沖電気工業の半導体事業を買収(2008年・ロームの決断)

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ローム:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)

何をなぜ決めたか:重なりの少ない製品と工場の取得による垂直統合型企業への拡大

概要
概要

2008年5月28日、ロームの取締役会は、沖電気工業が半導体事業を分割して設ける新会社の株式95%を取得する基本合意を決議し、同日に締結した。7月24日に株式譲渡契約を締結し、10月1日に株式を取得して子会社化した。取得価額は85,758百万円で、資金は全額を自己資金とした。掲げた狙いは、重なりの少ない事業を加えて幅広い製品群を持つ垂直統合型(IDM)半導体企業へ発展し、売上と収益性を高めることにある。

決断と組で示したのは、工場と販売網の使い分けである。低消費電力・高耐圧・デジアナ混載などの製品は買収先の工場を活用し、外部のファンダリに依存していたシステムLSI・ロジックLSIはロームの製造プロセスを使う方針とした。販売でも両社の国内外の営業網と技術支援網を活用するとした。発表時の代表者は、ロームが佐藤研一郎社長、沖電気工業が篠塚勝正社長である。

背景
背景

基本合意の時点で両社に人的・資本的関係はなく、ロームから見た沖電気工業は顧客の1社であった。沖電気工業は全社の経営改革の中で半導体事業の位置づけを検討し、ロームは垂直統合型企業として発展する機会を継続して検討していた。売り手の半導体事業は2008年3月期に売上高141,559百万円、営業利益3,847百万円で、従業員は連結で約6,000名、工場は宮城・宮崎・東京・タイに置いていた。

買い手のロームは減収に転じていた。2008年3月期の売上高は373,405百万円で2007年3月期の395,081百万円を下回り、集積回路の売上高は162,940百万円と前期比6.1%減少した。一方で自己資本比率は86.7%、現金及び現金同等物は325,715百万円で、借入金の明細に記載すべき残高はなかった。買収の対象は、ロームの売上高の約38%にあたる事業であった。1988年8月に汎用SRAMへ進出した際のロームは旧世代の16K・64Kに絞り、大手の投資が向かう分野を避けていた。

内容
内容

対価は100%相当の株式価値900億円を基礎に、分割期日の調整項目を加除して決める方式とした。最終の取得価額は85,758百万円である。基本合意の時点で92,374百万円を予定した新会社の純資産は取得時に68,699百万円、総資産は130,738百万円から119,383百万円となった。連結の開始時に計上したのれんは21,562百万円で、均等償却の期間は5年である。

沖電気工業に残った株式は5%で、売り手は事業譲渡関連損失5,217百万円を計上して半導体事業から撤退した。ロームは取得の半年後から資金を入れている。2009年3月期末のOKIセミコンダクタ向けの長期貸付金は24,400百万円となった。同社の資本金は2011年3月期までに20,000百万円から27,600百万円へ増加し、ロームの持分比率は96.6%を経て2012年3月期に100%となった。

沿革:意思決定前後の出来事12件
考察:製品を買い、工場を残した買収
考察

考察:製品を買い、工場を残した買収

この決断は、成長が鈍った半導体メーカーが自社の開発と増産を続けるか、他社の事業を買収して製品の幅を一度に広げるかという問いへの答えである。ロームは後者を選び、集積回路の売上高が前期比6.1%減の局面で85,758百万円を投じた。結果は部分的な成功である。買収先は2010年3月期に純損失17,363百万円を計上し、収益を買う投資としては想定に届かなかった。一方で工場は残り、2025年3月期末のラピスの設備は79,071百万円の規模を保つ。生産拠点の確保としては成果を残した。

1988年8月に汎用SRAMへ進出した際、ロームは旧世代の16K・64Kに絞り、大手が投資を集める分野を避けた。その会社が2008年には他社の半導体事業を買収し、翌2009年7月にはウエハ製造のサイクリスタル社も買収して、範囲を広げる方向へ転じた。2008年の買収の資金は全額が自己資金である。ところが2023年9月には東芝の非公開化に関わる出資と優先株の引受け計3,000億円を契約し、ブリッジローンを充てた。2024年3月期の自己資本比率は81.4%から65.3%へ低下している。買収で規模を広げる判断が繰り返され、自己資金の枠を超えたとみられる。

同じ時期の国内の半導体再編と比べると、違いは対価にある。ルネサスエレクトロニクスは2010年4月に合併比率1対20.5の合併で発足し、2011年3月期の売上高は1,137,898百万円、純損失は115,023百万円であった。株式を用いて3系統の事業を統合した形である。ロームの売上高は2008年3月期で373,405百万円にとどまるが、対価は現金で払った。沖電気工業は同じ取引で半導体事業から撤退し、5,217百万円の損失を計上した。ロームが買い手に回れた理由は、自己資本比率86.7%という財務の余力に絞られる。

Yutaka Sugiura, 2026年11月

数字で見る

数値:意思決定前後の事業数値3件

ローム:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

2010年3月期に27,453百万円あったのれんは、3期後に100百万円まで減少した

ローム:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産のれん償却額減損損失(全社)備考
2005年3月期−1,803−−のれんの区分は買収前には無い
2006年3月期−2,546−−
2007年3月期−2,674−−
2008年3月期−3,423−1,592
2009年3月期19,40622,4622,15611,90810月にOKIセミコンダクタを連結。のれん21,562を計上
2010年3月期27,45337,9295,2811,737サイクリスタルとカイオニクスの買収でのれん12,876を追加
2011年3月期20,34628,2257,0582,516
2012年3月期5,56111,6105,25124,180のれんの減損12,063を含む。うち8,622が買収時ののれんの見込み額
2013年3月期1003,7242,10055,046のれんの減損3,428を含む
2014年3月期663,00533951
出所:ローム 有価証券報告書 第48期〜第56期(連結貸借対照表、連結キャッシュ・フロー計算書、連結損益計算書、減損損失の注記)
出所:ローム 有価証券報告書 第48期〜第56期(連結貸借対照表、連結キャッシュ・フロー計算書、連結損益計算書、減損損失の注記)

ローム:全社の業績と手元資金の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)

2008年3月期に18.0%だった営業利益率は、2013年3月期に赤字となった

ローム:全社の業績と手元資金の推移
(百万円)売上高営業利益当期純損益現金及び現金同等物備考
2004年3月期355,630−63,717310,578営業利益は手元の有報に載らない
2005年3月期369,02376,05445,135288,974
2006年3月期387,79068,31848,304280,465
2007年3月期395,08169,49747,446312,178
2008年3月期373,40567,36131,931325,715
2009年3月期317,14010,5409,837262,210OKIセミコンダクタの連結は10月から。買収の支出は81,460
2010年3月期335,64018,8097,134259,135
2011年3月期341,88532,7369,632230,721
2012年3月期304,6526,352△16,106208,745
2013年3月期292,410△921△52,464197,045減損損失55,046を計上
2014年3月期331,08723,63532,091240,391
出所:ローム 有価証券報告書 第48期〜第56期(主要な経営指標等の推移、連結損益計算書)
出所:ローム 有価証券報告書 第48期〜第56期(主要な経営指標等の推移、連結損益計算書)

ローム:集積回路・LSIセグメントの推移

LSI売上高(百万円)LSIセグメント損益率(%)

LSIの減損損失は2013年3月期に37,174百万円に達した

ローム:集積回路・LSIセグメントの推移
(百万円)LSI売上高LSIセグメント損益LSIの減損損失備考
2006年3月期170,087−−2009年3月期までは品目別の販売実績。損益の開示は無い
2007年3月期173,441−−
2008年3月期162,940−−
2009年3月期159,924−−10月からOKIセミコンダクタを含む
2010年3月期182,1521,915−
2011年3月期176,6726,5991,794
2012年3月期149,134△6,66514,608
2013年3月期140,761△7,82437,174
2014年3月期154,1839,216205モジュールを別のセグメントに区分
出所:ローム 有価証券報告書 第48期〜第51期(生産、受注及び販売の状況)・第53期〜第56期(セグメント情報)
出所:ローム 有価証券報告書 第48期〜第51期(生産、受注及び販売の状況)・第53期〜第56期(セグメント情報)
参考文献

参考文献

参考

  • ローム 有価証券報告書 第50期(2008年3月期)【重要な後発事象】
  • ローム 有価証券報告書 第51期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】
  • 沖電気工業 有価証券報告書 第85期(2009年3月期)【企業結合等関係】
  • ローム 有価証券報告書 第51期(2009年3月期)【主要な経営指標等の推移】
  • ローム 有価証券報告書 第50期(2008年3月期)【生産、受注及び販売の状況】
  • ローム 有価証券報告書 第50期(2008年3月期)【連結附属明細表】
  • 日経ビジネス 1989年2月27日号
  • ローム 有価証券報告書 第52期(2010年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書関係】
  • ローム 有価証券報告書 第52期(2010年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】
  • 沖電気工業 有価証券報告書 第85期(2009年3月期)【連結損益計算書】
  • ローム 有価証券報告書 第51期(2009年3月期)【主な資産及び負債の内容】
  • ローム 有価証券報告書 第53期(2011年3月期)【関係会社の状況】
  • ローム 有価証券報告書 第54期(2012年3月期)【関係会社の状況】
  • ローム 有価証券報告書 第51期(2009年3月期)【沿革】
  • ローム 有価証券報告書 第52期(2010年3月期)【沿革】
  • ローム 有価証券報告書 第53期(2011年3月期)【企業結合等関係】
  • ローム 有価証券報告書 第54期(2012年3月期)【対処すべき課題】
  • ローム 有価証券報告書 第55期(2013年3月期)【企業結合等関係】
  • ローム 有価証券報告書 第63期(2021年3月期)【事業の内容】
  • ローム 有価証券報告書 第66期(2024年3月期)【関係会社の状況】
  • ローム 有価証券報告書 第48期〜第56期(連結貸借対照表、連結キャッシュ・フロー計算書、連結損益計算書、減損損失の注記)
  • ローム 有価証券報告書 第48期〜第56期(主要な経営指標等の推移、連結損益計算書)
  • ローム 有価証券報告書 第48期〜第51期(生産、受注及び販売の状況)・第53期〜第56期(セグメント情報)
  • ローム・沖電気工業 適時開示「ローム株式会社と沖電気工業株式会社との間の半導体子会社株式の譲渡に関する基本合意について」
  • ローム 適時開示「沖電気工業株式会社の半導体子会社株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
  • ローム 適時開示「連結子会社の商号変更に関するお知らせ」
  • ローム 適時開示「減損損失の計上及び業績予想の修正に関するお知らせ」
  • ローム 臨時報告書「臨時報告書(第19条第2項第12号)S100ZC0M」
  • ローム 決算説明会資料「決算説明会 2014年3月期」
  • 沖電気工業 有価証券報告書「第85期(2009年3月期)【企業結合等関係】【連結損益計算書】」
  • 沖電気工業 有価証券報告書「第86期(2010年3月期)【注記事項】」
  • ローム 有価証券報告書「第50期(2008年3月期)【重要な後発事象】【生産、受注及び販売の状況】」
  • ローム 有価証券報告書「第51期(2009年3月期)【経営上の重要な契約等】【主要な経営指標等の推移】」
  • ローム 有価証券報告書「第52期(2010年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】」
  • ローム 有価証券報告書「第53期〜第56期(2011年3月期〜2014年3月期)【セグメント情報】【減損損失】【企業結合等関係】」
  • ローム 有価証券報告書「第63期・第66期・第67期【事業の内容】【関係会社の状況】【主要な設備の状況】【経営上の重要な契約等】」
  • ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書「第9期(2011年3月期)【沿革】【主要な経営指標等の推移】」

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