日東電工大型偏光板技術の杭州錦江集団への供与と、ボリュームゾーンからの離脱

世界シェア首位の主力を抱え続けるか、渡して次の山へ移るか——40年育てた偏光板の扱い

時期 2017年11月
意思決定者(推定) 髙﨑秀雄 社長
論点 主力事業の位置づけと収益構造
概要
2017年11月、日東電工は杭州錦江集団および関連各社と大型偏光板の技術提携契約を結び、世界シェア首位級の主力製品の製造技術を中国の大手へ供与した。価格競争の側へ落ちた大型パネル向けから順次退き、高付加価値の領域へ資源を移す判断であった。
背景
1975年4月に液晶表示用偏光フィルムの製造を始め、1999年の尾道事業所と韓国・台湾・中国の現地生産子会社で顧客に張り付く供給体制を築いた。2013年時点で偏光板の世界シェアは約4割で首位にあったが、液晶テレビのコモディティ化に伴う価格下落の波が同じ製品に押し寄せていた。
内容
大型パネル向けの製造技術を中国メーカーへ渡し、自社はハイエンドとニッチトップの領域に絞る。髙﨑秀雄社長は技術供与の3か月後、ボリュームゾーンでは2番手・3番手に大した利益は望めないと語り、差別化と参入障壁の高さを事業選択の基準に置いた。
含意
2018年3月期は売上収益8,573億円・営業利益1,257億円で当時の過去最高を記録した。ただし営業利益の約7割は液晶用部材を中心とするオプトロニクス事業に依るところで、医療やパーソナルケアという次の柱の育成が課題として残った。
筆者の見解

世界一の製品を渡す時期の読み

2番手や3番手では大した利益は望めない、という髙﨑秀雄社長の言い方は、事業をシェアではなく利益で測る立場を示している。1975年に始めて世界シェア約4割まで育てた偏光板は、その基準に照らすと大型パネル向けでは守る価値が薄れていた。渡さなければ価格競争の場で消耗するという読みと、まだ対価の付くうちに渡すという時期の読みが重なった判断だとみられる。何代か前の社長が売ってしまえと言った技術を残し、後の社長が一部を渡す側に回った経緯も、同じ製品への評価が時期で変わることを示している。

ただ、技術を渡しても収益の偏りはすぐには動かなかった。2017年度の営業利益の約7割は液晶用部材を中心とするオプトロニクス事業に依り、医療事業の売上は2016年度に444億円で、2025年度3,000億円という目標との距離は遠かった。2025年3月期に売上収益1兆円を超えた会社が何で立っているかは、この一件だけでは説明しきれない。主力を手放す判断は、次の主力が育つ速さとの競争になる性質を持つといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

40年かけて首位に立った製品

日東電工が液晶表示用の偏光フィルムの製造を始めたのは1975年4月である。1999年1月に尾道事業所を液晶表示関連材料の専門工場として操業して量産体制を整え、同年11月にKorea Nitto Optical、2003年4月にTaiwan Nitto Optical、2005年7月にShanghai Nitto Opticalと、韓国・台湾・中国のパネルメーカーの近くへ生産子会社を置いていった。2013年には液晶パネル用偏光板で約4割の世界シェアを握り、首位に立っている[1][2]

ただ、首位に立った製品の市場そのものが値下げの場になっていった。2000年代前半から半ばに業績を牽引した液晶テレビ用偏光板には価格下落の波が押し寄せ、日東電工はサイズの拡大と広視野角化で応じ、さらにロール状で顧客の工場へ持ち込む供給方法を考案して検査効率と輸送費で差をつけた。柳楽幸雄社長は2013年に、コモディティ化の影響を受ける前に勝ち方を変えると述べている[3]

決断

2017年11月、製造技術を中国大手へ渡す

2017年11月、日東電工は杭州錦江集団およびその関連各社と大型偏光板の技術提携契約を結んだ。液晶パネル向け偏光板の製造技術を中国の大手へ供与する契約で、コモディティ化した大型分野から自社が順次退くための手当てにあたる。40年かけて世界シェア首位まで育てた製品の作り方を、これから同じ市場で売る相手へ渡す取り決めであった[4]

契約の3か月後、髙﨑秀雄社長は事業の選び方を語っている。ボリュームゾーンの市場は簡単に参入できるが2番手や3番手では大した利益は望めず、ハイエンドでトップになれるところで利益を伸ばす、いかに差別化して参入障壁を高くするかが最も大事だという説明である。主力の光学フィルムについては、何代か前の社長が売ってしまえと言った古い技術を最終的に手放さなかった経緯にも触れ、運も含めて経営だと述べた[5][6]

結果

過去最高益と、消えなかった偏りの検証

業績の数字は供与の直後に伸びた。2018年3月期の売上収益は8,573億円、営業利益は1,257億円で、当時の過去最高を記録している。ただし2017年度の営業利益のうち約7割は液晶用部材を中心とするオプトロニクス事業に依るところで、収益の偏りは技術供与によって直ちに解けたわけではない。医療事業の売上は2016年度に444億円で、2025年度に3,000億円規模へ伸ばす目標との差は大きかった[7][8]

次の柱づくりは買収で進んだ。2022年5月にウェアラブル機器向けの柔軟センサーを持つ米Bend Labsを、翌6月には英Mondi plcのパーソナルケア事業を買収し、不織布・機能フィルムの領域へ入る。2025年3月期の連結売上収益は1兆138億円、営業利益は1,857億円となり、創業から107年目で初めて売上1兆円を超えた。偏光板の一部を渡した会社が、その後も売上と利益を伸ばした事実は残る[9][10]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2013年9月13日号「ニッチ市場をとことん攻める 日東電工」
  • 週刊東洋経済 2018年2月10日号「トップに直撃 日東電工 社長 高崎秀雄 Q.あえてニッチな分野を狙うのはなぜですか?」
  • 日東電工 有価証券報告書(2025年3月期)【沿革】
  • 日東電工 有価証券報告書(2018年3月期・連結・IFRS)
  • 日東電工 有価証券報告書(2025年3月期・連結・IFRS)

免責事項およびポリシー