ANAホールディングス ピーチを304億円で子会社化 独立系LCCの傘下入れによる低運賃市場への本格参入

更新:

時期 2017年2月
当時の社長 片野坂真哉
論点 マルチブランドLCC戦略と業界再編の主導権
何をなぜ決めたか
概要

2017年2月に発表し、同年4月13日に株式を取得して連結子会社とした経営判断。片野坂真哉社長のもとで、First Eastern Aviation Holdings Limitedと産業革新機構が持つピーチ・アビエーションの株式の一部を買い取り、議決権比率を38.7%から67.0%へ引き上げた。追加取得に支出した現金は304億58百万円、既に保有していた持分の時価を含めた取得原価は720億25百万円であった。

背景

ピーチは2012年に日本初のLCC(格安航空会社)として関西国際空港を拠点に就航した。ANAは設立時から筆頭株主でありながら出資を持分法適用にとどめ、独立した経営に委ねてきた。世界の大手LCCが独立系として伸びた経緯を踏まえた距離の置き方であり、ANAは2017年、その距離の置き方を自ら改めた。

内容

有価証券報告書は企業結合を行った理由を、連結化によるエアライン事業領域の拡大と、フルサービスキャリアとローコストキャリアによるデュアルマーケティングの推進で事業ポートフォリオの最適化を図るため、と記す。企業結合日に受け入れた資産は413億59百万円、引き受けた負債は209億24百万円で、のれんは583億34百万円が15年間の均等償却として計上された。既保有分を時価で評価し直した段階取得に係る差益338億1百万円は、2018年3月期の特別利益となった。

含意

独立系として伸びた会社をあえて子会社化する路線転換であり、国内の空をANA陣営に集約する業界再編の一手であった。翌2018年3月期にはピーチとバニラエアを2019年度末を目途に統合する方針が示され、2019年10月にバニラエアの運航終了で統合が完了した。一方で2020年3月期には、想定していた超過収益力が見込めなくなったとして、ピーチに係るのれん226億65百万円が減損されている。

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筆者の見解
筆者の見解

独立系の成功を取り込むということ

この判断の核心は、独立系であればこそ伸びた会社を、あえて親会社の側へ引き寄せた点にある。出資を持分法にとどめ、自由に走らせることでピーチは日本のLCC市場を開拓した。その距離感を手放してまで子会社化に踏み切った理由を、有価証券報告書は事業ポートフォリオの最適化と記す。フルサービスとローコストの二枚看板を自社の裁量で動かせる状態に置くことが、国内の空を固めるうえで優先されたとみられる。既に保有していた38.7%を時価で評価し直した段階取得に係る差益338億円が特別利益に立ち、2018年3月期の当期純利益は1,438億円と3期連続の過去最高を記録した。買収が会計上の利益を生む形で始まった点は、この案件の性格をよく表している。

しかし、583億円というのれんは高い期待の裏返しでもあった。子会社化から3年後の2020年3月期、ANAは想定していた超過収益力が見込めなくなったとして、ピーチに係るのれん226億円を減損している。取得時に15年で償却する計画だったものの、4割近くが3年で失われた計算になる。子会社化から1年で決まったバニラエアとの統合は、この買収がLCC1社の獲得ではなく傘下ブランドの整理までを見据えた布石であったことを示すが、集約した先に待っていたのは需要の急収縮であった。独自性を尊重するという方針と、ブランドをピーチへ一本化していく現実とのあいだには、なお距離が残されている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業の名称 Peach・Aviation株式会社 事業内容は航空運送事業。関西国際空港を拠点とする格安航空会社
企業結合を行った主な理由 事業ポートフォリオの最適化 連結化によるエアライン事業領域の拡大とデュアルマーケティングの推進
企業結合日 2017年4月13日 みなし取得日は2017年4月1日。2018年3月期は通期が連結に含まれる
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式の取得 売り手はFirst Eastern Aviation Holdingsと産業革新機構
取得した議決権比率 67.0% 取得直前は38.7%。企業結合日に28.3%を追加取得した
取得企業を決定した根拠 現金を対価として株式を取得したため 有価証券報告書【企業結合等関係】の記載
取得原価 72,025百万円 既保有分の時価41,567百万円と追加取得の現金30,458百万円の合計
追加取得に支出した現金 30,458百万円 28.3%分の対価。既に保有していた38.7%は現金の支出を伴わない
段階取得に係る差益 33,801百万円 2018年3月期の特別利益。同期の特別利益は合計44,758百万円
受け入れた資産の額 41,359百万円 流動資産24,408百万円、固定資産16,950百万円
引き受けた負債の額 20,924百万円 流動負債13,690百万円、固定負債7,234百万円
のれんの金額 58,334百万円 15年間にわたる均等償却。2019年3月期の償却額は3,889百万円
のれんの発生原因 今後の事業展開で期待される超過収益力 暫定的な会計処理ではなく、翌期以降に確定値の修正はない
のれんの減損 22,665百万円 2020年3月期の特別損失。超過収益力が見込めなくなったため
取得関連費用 記載なし 【企業結合等関係】に取得関連費用と業績への影響の記載はない

出所:ANAホールディングス 有価証券報告書 第68期(2018年3月期)【企業結合等関係】・第67期(2017年3月期)【重要な後発事象】・第70期(2020年3月期)【セグメント情報】

のれんと無形固定資産の推移

ANAホールディングス:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2013年3月期 −66,8282,137,242 連結貸借対照表にのれんの独立掲記がない
2014年3月期 −72,6182,173,607
2015年3月期 −85,2502,302,437
2016年3月期 −80,7432,228,808
2017年3月期 1,04189,0042,314,410 2018年3月期の有価証券報告書で前期として組み替え掲記された
2018年3月期 55,336155,2382,562,462 ピーチの取得で58,334を計上した期末の残高
2019年3月期 51,132155,1802,687,122 航空事業ののれん残高は50,557。当期償却額は3,889
2020年3月期 24,461125,5232,560,153 ピーチののれんを22,665減損。航空事業の残高は24,003
2021年3月期 22,346110,1853,207,883
2022年3月期 20,23093,2803,218,433 航空事業の当期償却額は2,001、期末残高は20,001
2023年3月期 18,11587,8203,366,724
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:ANAホールディングス 有価証券報告書 第63期〜第73期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)

航空事業セグメントの推移

ANAホールディングス:航空事業セグメントの推移

(百万円) 航空事業の売上高航空事業のセグメント利益航空事業の減損損失 備考
2015年3月期 1,388,18781,66710
2016年3月期 1,458,517139,7574,285
2017年3月期 1,445,576139,5111,954
2018年3月期 1,642,994156,8735,695 ピーチの連結で売上高が197,418増。減損はピーチと無関係の固定資産
2019年3月期 1,728,645160,556− 減損損失の計上は航空関連事業の1,997のみ
2020年3月期 1,658,76349,55022,665 減損はピーチに係るのれん。同期の全社合計は25,159
2021年3月期 571,709△447,89473,742 新型コロナ禍による航空機等の減損。全社合計は75,575
2022年3月期 857,460△162,9329,357
2023年3月期 1,498,327124,158− 減損損失は該当事項なし
航空事業の売上高とセグメント利益率
航空事業の売上高(百万円)航空事業のセグメント利益率(%)

出所:ANAホールディングス 有価証券報告書 第65期〜第73期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高・セグメント利益・固定資産の減損損失)

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参考文献
出典・参考
  • ANAホールディングス 有価証券報告書(2017年3月期)
  • ANAホールディングス 有価証券報告書(2018年3月期)
  • ANAホールディングス 有価証券報告書(2020年3月期)
  • ANAホールディングス 有価証券報告書「第68期(2018年3月期)【企業結合等関係】【セグメント情報】」
  • ANAホールディングス 有価証券報告書「第67期(2017年3月期)【重要な後発事象】」
  • ANAホールディングス 有価証券報告書「第70期(2020年3月期)【セグメント情報】【連結損益計算書】」
  • ANAホールディングス 有価証券報告書「第63期〜第73期(連結貸借対照表、セグメント情報)」

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