ANAホールディングスLIMの天下り禁止提案に反対:上場関連会社への役員派遣と共同保有の開示を定款で縛る提案の否決と、議決権行使の裁量の維持

更新:

時期 2025年4月
当時の社長 芝田浩二
論点 上場関連会社への役員派遣と共同保有の開示を定款で縛るかどうか
概要

2025年4月11日付の書面で、株主であるLIM Japan Event Master Fundが、第80回定時株主総会の議題として定款一部変更2件の付議を求めた。上場子会社又は上場関連会社への天下りの禁止と、共同保有の開示である。

5月22日の取締役会は2件いずれにも反対することを決議し、6月27日の総会で第5号議案は賛成8.4%、第6号議案は賛成8.9%で否決された。可決には出席議決権の3分の2以上の賛成が要る。会社提案の第1号から第4号議案はすべて可決されている。

背景

当時の上場関連会社はジャムコと空港施設の2社で、上場子会社は無い。空港施設は2023年6月の定時株主総会で、当時の代表取締役社長執行役員を再任する取締役選任議案に、ANAホールディングスと日本航空がともに反対の議決権を行使している。

提案の理由が突いたのは、両社で約42%を保有しながら空港施設の株価純資産倍率が2013年以来1倍を割り、直近で約0.5倍にとどまる点であった。2024年3月末の政策保有株式は、非上場株式以外が30銘柄・99,168百万円である。

内容

第5号議案は、自社またはその子会社・関連会社で5年以上役員か従業員として勤務した者を候補とする会社提案の取締役選任議案に、上場子会社・上場関連会社の総会で賛成の議決権を行使してはならないという条文の新設を求めた。提案の理由は 『上場子会社又は上場関連会社が展開する事業の専門家でない当社出身者による「天下り」は、投資先の企業・株主価値を高めるという観点から、適切な人選とは言えない』 とする。

第6号議案は、上場会社の他の株主と議決権その他の権利を共同行使する合意がある場合に、その上場会社の商号・合意の相手方・合意の内容をコーポレート・ガバナンスに関する報告書で開示するよう求めた。

含意

反対の論拠は2つである。議決権行使は取締役の業務執行権限に属し、定款で固定的かつ一律に拘束することは柔軟かつ機動的な業務執行に適さない。共同保有者に当たる場合は金融商品取引法が大量保有報告書の提出を義務づけており、定款に重ねて定める必要はない。空港施設の議決権行使について他の株主との合意はなかった。

2026年3月期にジャムコ株式の全部を売却して持分法の適用範囲から外し、上場関連会社は空港施設1社、議決権所有比率20.9%となった。政策保有株式は29銘柄・98,074百万円である。

筆者の見解

定款で縛られなかった議決権

この提案が問うたのは役員人事の是非ではなく、親会社の議決権行使を誰がどこまで縛れるかであった。上場関連会社の総会でどう投票するかは取締役の業務執行にあたり、その都度の判断に委ねられている。提案はそこへ定款という最も硬い規範を持ち込み、一定の経歴を持つ候補者への賛成をあらかじめ封じようとした。賛成は8.4%にとどまったが、否決の理由は提案の問題意識が退けられたことではなく、手段が業務執行の裁量と噛み合わなかったことにあるように思われる。

もっとも、共同保有の開示を求めた第6号議案の賛成8.9%が第5号議案を上回った点は見過ごせない。二社で約42%を握る株主が同じ議案に同じ票を投じる構図そのものへの疑いが、人事の当否より広く共有されていたということだろう。実際、提案の翌期にジャムコ株式は全部売却され、上場関連会社は空港施設1社に減った。政策保有株式も非上場株式以外が29銘柄へ細っている。定款は変わらなかったが、問われた保有の構図のほうが先に動いたとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

株主提案の条件

科目 概要 備考
提案株主 LIM Japan Event Master Fund 2025年4月11日付の書面を4月14日に受領。招集通知の記載は株主1名からの提案
対象の総会 第80回定時株主総会(2025年6月27日) 会社提案の第1号から第4号議案に、株主提案2件が加わった
提案の議題 定款一部変更2件(第5号・第6号議案) いずれも定款に新しい章と条文を新設する内容
第5号議案の要領 グループ出身者を候補とする選任議案への賛成禁止 5年以上役員又は従業員の勤務経験がある者が対象。定款第41条を新設する
第5号議案の理由 空港施設の株価純資産倍率が約0.5倍 2社で約42%を保有。事業の専門家でない出身者の派遣を問題とした
第5号議案への取締役会の意見 反対 議決権行使は取締役の業務執行権限で、定款で固定的かつ一律に拘束するのは適切でない
第6号議案の要領 共同保有の合意をガバナンス報告書で開示 上場会社の商号・合意の相手方・合意の内容を開示する。定款第42条を新設する
第6号議案の理由 空港施設の2023年6月総会での議決権行使 社長を再任する議案に日本航空とともに反対票を投じた点を挙げた
第6号議案への取締役会の意見 反対 共同保有者に当たれば金融商品取引法で開示義務があり、当該行使に合意はなかった
可決の要件 出席議決権の3分の2以上の賛成 議決権を行使できる株主の議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提
第5号議案の結果 否決(賛成8.4%) 賛成238,186個・反対2,587,668個・棄権2,505個
第6号議案の結果 否決(賛成8.9%) 賛成253,794個・反対2,572,395個・棄権2,152個

出所:ANAホールディングス 2025年4月14日「株主提案に関する書面受領のお知らせ」/2025年5月22日「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」/臨時報告書(2025年7月2日提出)

ANAホールディングス:第80回定時株主総会の議案別の議決権数

(個) 賛成反対棄権 備考
第1号 剰余金処分 2,810,62117,061801 会社提案。1株60円・総額28,227,648,480円の配当。可決(98.8%)
第2号 定款一部変更 2,802,79224,909801 会社提案。社債型種類株式の発行を可能にする変更。可決(98.5%)
第3号 片野坂真哉 2,311,600513,3383,538 会社提案の取締役選任。可決(81.3%)
第3号 芝田浩二 2,191,307633,6313,538 可決(77.0%)
第3号 平澤寿一 2,305,068522,615802
第3号 直木敬陽 2,419,529408,154802
第3号 中堀公博 2,618,191209,491802
第3号 種家純 2,618,865208,818802
第3号 井上慎一 2,496,850330,833802
第3号 山本亜土 1,917,093910,586802 可決(67.4%)で11名中最も低い
第3号 勝栄二郎 2,504,761322,924802
第3号 峰岸真澄 2,515,343312,342802
第3号 井上ゆかり 2,653,071174,615802 可決(93.3%)で11名中最も高い
第4号 菊池伸 2,532,501295,106801 会社提案の監査役選任。可決(89.0%)
第5号 天下りの禁止 238,1862,587,6682,505 株主提案。上場関連会社の役員選任議案への賛成を禁じる条項。否決(8.4%)
第6号 共同保有の開示 253,7942,572,3952,152 株主提案。共同保有の合意の開示を求める条項。否決(8.9%)

出所:ANAホールディングス 臨時報告書(2025年7月2日提出)第80回定時株主総会の議決権行使結果

ANAホールディングス:政策保有株式の貸借対照表計上額の推移

(百万円) 非上場株式以外の株式非上場株式 備考
2021年3月期 101,38812,921 非上場株式以外は36銘柄、非上場株式は94銘柄
2022年3月期 86,6829,164 非上場株式以外は27銘柄、非上場株式は93銘柄
2023年3月期 94,0589,022 非上場株式以外は30銘柄、非上場株式は92銘柄
2024年3月期 99,1688,596 提案の理由が引いた期。非上場株式以外は30銘柄、非上場株式は90銘柄
2025年3月期 93,2548,136 非上場株式以外は30銘柄、非上場株式は89銘柄
2026年3月期 98,0749,647 非上場株式以外は29銘柄。うち外国航空会社株式が32,986百万円で33.6%
2027年3月期
2028年3月期
2029年3月期
2030年3月期
2031年3月期
政策保有株式の貸借対照表計上額
非上場株式以外の株式(百万円)非上場株式(百万円)

出所:ANAホールディングス 有価証券報告書 第71〜76期【株式の保有状況】

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出典・参考

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