電子部品事業のカーライルへの譲渡(2026年・オムロンの決断)

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論点 祖業を自社で育てるか外へ出すか
オムロン:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
祖業の電子部品事業の切り離しと注力13事業への投資の集中

何をなぜ決めたか:祖業の電子部品事業の切り離しと注力13事業への投資の集中

概要

2026年3月30日、オムロンは取締役会で、デバイス&モジュールソリューションズカンパニーが営む電子部品事業(DMB)を子会社のオムロンデバイスへ吸収分割で承継させ、海外のグループ会社が持つDMB関連の株式・資産も同社へ移したうえで、同社の全株式をThe Carlyle Group(カーライル)が設立するTCG2602へ譲渡すると決議した。同日に吸収分割契約と株式譲渡契約を結んでいる。

吸収分割の効力発生日は2026年7月1日、株式譲渡の実行日は10月1日の予定で、オムロンデバイスは分割後にAratasへ商号を変える。譲渡価格はクロージング時に確定し、損益への影響は精査中とされた。当時の意思決定者は辻永順太社長である。

背景

DMBは1933年の創業期に医療現場向けの「レントゲン写真撮影用タイマ」を製造したことに始まる祖業で、リレー・スイッチ・センサなどのデバイスを中核に、制御機器事業や自動改札などの社会システムを支える要素技術となってきた。2009年9月には事業セグメントEMC(現DMB)として独立した区分を持った。

ところがセグメント損益は2023年3月期の155億1百万円から2025年3月期に3億6百万円まで縮む。EVなどの環境対応で高容量リレーの市場が急速に広がる一方、中国のローカル競合をはじめ新たなプレイヤーが台頭し、事業のスピードと投資の拡大が求められていた。2025年9月19日、オムロンは分社化の検討開始を公表した。

内容

検討の結果、分社化による事業スピード向上の目途は立ったものの、想定以上に迅速かつ大規模な投資が必要だと再認識し、カーライルへの譲渡を最適と結論づけた。辻永順太社長は2026年5月の決算説明会で 『新たなパートナーのもとで自律的に成長を目指すことが、同事業にとって最も価値を高める選択であると判断しました』 と明かし、譲渡後も協力体制を維持するとした。

分割する資産は60,196百万円、負債は14,288百万円(2025年3月31日現在の帳簿価額)である。熊本県山鹿市のオムロンリレーアンドデバイスと中国・深センのOMRON ELECTRONIC COMPONENTS (SHENZHEN)の2社が特定子会社から外れる。株式譲渡後、オムロンはTCG2601へ出資し、承継会社の株式を間接的に5%持つ予定である。

含意

2026年3月期からDMBは非継続事業となり、セグメント情報から外れた。非継続事業の売上高は100,811百万円、税引前当期純損失は4,818百万円で、非継続事業からの当期純損失5,705百万円がオムロン株主に帰属する当期純利益28,487百万円を押し下げた。期末の連結従業員26,050人のうち6,122人がDMBに属していた。

全52事業を整理した結果、注力事業は13、キャッシュカウ事業は譲渡後の継続事業で22となる。譲渡後もトランジション・サービス契約と製品の継続的な売買で関係を保ち、分社・株式譲渡に伴う一過性の費用は2027年3月期の非継続事業純利益に織り込まれた。

いつ何が起きたか 9件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:祖業を育てる主体の入れ替え
考察

考察:祖業を育てる主体の入れ替え

この判断は、不振事業の整理というより、祖業を育てる主体をオムロンから投資会社へ入れ替える選択だったとみられる。分社化で事業のスピードには目途が立っていながら売却へ進んだ経緯は、問題が組織の速さではなく、グループのどこへ資金を振り向けるかにあったことを示している。DMBの利益率が2023年3月期の8.3%から2年で0.2%へ落ちた局面で、EV向けリレーの投資競争に自前で付き合えば、13の注力事業へ集めるはずの資金が分散する。創業期から制御機器の部品を供給してきた事業を外へ出すことで、ポートフォリオの重心を制御機器とデータサービスへはっきり移したのだろう。

もっとも、この切り離しの採算はまだ見えていない。譲渡価格はクロージング時に確定するとされ、損益への影響も精査中のまま決議に至った。オムロンは承継会社の株式を間接的に5%持ち、製品の売買も続けるため、制御機器を支えてきた部品の調達先が資本の外へ出る形になる。2027年3月期にはIFRSへ移るため、譲渡の前後で会計基準もまたがる。売却で得る資金が注力事業で資本コストを上回るリターンを生むかどうかが、祖業を手放した判断の成否を決めるのではないか。

Yutaka Sugiura, 2026年10月
数字で見る 2表

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図と表

オムロン:電子部品事業(DMB)のセグメントの推移

DMB売上高計(百万円)DMBセグメント損益率(%)

DMBの利益率は2023年3月期の8.3%から2025年3月期に0.2%まで低下

オムロン:電子部品事業(DMB)のセグメントの推移
(百万円) DMB外部顧客売上高DMB売上高計DMBセグメント損益DMBセグメント資産 備考
2021年3月期 86,028129,3552,962136,417 当時のセグメント名はEMC。売上高計はセグメント間の内部売上高を含む
2022年3月期 106,442160,0368,240154,039 この期からセグメント名をDMBとした
2023年3月期 138,854187,30515,501164,560 この期からIABの一部の事業をDMBへ移管
2024年3月期 114,357151,8573,148165,511
2025年3月期 105,441142,740306163,089 セグメント損益が前期の10分の1以下へ縮小
出所:オムロン 有価証券報告書 第84〜88期(オペレーティング・セグメント情報、各期の当期欄)
出所:オムロン 有価証券報告書 第84〜88期(オペレーティング・セグメント情報、各期の当期欄)

オムロン:非継続事業に組み替えたDMBの経営成績

非継続事業売上高(百万円)非継続事業税引前損益率(%)

2026年3月期の非継続事業は売上高1,008億円に対し税引前損失48億円

オムロン:非継続事業に組み替えたDMBの経営成績
(百万円) 非継続事業売上高非継続事業の構造改革費用非継続事業税引前損益非継続事業資産合計 備考
2025年3月期 86,3743,986△4,130117,143 第89期の有報で組み替えた値。セグメントの売上高とは範囲が異なる
2026年3月期 100,8116,976△4,818127,242 構造改革費用にイタリア子会社の譲渡損4,470を含む
出所:オムロン 有価証券報告書 第89期(連結財務諸表注記「非継続事業」)
出所:オムロン 有価証券報告書 第89期(連結財務諸表注記「非継続事業」)
当時の取締役 8名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • オムロン 適時開示「デバイス&モジュールソリューションズビジネス(電子部品事業)の分社化の検討開始に関するお知らせ」
  • オムロン 臨時報告書「臨時報告書(吸収分割・特定子会社の異動・財政状態等に著しい影響を与える事象)」
  • オムロン 決算説明会資料「2026年3月期 決算説明会 プレゼンテーション」
  • オムロン 有価証券報告書「第89期(2026年3月期)【重要な契約等】【重要な後発事象】連結財務諸表注記「非継続事業」」
  • オムロン 有価証券報告書「第84〜88期(2021年3月期〜2025年3月期)オペレーティング・セグメント情報」

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