコンディダ・ロスペランブレス・アンタミナの3件で約14万トン
会計上の取扱い 持分法を適用 持分法で会計処理される投資として減損テストの対象となる
取得後の出資比率 20.4% アングロ社グループ50.1%、コデルコ社と三井物産の合弁会社29.5%
取得額 45.1億米ドル 24.5%取得時の53.9億米ドルから変わった経緯は有価証券報告書に記載がない
減損損失 271,194百万円 2016年3月期に持分法による投資損益を通じて計上。帳簿価額は190,990百万円

出所:三菱商事 有価証券報告書 2011年度(2012年3月期)【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】・2015年度(2016年3月期)【事業等のリスク】連結財務諸表注記

アングロスール社宛て投資の帳簿価額と減損損失

三菱商事:アングロスール社宛て投資の帳簿価額と減損損失

(億円) 帳簿価額減損損失 備考
2016年3月期 1,9002,712 帳簿価額190,990百万円、減損損失271,194百万円
2017年3月期 1,800−
2019年3月期 1,600−
2020年3月期 1,500− M.C. Inversiones Limitadaへ株式を移管することを決定
2021年3月期 1,500− M.C. Inversiones Limitadaへの株式移管を実施
2024年3月期 1,555−
2025年3月期 1,532−
2026年3月期 2,165△532 53,193百万円を戻し入れ。帳簿価額は216,544百万円
アングロスール社宛て投資の帳簿価額
帳簿価額(億円)

出所:三菱商事 有価証券報告書 2015〜2025年度【事業等のリスク】。帳簿価額は2016年3月期と2026年3月期を除き有報の概数表記による

アングロスール社の銅生産量実績

三菱商事:アングロスール社の銅生産量実績

(万トン) 銅生産量 備考
2016年3月期 44 2015年の実績。2012年のフル生産時の見通しと同水準
2017年3月期 35 2016年の実績
2019年3月期 42 2018年の実績
2020年3月期 39 2019年の実績
2021年3月期 37 2020年の実績
2024年3月期 26 2023年の実績
2025年3月期 22 2024年の実績
2026年3月期 21 2025年の実績
アングロスール社の銅生産量
銅生産量(万トン)

出所:三菱商事 有価証券報告書 2015〜2025年度【事業等のリスク】。アングロスール社合計の暦年の銅生産量実績

金属セグメントの純利益と資産

三菱商事:金属セグメントの純利益と資産

(百万円) 金属セグメント純利益金属セグメント資産 備考
2010年3月期 137,9282,866,349
2011年3月期 231,4683,030,266
2012年3月期 172,1413,571,196 2011年11月にアングロスール社株24.5%を取得した期
2015年3月期 13,8564,796,811 2013年度からIFRSを適用。前期までは米国会計基準
2016年3月期 △360,7323,557,899 金属グループの持分法による投資損益は2,789億円の損失
2017年3月期 147,9013,704,234 前期の資源関連資産の減損損失の反動で増益

出所:三菱商事 有価証券報告書 2009〜2016年度 連結財務諸表注記(セグメント情報)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

外的危機への対応2022年飯田グループホールディングスロシア極東の林業大手19社の取り込みと、侵攻直後の暗転木材調達の垂直統合とカントリーリスク
2020年三井不動産読売新聞グループと組んだTOBによる完全子会社化都心の大規模用地とエンタメ運営の取り込み
2009年東京センチュリーリーマン破綻の2週間後に決めた業界再編と事業規模
2004年パイオニア規模拡大への賭けと、それと重なったデジタル家電の価格急落装置産業への集中投資と価格競争
2017年ヤマトホールディングス27年ぶりの価格改定と取扱総量の抑制による収益の立て直しEC急増による現場負荷の増大と収益悪化への対応
海外企業の買収2016年アサヒグループHD欧州プレミアムビール4社の取り込みと、高価格帯ブランドの獲得成熟した国内ビール市場の外に、安定した収益基盤をどう築くか
2016年トレンドマイクロ米HPからのネットワークセキュリティ参入ネットワークセキュリティ領域への参入と無借金経営下での資金の使い道
2016年リクルートHD北米・豪州に続く人材派遣基盤を全株取得で一括して得た地域補完欧州における人材派遣基盤の獲得
2016年サンゲツ壁装材大手の取り込みによる海外進出と、専業卸からの脱却海外進出と収益構造の転換
2016年SOMPOホールディングス約6,831億円を投じた、最大の米国市場への橋頭堡の確保海外事業の出遅れ挽回と収益源の分散
参考文献
出典・参考
  • 三菱商事 有価証券報告書「2011年度(2012年3月期)【事業等のリスク】【経営上の重要な契約等】」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2015年度(2016年3月期)【事業等のリスク】連結財務諸表注記」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2016年度(2017年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2019年度(2020年3月期)【事業等のリスク】【業績分析】」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2020年度(2021年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2025年度(2026年3月期)【事業等のリスク】連結財務諸表注記」
  • 三菱商事 決算説明会質疑応答「2025年度第1四半期決算説明会 質疑応答」

免責事項およびポリシー