福山通運 第6次中計で政策保有株式を縮減 取引維持のために持ってきた株式の売却と、成長投資・株主還元への振り向け

更新:

時期 2024年5月
当時の社長 小丸成洋
論点 取引関係のために積み上げた政策保有株式の縮減と資本効率の改善
何をなぜ決めたか
概要

2024年5月15日、福山通運が2024年度を初年度とする第6次中期経営計画「Change & Growth 2026」を公表し、基本方針の一つ「資本効率を意識した経営推進」のもとで政策保有株式の縮減を決めた経営判断。中計の3か年で400億円を縮減する目標を置き、2027年3月期には政策保有株式を連結純資産の20%未満とする目標も掲げた。初年度の2025年3月期に上場株式19銘柄を92億7,800万円で、2026年3月期に3銘柄を158億1,800万円で売却した。

背景

福山通運は、営業活動の円滑な推進と取引関係の維持・強化を理由に政策保有株式を持ってきた。2023年度までの保有方針は、銘柄ごとの便益が資本コストに見合うかを取締役会で検証するところまでで、縮減の目標は無かった。2024年3月期末の保有は上場55銘柄の723億2,700万円と非上場27銘柄の12億4,500万円で、連結純資産2,964億円のほぼ4分の1にあたる。同じ期のROEは2.8%で、中長期の目標に置く8.0%を大きく下回っていた。

内容

中計は、安定した営業キャッシュ・フローの確保に加え、有利子負債の活用と保有資産の有効活用で資金を生み、物流インフラへの投資、収益性の高い事業への投資、株主還元に回す組み立てとした。最終年度の2026年度に営業利益率5.3%、ROE6.5%を経過目標に置き、売上高は2023年度実績の2,875億円から3,400億円へ、営業利益は104億円から180億円へ伸ばす計画である。政策保有株式の売却は、2025年5月13日と2026年1月15日の取締役会で個別に検討した。

含意

投資有価証券売却益は2025年3月期に65億3,400万円、2026年3月期に125億3,200万円となり、親会社株主に帰属する当期純利益87億4,800万円と136億9,600万円の大半を占めた。ROEは2.8%から3.0%、4.8%へ戻ったが、経過目標の6.5%には届いていない。2026年2月から4月には自己株式100万株を56億2,800万円で取得して消却し、2026年10月6日には同じ方針による売却で、2027年3月期にさらに80億円の売却益を計上する見込みとなった。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

荷主との証文を資本に戻す

運送会社にとって政策保有株式は、荷主との取引をつなぎ留める証文のようなものだったのだろう。それを3か年で400億円手放すと決めたのは、取引を株の持ち合いではなく運賃と輸送品質で結び直すという宣言とみることができる。同じ中計が運賃の適正化を事業方針の筆頭に置いているのは偶然ではないと思われる。2024年3月期の保有額が735億円まで膨らんだのは株価の上昇によるもので、連結純資産の4分の1が、本業と関わりの薄い値動きに左右される状態にあった。

もっとも、ROEを押し上げているのは、いまのところ売却益という一度きりの利益である。2026年3月期の当期純利益136億9,600万円のうち125億3,200万円が売却益で、本業の営業利益率は2.9%にとどまる。売れる株式には限りがあり、縮減が終われば売却益も消える。売った資金を自己株式の取得と成長投資に回したあとで、営業利益だけでROE6.5%に届くかどうかが、この決断の本当の答えになる。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

業績の推移
政策保有株式の推移

福山通運:政策保有株式の推移

(百万円) 政策保有株式連結純資産売却価額 備考
2020年3月期 39,195256,1383 上場68銘柄。売却は非上場1銘柄のみ
2021年3月期 47,934273,378830
2022年3月期 52,868256,3044
2023年3月期 45,315270,3819,523 中計前に上場4銘柄を売却
2024年3月期 73,572296,415180 株価上昇で保有額が膨らむ。上場55銘柄
2025年3月期 54,495287,7739,278 第6次中計の初年度。上場19銘柄を売却し39銘柄に
2026年3月期 48,524285,14215,819 上場3銘柄を売却し37銘柄に
政策保有株式と連結純資産に対する比率
政策保有株式(百万円)政策保有株式率(%)

出所:福山通運 有価証券報告書 第72期〜第78期(【株式の保有状況】保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の貸借対照表計上額・売却価額、【主要な経営指標等の推移】純資産額)

投資有価証券売却益と当期純利益の推移

福山通運:投資有価証券売却益と当期純利益の推移

(百万円) 投資有価証券売却益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2020年3月期 3012,918
2021年3月期 35615,320
2022年3月期 5216,763
2023年3月期 8,78420,791
2024年3月期 457,834
2025年3月期 6,5348,748 ROEは3.0%
2026年3月期 12,53213,696 ROEは4.8%
当期純利益と投資有価証券売却益
親会社株主に帰属する当期純利益(百万円)投資有価証券売却益(百万円)

出所:福山通運 有価証券報告書 第72期〜第78期(連結損益計算書、【主要な経営指標等の推移】)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 福山通運 臨時報告書「臨時報告書(財政状態・経営成績に著しい影響を与える事象)S100X5A2」
  • 福山通運 適時開示「自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式の取得結果及び取得終了並びに自己株式の消却に関するお知らせ」
  • 福山通運 適時開示「自己株式の取得状況及び取得終了並びに自己株式の消却に関するお知らせ」
  • 福山通運 決算説明会資料「2026年3月期 決算補足説明資料」
  • 福山通運 コーポレート・ガバナンス報告書「コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2026年6月4日)」
  • 福山通運 臨時報告書「臨時報告書(財政状態・経営成績に著しい影響を与える事象)S100Z6F6」
  • 福山通運 有価証券報告書「第76期(2024年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 福山通運 有価証券報告書「第72期〜第78期(【株式の保有状況】【主要な経営指標等の推移】連結損益計算書)」

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