時計参入の核心は、電卓競争からの避難ではなく、蓄えた電子技術を機能の近い隣の市場へ移した点にある。計算機の"数える・伝える"機能と電子時計の親近性という理解に立てば、時計は畑違いの多角化ではなく、同じ技術の応用先にあたる。ゆえにカシオは、量を絞って市場の反応を確かめ、消費電力という時計固有の課題には液晶で応えるという、堅実な立ち上げ方を選んなのだろう。
もっとも、外部が賭けと呼んだように、後発で未知の要素を抱えた参入であったことも確かであった。それでも時計が定着したのは、電卓と時計を大量に発注する立場が半導体の調達力を生み、その厚みが異種の商品づくりを支えたためであった。電卓で価格の需要創造を実践した会社が、次に技術の隣接という別の型で事業を広げた点に、この判断の意味がうかがえる。時を刻む主力へ育つ道は、ここから始まった。