秋田・銚子沖の洋上風力撤退(2025年・三菱商事の決断)

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論点 採算の崩れた洋上風力から撤退するか
三菱商事:業績の推移
売上高(億円)税引前利益率(%)
総取りした国内洋上風力3海域からの撤退

何をなぜ決めたか:総取りした国内洋上風力3海域からの撤退

概要

2025年8月、三菱商事が2021年の第1ラウンドで獲得した国内洋上風力発電の3案件からの撤退を表明した経営判断。秋田県由利本荘市沖、能代市・三種町・男鹿市沖、千葉県銚子市沖の3海域はいずれも開発段階にとどまり、最終投資決定に至らないまま撤退した。

撤退に先立つ2025年3月期には、共同支配企業宛ての持分法で会計処理される投資が全額損失として処理され、法的若しくは推定的義務の範囲での追加的な損失と合わせて、持分法による投資損益に51,255百万円、有価証券損益に1,183百万円が計上された。

背景

三菱商事は脱炭素を成長領域に据え、2020年にオランダの電力会社エネコを取得して欧州に再生可能エネルギーの基盤を構築した。電力バリューチェーン上の「つくる」「整える」「届ける」という各機能の強化を通じて、洋上風力の成長が見込まれる日本と、エネコをプラットフォームに持つ欧州を中心に、再生可能エネルギーを軸に事業を広げる構想を掲げていた。2021年12月、その日本側の入口となる第1ラウンドで秋田・千葉の3海域すべてを落札し、国内洋上風力の主導権を一度に握る。

内容

2024年度第3四半期、3案件すべてについて、それまで資産に計上していた分を全額損失とし、取り込める限りの損失を一度に計上した。3案件はどれも調査・設計・許認可の途中で、最終投資決定には至っていなかった。落札から3年のあいだに、インフレ、円安、サプライチェーンの逼迫、金利上昇という外部環境の悪化が想定を超えて深まり、長引いたためである。

損失の中身は、調査・設計・許認可にかかった支出と、逼迫するサプライチェーンのもとで先に約束していた将来の支出である。事業性の見直しも同時に始め、追加の損失が出ても通期業績への響きは小さいと見込んだうえで、2025年8月に撤退を決めた。

含意

損失は電力ソリューションセグメントに集まり、2025年3月期のセグメント損益は15,607百万円の純損失に転じた。それでも連結の当期純利益は950,709百万円と前期並みを保っており、銅事業をはじめとする既存事業の利益がこの損失を吸収している。翌2026年3月期にはセグメントが43,408百万円の純利益へ回復し、数字の上では総合商社のポートフォリオが一つの座礁案件を吸収しきった。残ったのは、国が主力電源化の中核と位置づけた海域の開発が振り出しに戻ったという、財務諸表に載らない代償である。

いつ何が起きたか 5件
当時の取締役 14名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:総取りの野心と、座礁の後に残るもの
考察

考察:総取りの野心と、座礁の後に残るもの

この撤退は、事業の失敗というより、価格を先に決めてしまう仕組みのもとで長い開発期間を負うことの難しさが露呈した一件だとみられる。第1ラウンドの入札は、20年にわたる売電価格を落札の時点で確定させる。三菱商事が獲得したのは3海域の開発権であると同時に、その後に何が起きても価格へ転嫁できないという約束でもあった。着工前の調査・設計・許認可の段階で積み上げた資産に加え、サプライチェーンの逼迫のなかで先にコミットした将来の支出まで損失に振り替えられている。コストだけが動き、収入が動かない構造のなかで、インフレと円安と金利上昇が同時に来た。

もっとも、開発段階で全額を落としたという事実は、傷が浅いうちに切ったことの裏返しでもある。最終投資決定を通していれば風車の発注と海上工事が始まり、損失は桁が変わっていたはずである。連結の当期純利益が950,709百万円と前期並みを保ったまま撤退できたのは、その判断が早かったからだろう。問われるのはむしろ入札の時点でどこまでの環境変化を織り込んでいたかであり、脱炭素という20年単位の事業に商社の投資規律をどう当てるのかという問いが残る。国の主力電源化の工程に空いた穴を誰がどう埋めるのかは、なお見定める段階にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

三菱商事:電力ソリューションセグメントの損益と資産

電力ソリューション純利益(百万円)電力ソリューション純利益率(%)
三菱商事:電力ソリューションセグメントの損益と資産
(百万円) 電力ソリューション純利益電力ソリューション資産 備考
2021年3月期 42,2571,814,988
2022年3月期 50,5042,650,077
2023年3月期 61,8852,716,166
2024年3月期 92,0252,754,544 2025年3月期有報の組替後は純利益97,907・資産合計2,731,046
2025年3月期 △15,6072,512,091 洋上風力の損失52,438百万円を計上し、セグメントは純損失に転じた
2026年3月期 43,4082,739,770 3案件からの撤退を表明。前年度の損失計上の反動で純利益に復した
出所:三菱商事 有価証券報告書 2025年3月期・2026年3月期(連結財務諸表注記 セグメント情報)
出所:三菱商事 有価証券報告書 2025年3月期・2026年3月期(連結財務諸表注記 セグメント情報)

三菱商事:連結の当期純利益と総資産

三菱商事:連結の当期純利益と総資産
(百万円) 当社の所有者に帰属する当期純利益総資産 備考
2021年3月期 172,55018,634,971
2022年3月期 937,52921,912,012
2023年3月期 1,180,69422,147,501
2024年3月期 964,03423,459,572
2025年3月期 950,70921,496,104 洋上風力の損失を計上しながら、当期純利益は前期並みを保った
2026年3月期 800,46024,151,695
出所:三菱商事 有価証券報告書 2025年3月期・2026年3月期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)
出所:三菱商事 有価証券報告書 2025年3月期・2026年3月期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)

撤退の条件

撤退の条件
科目 概要 備考
離脱した事業 国内洋上風力発電事業 第1ラウンドで獲得した国内3案件。いずれも開発段階で最終投資決定前
会計上の取扱い 共同支配企業宛ての投資(持分法) 事業会社を連結子会社として取り込んでいない
損失計上額(持分法による投資損益) 51,255百万円 持分法で会計処理される投資の全額を損失として計上したもの
損失計上額(有価証券損益) 1,183百万円 法的若しくは推定的義務の範囲での追加的な損失
損失の計上時期 2025年3月期 2024年度第3四半期に計上し、通期の連結損益計算書に反映
損失計上の理由 インフレ、円安、サプライチェーンの逼迫、金利上昇等 複数の外部環境要因が想定以上に悪化・長期化したことが背景
資産の処理 3案件すべてで計上済み資産を全損処理 調査・設計・許認可関係の支出と、コミット済みの将来支出を含む
事業性の再評価 2024年度第3四半期に着手 追加損失が生じても通期業績への影響は限定的との見込みを維持
計上したセグメント 電力ソリューション 2025年3月期のセグメント損益は15,607百万円の純損失
出所:三菱商事 有価証券報告書 2025年3月期【持分法で会計処理される投資の減損損失】、2024年度第3四半期決算 アナリスト向け説明会 質疑応答(2025年2月6日)
出所:三菱商事 有価証券報告書 2025年3月期【持分法で会計処理される投資の減損損失】、2024年度第3四半期決算 アナリスト向け説明会 質疑応答(2025年2月6日)
当時の取締役 14名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 三菱商事 決算説明会質疑応答「2023年度決算 アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • 三菱商事 決算説明会質疑応答「2024年度第3四半期決算 アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • 三菱商事 決算説明会質疑応答「2024年度決算 アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2025年3月期【持分法で会計処理される投資の減損損失】」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2026年3月期(連結財務諸表注記 セグメント情報)」

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