制御機器不振下の構造改革「NEXT 2025」と約2000人の人員削減
中国依存で膨らんだ制御機器の固定費を、辻永順太社長はどう身軽にしようとしたか
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- 概要
- 2024年2月26日、オムロンが構造改革プログラム「NEXT 2025」を発表し、国内外で計約2000人の人員削減に踏み切った経営判断。主力の制御機器事業が中国市場の低迷で急失速したことを受け、辻永順太社長が固定費の圧縮と事業構造の立て直しを主導した。
- 背景
- 工場の生産ラインで使うセンサーやロボットを扱う制御機器は、2022年度に連結売上高の約55%・営業利益の約85%を占める柱であった。だが2023年度は中国の景気低迷で半導体・EV関連の大口顧客からの受注が急減し、会社計画を期中に相次いで下方修正する事態に陥った。
- 内容
- グループ従業員約2万8000人の約7%にあたる約2000人を削減し、国内では40歳以上の正社員・シニア社員から約1000人の希望退職を募った。2025年度に2023年度比で約300億円の固定費削減を見込み、うち6〜7割を人件費が占める。関連費用は特別損失として計上した。
- 含意
- 大規模な人員削減は国内で約1500人を整理した2002年以来で、創業以来2度目の希望退職募集であった。辻永社長は就任前の約2年、制御機器事業のトップとして従来路線を主導した当事者でもあり、自らが率いてきた事業の構造にメスを入れる判断となった。
独り負けからの立て直しをめぐって
この判断が映すのは、好調期に大口顧客と中国へ深く食い込んだことが、需要の反転とともにそのまま重荷へ転じたという構造である。業界の最先端を走る大手に複雑なソリューションを売り込む戦略は、取引先が伸びるうちは高い成長をもたらすが、景気の変動をまともに受ける弱さと表裏一体であった。同業のキーエンスやSMCも減益に沈むなかで、オムロンだけが際立って下振れした事実は、稼ぎ方の裏側にあった集中の代償を映しているとみることができる。黒字を保ちながらあえて2002年以来の希望退職に踏み切った点に、環境が変わる前提で構造を先回りして組み替えようとする判断がうかがえる。
もっとも、固定費を約300億円削っても、それだけで失われた競争力が戻るわけではない。辻永社長自身が従来路線を率いた当事者であり、掲げる中期目標の達成は、中国偏重の見直しと欧米・非製造業分野への展開がどこまで実を結ぶかにかかっている。人員整理は構造改革の一部にすぎず、顧客本位の文化やベンチャー精神をどう取り戻すかという、数字に表れにくい課題が残されている。営業利益はいったん底を打ったものの、キーエンスとの差は開いたままで、名門の立て直しがどこまで進むかは、なお見極めがつかない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
制御機器の急失速と度重なる下方修正
オムロンといえば体温計や血圧計が知られるが、ヘルスケア関連の売上高は全体の2割弱にすぎない。稼ぎ頭は、工場の生産ラインで使うセンサーやロボットを扱う制御機器事業である。この事業は2022年度に連結売上高の約55%、営業利益の約85%を占めていた。ところが2023年度は年度の初めに掲げた計画から大きく崩れ、期中に業績見通しを相次いで下方修正する展開となった[1]。
数字の落差は大きかった。2023年度当初は売上高8900億円、営業利益1020億円、純利益745億円を計画していたが、最新の会社計画では売上高8100億円、営業利益240億円、純利益15億円まで下げた。営業利益は前年度比で76%減、純利益は同98%減にあたる。制御機器事業に限れば、当初880億円と見込んだ営業利益が約8割減の140億円にとどまる見通しとなり、全社の落ち込みの震源が制御機器にあることを浮き彫りにした[2]。
中国依存という構造
急激な悪化の根には、制御機器事業が抱える顧客の偏りがあった。同社は半導体関連やEV向け2次電池の設備投資に関わる受注で、一部の大口顧客に依存する割合が高い。業界の最先端を走る大手にソリューションを深く売り込む戦略は、取引先が好調なときには流れに乗って数字を伸ばせる一方、需要が反転すれば直撃を受ける両刃の剣でもあった。2023年度までの直近10年の制御機器の売上成長を地域別に見ると、中国が約半分を占めていた[3]。
2023年度は中国の景気が低迷し、それに引きずられて大口顧客による設備投資の延期や縮小が相次いだ。年度後半には需要が回復するという見立ても外れた。ファクトリーオートメーションの環境悪化は同業も同じで、センサー大手のキーエンスや空圧制御機器で世界首位のSMCも減益となったが、そのなかでもオムロンの下振れは際立った。競合が「顧客層が幅広く、特定の地域や業種への依存が小さい」とされたのに対し、オムロンは中国と大口顧客への集中が裏目に出た形であった[4]。
決断
構造改革「NEXT 2025」と約2000人の削減
2024年2月26日、オムロンは構造改革プログラム「NEXT 2025」を発表し、国内外で計約2000人の人員削減に踏み切った。グループ全体の従業員約2万8000人のおよそ7%にあたる規模である。国内では勤続3年以上かつ40歳以上の正社員・シニア社員を対象に約1000人の希望退職を募集し、退職日は同年7月20日に置いた。人員削減にともなう関連費用は特別損失として計上する方針を示した。機関投資家向けの説明会で辻永順太社長は、変化の激しい事業環境への耐性がある構造を築くと語った[5]。
削減の狙いは固定費の圧縮に置かれた。オムロンは2025年度に2023年度比で約300億円の固定費削減を見込み、そのうち6〜7割を人件費が占めるとした。人員だけでなく事業の中身にも手を入れ、約20万点に及ぶ製品群のうち不採算品からは撤退して開発原資を確保する方針を掲げた。制御機器事業については中国偏重を見直し、欧米での展開を強化するとともに、これまで手薄だった医療や食品の分野へ売り上げの裾野を広げる考えを示した[6]。
2002年以来の希望退職という重み
オムロンが大規模な人員削減に踏み切るのは、国内で約1500人を整理した2002年以来のことであった。中国向けを中心にファクトリーオートメーション機器が苦戦するなかでの決断で、日本経済新聞も「創業2度目の希望退職募集」と伝えた。黒字を確保しながらのリストラである点も特徴で、2024年3月期は売上高約8190億円、営業利益約340億円と、赤字転落は免れていた。それでも将来にわたって変動に耐えうる構造へ組み替えるために、固定費に切り込む道が選ばれた[7]。
決断を下した辻永社長は、就任前の約2年間、制御機器事業のトップを務めた当事者でもあった。従来の路線を主導してきた人物が、自らの率いた事業の構造を見直す立場に立った点に、この判断の内側の緊張があった。後の東洋経済のインタビューで辻永社長は、早期退職とはいえ「今まで一緒に頑張ってきた仲間たち」であり「苦渋の決断であるのは間違いない」と振り返っている。人員整理の背後には、顧客本位の行動が薄れセクショナリズムが広がったという「本質的な課題」への危機感があったという[8]。
結果
募集を上回る応募と回復への道筋
国内の希望退職には、募集を上回る1206人が応募した。オムロンは4月から5月末にかけて募集を行い、当初想定の約1000人を超える応募を集めた形である。人員削減にともなう費用は2025年3月期に特別損失として計上した。数の面では、固定費削減の前提となる人員の再配置がおおむね計画どおりに進んだといえる[9]。
固定費削減の効果は業績にも表れ始めた。オムロンは2024年11月、想定を上回る固定費削減を理由に2025年3月期の通期営業利益計画を490億円から520億円へ上方修正した。辻永社長は構造改革を「順調に進んでいる」とし、2025年度に営業利益700億円、2026年度に同900億円という中期の目標を掲げた。実際に営業利益は2024年3月期の350億円を底に、2025年3月期は290億円、2026年3月期は526億円へと戻し、回復の傾向を示している[10][11]。
- 週刊東洋経済 2024年3月16日号「ニュース最前線 02 オムロンが2000人削減 制御機器不振で立て直しへ」
- 週刊東洋経済 2025年1月18日号「トップに直撃 オムロン 社長 辻永順太『大不振から復活への道筋 ベンチャー精神に立ち返る』」
- 日本経済新聞(2024年2月26日)「オムロン、国内外で2000人削減 中国向けFA不振」
- 日本経済新聞(2024年6月4日)「オムロン、国内希望退職に1206人が応募 募集上回る」
- オムロン「構造改革プログラム『NEXT 2025』に関するお知らせ」(2024年2月26日)
- オムロン 有価証券報告書(2024年3月期・連結)