近鉄グループホールディングス監査等委員会設置会社へ移行:重要な業務執行の決定権限の大部分を社長ほか代表取締役へ委譲し、取締役会を監督と中長期戦略の場へ寄せた機関設計の組み替え

更新:

時期 2026年6月
当時の社長 若井敬
論点 監督と執行が同居する取締役会の機関設計
概要

2026年6月19日開催の第115期定時株主総会で「定款一部変更の件」が承認され、その終結の時をもって監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。同じ総会で監査等委員でない取締役10名と監査等委員である取締役5名を選び、取締役会は15名となった。

掲げた理由は、持続的な価値創造とさらなる成長に向けて取締役会の監督機能を強化するとともに、迅速かつ機動的な業務執行を実現することである。移行の決定そのものは2026年3月期中の取締役会で行われ、同期の取締役会は11回開かれた。

背景

移行直前の取締役会は取締役12名で、うち社外は4名、常勤取締役が8名。監査役会は5名のうち3名が社外という構成で、業務執行を担う取締役と監督が同じ取締役会に同居する形が続いていた。取締役任期の1年への短縮、退職慰労金制度の廃止、執行役員制度の導入、業績連動報酬制度と株式報酬制度の導入は、この機関設計の内側で積み重ねてきた施策である。

2025年3月期の取締役会実効性評価では、流通・サービス・IT等で経営経験のある適任者を社外取締役に採用して活性化を図るのが良いという課題が挙がっていた。

内容

移行後の取締役会は、監査等委員でない取締役10名(うち社外5名)と監査等委員である取締役5名(うち社外3名)の15名。社外取締役は8名で半数を超え、全員が独立役員に指定されている。監査等委員会は常勤2名を含む5名で、委員長は常勤の監査等委員である取締役・松本昭彦氏が務める。

定款の員数は上限を定めない従前の定めから15名以内(うち監査等委員である取締役は5名以内)へ改められた。任期は監査等委員でない取締役が1年、監査等委員である取締役が2年である。

含意

制度の実質は権限の移動にある。監査等委員会設置会社に認められる制度を活用して、重要な業務執行の決定権限の大部分を取締役会から社長ほか代表取締役へ委譲し、取締役会では中長期的な経営戦略等に関する審議を充実させる。監査等委員会の職務を補助する監査等委員会室を置き、所属する使用人は取締役(監査等委員である取締役を除く。)の指揮下から外した。

報酬枠は、監査等委員でない取締役の金銭報酬が年額4億8,000万円以内で据え置かれ、社外取締役分は年額5,000万円以内から6,000万円以内へ広がった。

筆者の見解

員数の上限を初めて置いた総会

監査等委員会設置会社への移行は、監査役が取締役になる制度上の付け替えとして読まれやすい。だが近鉄グループホールディングスの場合、実際に動いたのは決定権の所在である。重要な業務執行の決定権限の大部分は取締役会から社長ほか代表取締役へ移り、取締役会には中長期の経営戦略の審議が残った。同じ総会で、上限を定めていなかった取締役の員数に15名という枠が入り、社外取締役は4名から8名へ倍増して半数を超えた。権限を執行側へ渡すかわりに、渡した先を見る目の数を増やす取引だったとみられる。

もっとも、増えた社外の顔ぶれを見ると、監査等委員である社外取締役3名はいずれも学者である。前年の実効性評価で挙がっていた課題は、流通・サービス・IT等で経営経験のある適任者を社外取締役に採用することだった。会計学・情報科学・会社法の専門家を監査等委員に配した人選は、監査の厳正さには適うが、事業の経験を補う要請とは別の答えでもある。後継を諮る人事・報酬諮問委員会が任意の機関のまま、会長と社長を構成員に含む点も変わっていない。組み替えたのは権限の線であって、選ぶ仕組みではない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
移行の決定 2026年3月期中の取締役会 同期の取締役会は11回開催。投資案件の承認や中期経営計画2028の推進状況の報告とあわせて決定
移行の理由 監督機能の強化と機動的な業務執行 持続的な価値創造とさらなる成長に向けて、迅速かつ機動的な業務執行を実現するため
株主総会へ提案した議案 定款一部変更の件ほか2件 取締役(監査等委員である取締役を除く。)10名選任の件、監査等委員である取締役5名選任の件
移行日 2026年6月19日 第115期定時株主総会の終結の時。定款一部変更の議案が承認可決されることを条件とした
移行前の機関設計 監査役会設置会社 取締役12名(うち社外4名、常勤8名)、監査役5名(うち社外3名)
移行後の取締役会 取締役15名(うち社外8名) 監査等委員でない取締役10名(うち社外5名)、監査等委員である取締役5名(うち社外3名)
監査等委員会 5名(常勤2名・社外3名) 委員長は常勤の監査等委員である取締役・松本昭彦氏
定款上の取締役の員数 15名以内 うち監査等委員である取締役は5名以内。従前は上限を定めず、8名以上とのみ定めていた
取締役の任期 1年 監査等委員である取締役は2年。いずれも定時株主総会の終結の時を起点とする
権限の委譲 重要な業務執行の決定権限の大部分 取締役会から社長ほか代表取締役へ委譲し、取締役会は中長期の経営戦略等の審議を充実させる
監査等委員会室 設置 専属要員を置き、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の指揮下から外して監査等委員の指揮を受ける
報酬枠(監査等委員でない取締役) 金銭で年額4億8,000万円以内 うち社外取締役分は年額6,000万円以内。従前の社外分は年額5,000万円以内であった
報酬枠(株式報酬) 年額6,000万円以内 株式数は年15,000株以内。2019年6月13日の第108期定時株主総会の決議から据え置き
報酬枠(監査等委員である取締役) 年額1億円以内 従前の監査役報酬は1985年6月28日の第74期定時株主総会の決議による月額800万円以内
人事・報酬諮問委員会 存続 社外取締役(監査等委員である取締役を除く。)全員が構成員となる制度とし、独立社外取締役が過半数

出所:近鉄グループホールディングス 有価証券報告書 第115期(2026年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】【役員の状況】・コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2026年5月18日・2026年8月5日)

近鉄グループホールディングス:コーポレート・ガバナンスに関する報告書ごとの役員構成

(名) 取締役社外取締役監査役社外監査役 備考
2021年10月21日 12453
2022年5月17日 12453
2023年6月5日 12453
2023年6月28日 12453
2024年3月12日 12453
2024年5月29日 12453
2025年6月10日 12453
2026年5月18日 158 監査等委員会設置会社への移行を織り込んだ回。監査役の区分は無くなり監査等委員5名へ
2026年8月5日 158 社外取締役8名は全員が独立役員。うち3名が監査等委員である社外取締役

出所:近鉄グループホールディングス コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年10月21日〜2026年8月5日)

同じ問いに直面した会社

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出典・参考
  • 近鉄グループホールディングス 有価証券報告書 第115期(2026年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 近鉄グループホールディングス 有価証券報告書 第115期(2026年3月期)【従業員の状況】
  • 近鉄グループホールディングス 有価証券報告書 第115期(2026年3月期)【連結損益計算書】
  • 近鉄グループホールディングス 有価証券報告書「第115期(2026年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 近鉄グループホールディングス 有価証券報告書「第115期(2026年3月期)【役員の状況】」
  • 近鉄グループホールディングス 有価証券報告書「第115期(2026年3月期)【役員の報酬等】」
  • 近鉄グループホールディングス コーポレート・ガバナンスに関する報告書「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」

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