この判断の核心は、採用の工夫ではなく、製品設計から人材要件を逆算した点にある。カスタマイズをなくすには標準機能を厚くするしかなく、厚くするには設計と実装を分けない社員が要り、その社員は新卒から育てるほかない。三つは一本の線でつながっており、どれか一つだけを真似ても機能しない。競合が追随できなかったのは、機能表を写すことはできても、この線をすべて引き直す必要があったからだと考えられる。同社が新卒に経営資源を集中したのは人材理念が先にあったからではなく、労働市場に必要な人材が存在しなかったためである。
もっとも、同じ線は制約としても働いた。育成に時間を要することを前提に組まれた仕組みは、人員が年に千人単位で増加する速度と両立しない。同社の連結従業員は2010年6月期の2,216名から2017年6月期の7,559名へ7年で3.4倍になり、その間に製品の作り直しも並行して走った。人を先に採るという判断は、採った人を育て切れる速度の内側でのみ成立するものであった。産業に分業の慣行がある限り、その慣行を採らない企業は自前で人を作るしかなく、独自の作り方を選んだ製造業にも同じ構造が現れる。