枚葉式ウエハ洗浄への転換と300mm対応装置の先行量産

2001年実施

まとめ洗いのバッチ式で量産効率を守るか、1枚ずつ洗う枚葉式へ跳ぶか——微細化・300mm時代のウエハ洗浄をめぐる技術選択

更新:

時期 2000年11月
意思決定者 石田明(社長)
論点 洗浄方式の技術選択(バッチ式か枚葉式か)
概要
2000年、大日本スクリーン製造(現SCREENホールディングス)が、複数のウエハを薬液槽でまとめて洗う「バッチ式」に対し、300ミリの大口径ウエハと回路の微細化を見据えて、ウエハを1枚ずつ洗う「枚葉式」に賭けた技術選択。300ミリ対応の枚葉式洗浄装置を業界に先んじて投入し、量産化を進めた。石田明社長のもと、半導体市況の落ち込みのなかでも開発と量産を続けた。
背景
回路線幅の微細化でウエハに残る微細なごみ(パーティクル)の管理が歩留まりを左右し、ウエハが200ミリから300ミリへ大口径化するなか、まとめ洗いのバッチ式では1枚ごとの洗浄条件を細かく揃えにくくなっていた。1枚ずつ確実に洗い、処理時間も短い枚葉式への需要が高まっていた。
内容
2000年11月、300ミリ対応の枚葉洗浄装置「AQUASPIN MP-3000」を販売開始。デザインルール0.13マイクロメートル以下に対応し、1枚のウエハを1つのチャンバーで薬液処理から乾燥まで仕上げる方式を採った。2003年にはユニットを組み替えられる共通プラットフォーム「SU-3000」へ、2006年には毎時300枚の「SU-3100」へと広げた。
含意
量産効率で勝るバッチ式を守るのではなく、微細化と300ミリに合わせて枚葉式へ資源を集めたこの選択は、のちに枚葉式が先端の洗浄工程で主流となる流れを先取りした。SCREENは枚葉式・バッチ式の双方の洗浄装置で世界首位のシェアに立った。
筆者の見解

足元の効率を守るか、次の技術に張るか

この決断の核心は、当時の主流だったバッチ式の量産効率を守るのではなく、微細化と300ミリという技術の変化に賭けて、1枚ずつ洗う枚葉式へ資源を集めた点にある。まとめ洗いは一度に多くを処理できる強みを持つ一方、回路が細くなるほど1枚ごとの洗浄条件を揃えにくい。大日本スクリーンは、半導体市況が落ち込み各社が投資を絞りがちな時期に、あえて先の技術に張った。効率という足元の強みと、微細化という将来の要請が衝突したとき、後者を選んだ判断だったといえる。

その選択は、のちに報われた。枚葉式は先端の洗浄工程で主流となり、SCREENは枚葉式・バッチ式の双方の洗浄装置で世界首位のシェアに立った。SU-3000で築いた共通プラットフォームは、SU-3100、SU-3200と世代を重ねて処理能力を上げ、いまや枚葉式は同社の中核事業を支える。もっとも、この判断が正しかったと言えるのは、その後も微細化が進み、枚葉式の優位が続いたからでもある。足元の量産効率を守るか、次の技術に張るか——2000年前後のこの技術選択は、装置産業が繰り返し向き合う問いを、早い時期に自ら選び取った例として残る。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

ウエハ洗浄という工程と、バッチ式の効率

半導体は、シリコンの薄い円板であるウエハの上に、洗浄・成膜・露光・エッチングといった処理を何百回も繰り返して回路を刻む。なかでも洗浄は、ウエハに残る微細なごみ(パーティクル)を取り除いて次の工程へ渡す要にあたり、回路線幅の微細化が進むほど、わずかな異物が歩留まりを左右する。従来は、複数のウエハを薬液槽にまとめて浸す「バッチ式」が量産の主流で、一度に多数を処理できる効率が強みだった[1]

1990年代の終わりから、この前提が揺らぎ始めた。回路がさらに微細になり、ウエハの直径が200ミリから300ミリへ拡大すると、槽の中で多数を一括処理するバッチ式では、1枚ごとに洗浄の条件を細かく揃えることが難しくなる。そこで、ウエハを1枚ずつ処理する「枚葉式」に目が向いた。高い洗浄性能と1枚あたりの処理時間の短縮を両立でき、高濃度の薬液に代えて水を主成分とする環境負荷の低い薬液も使いやすい。微細化と大口径化が、枚葉式への需要を押し上げていた[2]

写真製版から半導体洗浄へ来た大日本スクリーン

大日本スクリーン製造は、京都で写真製版に使う「スクリーン」の国産化から出発した会社である。石田家が写真製版用スクリーンの製法を発明し、その工業化のために前身の製造所を興して以来、精密な画像を化学的に加工する技術を土台に、写真製版機器から半導体製造装置へと事業を伸ばしてきた。やがてウエハ洗浄装置を事業の柱の一つに育て、微細化と300ミリ大口径化という次の技術の波を前に、蓄えてきた洗浄技術をどう賭けるかを問われていた[3]

決断

300mm対応の枚葉式洗浄装置を先んじて投入

2000年11月30日、大日本スクリーンは、300ミリウエハに対応した枚葉洗浄装置「AQUASPIN(アクアスピン)MP-3000」の販売を始めた。回路線幅0.13マイクロメートル以下の洗浄に対応し、多品種を少量ずつつくるシステムLSIの生産に向く。特徴は、1枚のウエハを1つのチャンバーの中で、複数の薬液処理からリンス、乾燥まで一貫して仕上げる「ワンチャンバー方式」にあった。乾いた状態で入れ、乾いた状態で取り出すこの方式を4つのチャンバーに標準搭載し、1枚ずつの丁寧な洗浄と生産性を両立させた[4]

この装置は単発の製品ではなく、枚葉式に体系で取り組む意思の表れだった。大日本スクリーンはMP-3000の開発を機に枚葉洗浄装置群を「AQUASPIN」と名づけ、スクラバーやポリマー除去装置、CMP後洗浄装置、スピンプロセッサーなど6機種をそろえた。まとめ洗いで量産効率を稼ぐバッチ式は、当時なお洗浄の主流だった。効率で勝る方式を守るのではなく、微細化と300ミリに合わせて枚葉式へ資源を集めたこの選択は、各社が投資を絞りがちな時期の先行投資でもあった[5]

共通プラットフォーム化で枚葉式を量産技術へ

枚葉式は、装置を1台ずつ売る段階から、顧客の工程に合わせて組める量産の仕組みへと育っていった。2003年11月、大日本スクリーンの半導体機器カンパニーは、300ミリ対応の共通プラットフォーム洗浄装置「SU-3000」を発売した。ブラシで異物を落とす、複数の薬液を扱う、レジスト由来のポリマーを除くといった5種類の枚葉処理ユニットから、4つまで選んで1台に搭載できる。制御ソフトを共通にして操作の差を抑え、工程ごとに最適な洗浄を1台で組める仕様とした。国内価格は2億円から、初年度に30台の販売を見込んだ[6]

結果

世代を重ねて生産性を高めた枚葉式ライン

枚葉式のプラットフォームは、世代を重ねるごとに生産性を高めた。2006年11月、大日本スクリーンは新機種「SU-3100」を発売した。最大8台のチャンバーを積める新プラットフォームと、ウエハを速く運ぶ搬送の仕組みにより、毎時300枚の処理能力に達した。線幅65ナノメートルの量産が本格化し、45ナノメートルの生産も見据えられるなか、製造工程のおよそ4分の1を占める洗浄で、性能と生産性を兼ね備えた枚葉式への需要は年ごとに高まっていた。同社はこの新機種で、国内外の洗浄装置シェアの拡大を狙った[7]

処理能力の引き上げは、その後も続いた。2010年には後継機のSU-3200で処理室を8個から12個に増やし、1時間あたりの処理能力を従来の2.7倍にあたる800枚へ高めた。1枚ずつ洗うがゆえに処理量で見劣りしがちだった枚葉式の弱みを、装置の設計で埋めていったことで、枚葉式は量産ラインで通用する速さを備えていった。かつて量産効率でバッチ式に譲っていた枚葉式は、微細化の進む先端工程で洗浄の主役に近づいた[8]

出典・参考