サントリーHDへ市販薬譲渡(2026年・第一三共の決断)

更新:
論点 市販薬事業を売却するか
第一三共:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
販売子会社を丸ごと切り出す形での市販薬事業からの撤退

何をなぜ決めたか:販売子会社を丸ごと切り出す形での市販薬事業からの撤退

概要

2026年3月31日の取締役会決議を経て、第一三共は4月15日、市販薬(OTC)を手がける連結子会社・第一三共ヘルスケアの全株式をサントリーホールディングスへ譲渡する契約を締結した。譲渡価額は合計2,465億円(予定)で、2026年6月に所有株式の30%を渡すのを皮切りに、2029年6月までに三度に分けて譲渡を完了する。

背景

第一三共はエンハーツとダトロウェイをがん領域のフラグシップアセットに位置づけ、2019年3月からアストラゼネカとの戦略的提携で開発を加速してきた。連結売上収益に占める医療用医薬品の比率は2021年3月期の92.8%から2026年3月期には95.6%へ上がり、事業構成はすでにがん中心へ傾いていた。

内容

第一三共ヘルスケアはOTC医薬品領域のリーディングカンパニーで、機能性スキンケア・オーラルケア・食品へも領域を広げていた。2025年3月期は売上高76,049百万円・営業利益12,922百万円で、純資産69,321百万円に対して2,465億円の値が付いた。第一三共は経営資源をイノベーティブ医薬品事業、特にオンコロジー事業に集中させる方針を掲げた。

含意

開示された3期でいずれも増収増益を重ねた事業を手放す判断であり、受け皿は飲料・食品と健康食品で事業基盤を持つ非上場のサントリーHDとなった。譲渡は議決権割合を100%→70%→30%→0%と落とす三段構えで、支配を失うのは2027年6月、株式譲渡に伴う収益の計上は2028年3月期を見込む。

いつ何が起きたか 10件
当時の取締役 10名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:集中がもたらす軽さと重さ
考察

考察:集中がもたらす軽さと重さ

この判断の核心は、稼げる事業であっても本業の隣に置き続けることの意味を問い直した点にあると推察される。第一三共ヘルスケアは営業利益率17%の水準を保ち、開示された3期のいずれでも増収増益を重ねていた。それでも手放したのは、痛んだから切ったのではなく、伸ばす担い手を替えたほうが事業のためになるという判断であったと思われる。飲料・食品と健康食品で基盤を持つ相手の強みを活かすことが最適だと会社自身が述べているとおり、この譲渡は縮小ではなく、育てる場所の付け替えとして設計されている。

もっとも、集中は身軽さと引き換えに退路の一つを畳む選択でもある。連結売上収益に占める医療用医薬品の比率は95.6%に達し、エンハーツとダトロウェイという2剤への依存度が高まるほど、適応拡大や後続候補の成否が業績を大きく左右する構図が濃くなっていく。安定した市販薬の収益は、その振れをならす緩衝材でもあった。議決権を100%から70%、30%へと三年かけて落とす段取りは、渡す側にも受け取る側にも移行の時間を確保する構えだが、その間に会社が背負う集中の重さは変わらない。当否は、これから数年の抗がん剤事業の伸びのなかで静かに測られていくのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

第一三共:医療用医薬品とヘルスケアの売上収益

ヘルスケア(百万円)医療用医薬品等(百万円)ヘルスケアの構成比(%)
第一三共:医療用医薬品とヘルスケアの売上収益
(百万円) 医療用医薬品ヘルスケア売上収益合計 備考
2021年3月期 892,92367,425962,516 ヘルスケアの構成比は7.0%。この期が開示されている中では最も高い
2022年3月期 977,98464,7031,044,892 ルル等の感冒薬の減収により、ヘルスケアは前期比4.0%の減収
2023年3月期 1,205,93970,3311,278,478
2024年3月期 1,523,41075,8951,601,688
2025年3月期 1,796,97486,5871,886,256
2026年3月期 2,029,53890,7842,123,045 3月31日に譲渡を決議。ヘルスケアの構成比は4.3%まで下がった
出所:第一三共 有価証券報告書 第16期(2021年3月期)〜第20期(2025年3月期)(セグメント情報等 製品及びサービスに関する情報) / 第一三共 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年7月31日訂正版)(セグメント情報等 製品及びサービスに関する情報)
出所:第一三共 有価証券報告書 第16期(2021年3月期)〜第20期(2025年3月期)(セグメント情報等 製品及びサービスに関する情報) / 第一三共 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年7月31日訂正版)(セグメント情報等 製品及びサービスに関する情報)

第一三共:第一三共ヘルスケアの経営成績及び財政状態

売上高(百万円)営業利益率(%)
第一三共:第一三共ヘルスケアの経営成績及び財政状態
(百万円) 売上高営業利益純資産 備考
2023年3月期 60,12110,95259,428 総資産88,147百万円、当期純利益7,218百万円
2024年3月期 65,73412,00965,077 総資産98,666百万円、当期純利益8,159百万円
2025年3月期 76,04912,92269,321 総資産106,006百万円、当期純利益8,997百万円
出所:第一三共「第一三共ヘルスケアの株式譲渡(連結子会社の異動)に関するお知らせ」(2026年4月15日)(異動する子会社の概要 当該会社の最近3年間の経営成績及び財政状態)
出所:第一三共「第一三共ヘルスケアの株式譲渡(連結子会社の異動)に関するお知らせ」(2026年4月15日)(異動する子会社の概要 当該会社の最近3年間の経営成績及び財政状態)

譲渡の条件

譲渡の条件
科目 概要 備考
分離する事業 OTC医薬品を中心とするヘルスケア事業 一般用医薬品等の研究開発・販売。機能性スキンケア・オーラルケア・食品にも展開
譲渡する子会社 第一三共ヘルスケア㈱ 当社100%出資の連結子会社。2005年12月16日設立、資本金1億円
子会社が保有する会社 第一三共ヘルスケアダイレクト㈱ 第一三共ヘルスケアが持株比率100%で保有する
譲渡の相手先 サントリーホールディングス㈱ 資本関係・人的関係・取引関係のいずれも該当事項はない
取引の法的形式 株式譲渡 譲渡実行前に第一三共ヘルスケアの株式分割を実行する予定
取締役会の決議日 2026年3月31日
契約締結日 2026年4月15日 同日、サントリーHDとの間で株式譲渡契約を締結した
譲渡価額 246,500百万円(予定) 現時点の概算数値。契約に定める価格調整を反映して修正される可能性がある
譲渡株式数 10,000株(議決権数10,000個) 株式分割後の数。譲渡前の議決権所有割合は100%
譲渡の実行時期 三度に分けて実行 2026年6月1日に30%、2027年6月1日に40%、2029年6月1日に30%
譲渡後の所有株式数 0株(議決権所有割合0%) 2029年6月1日に全株式の譲渡を完了する予定
株式譲渡に伴う収益の計上 2028年3月期(2027年度) 議決権割合が30%となる期。コア外の収益として計上する見込み
売却目的で保有する資産 122,162百万円 2026年3月期末の連結財政状態計算書。前期末の残高は7,250百万円
同資産に直接関連する負債 31,552百万円 同じく2026年3月期末。前期末には計上がない
売却目的資産へ振り替えた現金 39,176百万円 連結キャッシュ・フロー計算書。期末残高488,983百万円から控除した
移転損益 支配喪失時に計上 2026年3月期には計上していない。金額は開示されていない
譲渡の目的 オンコロジー事業への集中 サイエンス&テクノロジーの強みを活かし経営資源を集中させる
譲渡対象の売上高 76,049百万円 第一三共ヘルスケアの2025年3月期。単体、日本基準
譲渡対象の営業利益 12,922百万円 同期。経常利益13,340百万円、当期純利益8,997百万円
譲渡対象の純資産 69,321百万円 同期末。総資産は106,006百万円
2027年3月期への影響 精査中 非支配株主に帰属する当期利益の発生を見込むと公表した
出所:第一三共「第一三共ヘルスケアの株式譲渡(連結子会社の異動)に関するお知らせ」(2026年4月15日) / 第一三共 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年7月31日訂正版)(追加情報)子会社株式の譲渡・連結財政状態計算書・連結キャッシュ・フロー計算書
当時の取締役 10名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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