近鉄グループホールディングスKNT-CTホールディングス発足:持分法に置いていた近畿日本ツーリストを連結子会社のクラブツーリズムと結び、旅行事業を一つの持株会社へまとめた選択

更新:

時期 2013年1月
当時の社長 小林哲也
論点 グループ内に並んだ二つの旅行会社の体制
概要

2013年1月1日、連結子会社のクラブツーリズムと、持分法適用関連会社であった旧近畿日本ツーリストが株式交換で統合した。旧近畿日本ツーリストを株式交換完全親会社、クラブツーリズムを完全子会社とし、結合後の商号はKNT-CTホールディングスへ改まった。

近畿日本鉄道から見れば、片方を連結、片方を持分法に置いていた二つの旅行会社が一つの持株会社の下へ並んだことになる。議決権比率は39.9%から71.4%へ上がり、旧近畿日本ツーリストとその子会社8社が連結の範囲に入った。

背景

旧近畿日本ツーリストの起こりは1941年10月に設立した有限会社関急旅行社で、1977年6月には株式が東京証券取引所市場第一部に上場した。店舗網と営業力を持つ老舗である。

一方のクラブツーリズムは会員組織を軸に無店舗で販売する後発で、2008年8月に持分法適用会社から株式を追加取得して連結子会社となった。レジャー・サービス業の営業収益はこの子会社化で前期比47.8%増の196,339百万円へ伸びたが、のれん償却の負担も重なり、営業損益は1,424百万円の損失に沈んだ。

内容

統合の理由に挙げたのは、旧近畿日本ツーリストが持つブランド・営業力・販売ノウハウ・ネットワークと、クラブツーリズムが持つ会員組織化によるマーケティング力・商品企画力・無店舗販売によるローコスト経営を、最大限に活用することであった。

株式交換比率はクラブツーリズム1株に対し旧近畿日本ツーリスト8,500株で、交付株式数は160,650,000株。比率は三菱UFJモルガン・スタンレー証券と野村證券がそれぞれ算定し、当事者間の協議で決めた。取得原価6,957百万円のうち5,150百万円は交付を受けた株式の時価である。

含意

取得原価が時価純資産の持分額を上回った3,396百万円をのれんとして認識したが、今後の収益性を勘案して将来キャッシュ・フロー見積額を保守的に算定した結果、同じ期にその全額を減損した。買った側が、買った直後に価値の上乗せを消した形である。

みなし取得日を2013年3月期末としたため、当期に連結したのは貸借対照表だけで、損益の取り込みは翌期からとなった。ホテル・レジャー業の外部顧客への売上高が208,709百万円から499,154百万円へ跳ねたのは、この通期連結と、旅行商品の販売取引を純額表示から総額表示へ改めたことが重なったためである。

筆者の見解

統合の翌日に消したのれん

この統合で近畿日本鉄道が実際に動かしたのは、資本ではなく持分の置き方だったとみられる。交付されたのは株式で、現金の支出はない。取得原価6,957百万円のうち5,150百万円は自らが受け取った株式の時価であり、外へ出ていった金は無い。にもかかわらず議決権比率は39.9%から71.4%へ上がり、持分法で利益だけを拾っていた老舗が連結の内側に入った。子会社どうしの統合という体裁の下で起きたのは、旅行事業の損益を自らの連結に引き受ける決断であった。

もっとも、引き受けた中身への見立ては厳しかった。取得原価が時価純資産を上回った3,396百万円を認識しながら、同じ期に将来キャッシュ・フロー見積額を保守的に算定してその全額を減損している。統合の理由に掲げたシナジーと、のれんをただちに消す会計上の判断は、同じ有価証券報告書に並んで載る。ホテル・レジャー業のセグメント利益はその後2018年3月期の9,627百万円まで積み上がったが、売上高の水準は総額表示への変更を含んだものであり、統合が生んだ利益と表示の組み替えを分けて読む必要が残る。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

統合の条件

科目 概要 備考
結合当事企業 旧近畿日本ツーリストとクラブツーリズム 前者は持分法適用関連会社、後者は連結子会社。いずれも旅行業
企業結合の法的形式 株式交換 旧近畿日本ツーリストを完全親会社、クラブツーリズムを完全子会社とする
企業結合日 2013年1月1日
結合後企業の名称 KNT-CTホールディングス 旧近畿日本ツーリストが当連結会計年度に商号を変更した
株式交換比率 クラブツーリズム1株に8,500株 旧近畿日本ツーリストの普通株式を割当交付。交付した株式数は160,650,000株
第三者算定機関 三菱UFJモルガン・スタンレー証券、野村證券 前者は旧近畿日本ツーリスト、後者はクラブツーリズムが選定。提出された報告書をもとに協議
取得した議決権比率 71.4% 株式交換前は39.9%で、増加した議決権比率は31.5%
取得企業を決定するに至った根拠 議決権の過半数の所有 近畿日本鉄道が旧近畿日本ツーリストを支配するに至ったため
取得原価 6,957百万円 直前に保有していた株式の時価1,807百万円と、交付を受けた株式の時価5,150百万円
段階取得に係る差益 1,018百万円 取得原価と取得するに至った取引ごとの取得原価の合計額との差額。特別利益に計上
のれん 3,396百万円 取得原価が時価純資産の持分額を上回った額。同じ期に全額を減損処理した
受け入れた資産 97,886百万円 流動資産71,557百万円、固定資産26,329百万円。現金及び現金同等物18,438百万円を含む
引き受けた負債 92,462百万円 流動負債86,338百万円、固定負債6,123百万円
みなし取得日 2013年3月期末 当期に連結したのは貸借対照表のみで、損益の取り込みは翌期から
通期換算した影響額 営業利益1,952百万円 経常利益2,404百万円、当期純利益596百万円。売上高は表示方法の変更により記載を省略

出所:近畿日本鉄道 有価証券報告書 第102期(2013年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】

近鉄グループホールディングス:ホテル・レジャー業の推移

(百万円) 外部顧客への売上高セグメント利益セグメント資産 備考
2008年3月期 113,3522,307183,395 事業の種類別セグメント情報における「レジャー・サービス業」。旅行業を含む
2009年3月期 176,490△1,424219,059 クラブツーリズムを8月に連結子会社化。第99期の前期欄では175,377/△2,001/215,357へ組替
2010年3月期 235,441△837210,353 クラブツーリズムの通期寄与と平城遷都1300年祭関連の旅行商品による増収
2011年3月期 196,440△218187,073 セグメント情報等の開示に関する会計基準を適用し、区分を「ホテル・レジャー」へ改めた期
2012年3月期 196,397△178193,375 のれん償却額2,167百万円を負担。クラブツーリズム子会社化に伴うもの
2013年3月期 208,7093,947255,684 株式交換を実施した期。資産の増はKNT-CTの貸借対照表のみを連結したことによる
2014年3月期 499,1545,799282,785 KNT-CTの損益を通期で取り込み、旅行商品の販売取引を総額表示へ改めた期
2015年3月期 479,3687,297243,563
2016年3月期 475,2848,815160,706
2017年3月期 470,5999,822182,015
2018年3月期 478,4679,627186,913
ホテル・レジャー業の売上高と利益率
外部顧客への売上高(百万円)セグメント利益率(%)

出所:近畿日本鉄道 有価証券報告書 第97〜107期(2008年3月期〜2018年3月期)【事業の種類別セグメント情報】【セグメント情報】

近鉄グループホールディングス:連結業績の推移

(百万円) 営業収益営業利益当期純利益 備考
2008年3月期 925,31457,19723,296
2009年3月期 967,57343,23716,077 クラブツーリズムの連結により営業収益は前期比4.6%増
2010年3月期 960,71635,7583,671
2011年3月期 960,00639,91914,354
2012年3月期 942,79040,2098,666
2013年3月期 932,15647,45220,001 株式交換を実施した期。旅行業再編に伴う減損損失と段階取得に係る差益を計上
2014年3月期 1,246,36054,62324,598 総額表示への変更とKNT-CTの通期連結により、営業収益は前期比33.7%増
2015年3月期 1,233,79856,42527,864 この期から当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
2016年3月期 1,217,99564,73628,956
2017年3月期 1,204,86764,82826,247
2018年3月期 1,222,77964,64329,614
連結営業収益と営業利益率
営業収益(百万円)営業利益率(%)

出所:近畿日本鉄道・近鉄グループホールディングス 有価証券報告書 第97〜107期(2008年3月期〜2018年3月期)【連結損益計算書】

同じ問いに直面した会社

持株会社方式による経営統合2016年ファミリーマートサークルK・サンクスの自社ブランドへの一本化と店舗網の統合規模拡大とブランド統一
2023年レゾナックHDレゾナックへの社名変更を伴う二社の一体化と経営基盤の再構築
2005年バンダイナムコHD共同持株会社の発足と、両社を一体で束ねる経営体制への移行縮小市場での成長基盤とIP展開規模の確保
2013年飯田グループホールディングスパワービルダー6社が共同株式移転で1つの傘の下に入る統合戸建分譲の規模拡大と用地・資材の調達力
2014年マクニカホールディングス共同株式移転という対等な形での二社の統合と、新体制への移行国内半導体商社の再編と顧客層の補完
出典・参考
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書 第97期(2008年3月期)【事業の種類別セグメント情報】
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書 第99期(2010年3月期)【事業の種類別セグメント情報】
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書 第101期(2012年3月期)【セグメント情報】【従業員の状況】
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書 第107期(2018年3月期)【セグメント情報】
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第102期(2013年3月期)【企業結合等関係】」
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第102期(2013年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第102期(2013年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】」
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第102期(2013年3月期)【連結損益計算書関係】」
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第98期(2009年3月期)【業績等の概要】」
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第103期(2014年3月期)【業績等の概要】【セグメント情報】」
  • 近畿日本鉄道 有価証券報告書「第103期(2014年3月期)【沿革】」

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