東レUL認証不正の公表と処分:毎年の一斉調査で自ら掘り当てた樹脂製品の認証不正を、判明の当日に公表し、有識者調査委員会へ委ねた

更新:

時期 2022年1月
当時の社長 日覺昭廣
論点 樹脂製品のUL認証不正とグループ品質保証体制の実効性
概要

東レグループ全体で毎年実施している品質不正に関するアンケート「一斉調査」によって、米国の第三者安全科学機関であるUL LLCの認証登録における不適正行為が判明した。対象は樹脂製品の一部で、2022年1月31日に公表するとともに、同日付で有識者調査委員会を設置した。

4月8日には、調査の結果判明した事実関係と再発防止策を記載した調査報告書を受領した。同報告書は、不適正行為が長年にわたって継続されたことと、その原因分析を指摘したうえで、再発防止策の提言を示している。

背景

2017年、子会社の東レハイブリッドコード株式会社で製品検査データの書き換えが判明していた。この事案について法令違反はなく、顧客の製品の安全性に問題がないことも確認されたが、会社はこれを契機にグループ全体の品質データの一斉調査を始め、品質保証体制の整備推進と実効性を監督する品質保証本部を設立した。

UL認証登録の不適正行為は、この一斉調査が5年目に掘り当てた。前の事案への手当てとして作った仕組みが、次の不正を自ら掘り出した形になった。

内容

会社は事態を重く受け止めて再発防止策の方針を固め、具体的施策に着手した。施策の進捗は取締役会と監査役が定期的に報告を受け、ガバナンス機能を発揮する形をとった。製品の安全性についても、顧客の製品において東レ製品を起因として大きな問題が生じていないかの確認を加速し、UL以外の認証についても別途検証を行う方針を示した。

経営責任は二段で処理された。2022年5月に取締役の経営責任を明確にし、10月に管理監督責任と実行行為責任について処分を行っている。

含意

11月8日、顧客への説明の完了、UL認証の再登録の完了、ISO9001の一時停止の解除を併せて公表した。業績への影響は限定的で、本件により業績が大きく悪化することは想定していないとされ、当該事業を含む機能化成品事業の売上収益は公表の期に9,100億円と前期比26.3%増、事業利益は910億円と同35.8%増だった。本件による損失の計上額は、会社の公表資料に記載がない。

筆者の見解

仕組みが次の不正を掘り当てた

この事案の芯は、不正そのものよりも、それがどう見つかったかにある。2017年に子会社で検査データの書き換えが判明したとき、会社はグループ全体の品質データを一斉に調べ、品質保証本部を開設した。その一斉調査は毎年のアンケートとして続き、5年目に自社の樹脂製品でUL認証登録の不適正行為を掘り当てている。前の事案への手当てが、次の不正の発見装置になったとみられる。判明の当日に公表し、同じ日に有識者調査委員会を設置したのも、手順が既に用意されていたからだろう。

もっとも、掘り当てたということは、それまで掘れていなかったということでもある。調査報告書が指摘したのは、不適正行為が長年にわたって継続されたという事実だった。2017年の事案の直後に行った一斉調査では、法令違反や顧客の製品の安全に影響を与える事案はないと確認されている。同じ設問が5年後に答えを変えたのなら、変わったのは行為ではなく、答えられる空気のほうではないか。機能化成品事業の売上収益は公表の期に9,100億円と前期比26.3%増で、数字の上では何も起きていない。この種の仕組みの成否は、業績ではなく、次の5年に何が出てくるかで測られる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

不正の経緯と会社の対応

科目 概要 備考
判明の端緒 品質不正に関するアンケート「一斉調査」 東レグループ全体で毎年実施しているもの。2017年の事案を受けて始めた
不適正行為の内容 UL LLCの認証登録における不適正行為 米国の第三者安全科学機関による製品安全の認証登録をめぐるもの
対象 樹脂製品の一部 販売している樹脂製品の一部における第三者認証登録に関する不適切行為
公表 2022年1月31日 判明を受けて公表。同日付で有識者調査委員会を設置した
調査の体制 有識者調査委員会 公表と同日に設置し、徹底的な調査と原因究明にあたった
調査報告書の受領 2022年4月8日 事実関係と再発防止策を記載。長年にわたる継続とその原因分析を指摘
経営責任 2022年5月に取締役の経営責任を明確化 有識者調査委員会の提言を踏まえたもの
関係者の処分 2022年10月に実施 管理監督責任と実行行為責任について処分を行った
UL認証の再登録 2022年11月8日に完了を公表 顧客への説明の完了、ISO9001の一時停止の解除と併せて公表した
検証の範囲 UL以外の認証についても別途検証 問題があれば適切な対応を行う方針。顧客の製品への影響の確認も加速
業績への影響 限定的 本件により業績が大きく悪化することは想定していないとされた
損失の計上額 会社の公表資料に記載なし 本件を要因とする損失の金額は開示されていない

出所:東レ 有価証券報告書 第141期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】/コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2022年5月13日)/2022年度第2四半期決算説明会 質疑応答

東レ:機能化成品事業の売上収益と事業利益

(億円) 売上収益事業利益 備考
2017年3月期 日本基準。国際会計基準への移行日は2019年4月1日で、基準が異なる
2018年3月期 日本基準。国際会計基準への移行日は2019年4月1日で、基準が異なる
2019年3月期 日本基準。国際会計基準への移行日は2019年4月1日で、基準が異なる
2020年3月期 7,612545 国際会計基準での開示の初年度
2021年3月期 7,204670
2022年3月期 9,100910 不適正行為を公表した期。樹脂・ケミカルを含む全用途で増収増益
2023年3月期 9,094304 減益は原燃料価格の上昇と電子情報材料の需要減による
2024年3月期 8,861367
2025年3月期 9,449600
2026年3月期 8,944563
2027年3月期 第146期は未到来
機能化成品事業の売上収益と事業利益率
売上収益(億円)事業利益率(%)

出所:東レ 有価証券報告書 第140〜145期(セグメントごとの売上収益及び事業利益)

東レ:連結業績の推移

(億円) 売上収益事業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2017年3月期 日本基準。国際会計基準への移行日は2019年4月1日で、基準が異なる
2018年3月期 日本基準。国際会計基準への移行日は2019年4月1日で、基準が異なる
2019年3月期 日本基準。国際会計基準への移行日は2019年4月1日で、基準が異なる
2020年3月期 20,9121,255842
2021年3月期 18,836903458 米国子会社で減損損失を計上し、営業利益は559億円にとどまった
2022年3月期 22,2851,321842 不適正行為を公表した期。事業利益は全セグメントで増益
2023年3月期 24,893960728
2024年3月期 24,6461,026219
2025年3月期 25,6331,428779
2026年3月期 25,8511,419795 韓国子会社のバッテリーセパレータフィルム事業で減損損失を計上
2027年3月期 第146期は未到来

出所:東レ 有価証券報告書 第140〜145期(経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析)

同じ問いに直面した会社

不祥事後の信頼回復2022年日本M&Aセンター期ずれで計上した83件の一括訂正と、内部統制の作り直し企業統治と会計の信頼性(四半期業績の達成を優先する営業現場の規律)
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2023年MS&ADインシュアランスグループホールディングス独占禁止法違反の処分を受けた損保2社の再発防止と政策株式の放棄企業保険分野の保険料調整行為と再発防止
出典・参考
  • 東レ 有価証券報告書「第141期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 東レ 有価証券報告書「第137期(2018年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 東レ コーポレート・ガバナンスに関する報告書「2022年5月13日提出・2023年5月17日提出(内部統制システムの運用状況の概要)」
  • 東レ 決算説明会資料「2021年度第3四半期 決算説明会 質疑応答(2022年2月10日)」
  • 東レ 決算説明会資料「2022年度第2四半期 決算説明会 質疑応答(2022年11月11日)」
  • 東レ 有価証券報告書「第140〜145期(セグメント情報・経営成績の分析)」

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