リンテック 日本製紙の売出しと自己株式取得 筆頭株主の持株売出しへの同意と、300億円の自己株式取得による需給の緩和

時期 2026年8月
当時の社長 服部真
論点 筆頭株主の持株解消と資本効率
何をなぜ決めたか
概要

2026年8月20日、リンテックが取締役会で筆頭株主・日本製紙の持株17,095,500株の売出しと、上限300億円・6,910,000株の自己株式取得を同時に決めた経営判断。8月24日に立会外買付取引(ToSTNeT-3)で5,464,400株を29,999,556,000円で取得し、日本製紙はこのうち5,357,800株を売却した。売出しは12,436,600株に減って9月1日に1株5,335円で決まり、9月8日の受渡しで日本製紙の議決権割合は3.12%まで下がった。

背景

日本製紙は2026年3月末に19,659,800株(30.02%)を持つ筆頭株主で、リンテックは日本製紙の持分法適用の関連会社だった。2024年5月の中期経営計画説明会で自己株式取得と大株主との関係を問われたリンテックは、 『関係者との兼ね合いもあるため、本日は詳細な回答を差し控えます』 と答えている。

2026年8月、日本製紙が資本効率の観点から事業ポートフォリオと保有資産をレビューし、保有するリンテック株もその対象として取扱いを検討している旨の申し出があった。

内容

リンテックは売却の時期と手法を日本製紙と協議し、円滑な売却機会の提供、株式の流動性向上、株主層の拡大のいずれにも合う手法として売出しを選び、日本製紙の同意を得た。売出しは主幹事のみずほ証券とSMBC日興証券の引受団が買い取る形で、一部は海外投資家にも販売された。

同じ日に決めた自己株式取得は、株主還元の強化と資本効率の向上に加え、売出しによる株式需給への影響を和らげることを理由に挙げる。日本製紙は取得に応じて持株の一部を売却した。

含意

取得は上限いっぱいの29,999,556,000円に達し、取得総額を取得株式数で割った1株当たりの単価は5,490円になる。2026年6月末の自己株式6,990,328株と合わせた保有は12,454,728株で、発行済株式総数72,488,740株の約17.2%にあたる。

2026年3月末の現金及び預金60,271百万円に対し、300億円はその約半分。9月8日には日本製紙の執行役員を兼ねる社外取締役の佐野孝典氏が辞任した。日本製紙はこの売却で約263億円の関係会社株式売却益を2027年3月期の個別決算に計上する予定である。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

筆頭株主の出口を発行体が用意するという選択

自己株式取得の理由に、売出しによる需給への影響を和らげることが明記されている。日本製紙が手放す約1,779万株のうち約3割の5,357,800株を会社が買い取り、市場が受け止める量を減らしたわけで、株主還元の名目の裏に、売出し価格を守る装置としての役割があったのだろう。30.02%を持つ筆頭株主が去るのに、売出価格は算定基準日の終値から3.00%引きにとどまった。

もっとも、失ったものも小さくない。持分法の関連会社という位置づけは外れ、2024年5月の説明会で「関係者との兼ね合い」を理由に口を閉ざした自己株式の方針は、筆頭株主の持株整理と一体で実行されることになった。日本製紙との原材料の仕入1,784百万円、製品の売上65百万円という取引は残るが、資本で結ばれた関係は薄まる。会社自身が次期の中期経営計画に向け、先端半導体関連の研究開発投資でフリー・キャッシュ・フローがマイナスになる可能性を認めている以上、300億円を使った後の資金の置き場が次の論点ではないか。

Yutaka Sugiura

業績の推移
日本製紙の持株の推移

リンテック:日本製紙の持株の推移

(千株) 日本製紙の所有株式数発行済株式総数(自己株式を除く) 備考
2022年3月期 21,293.569,825.8
2023年3月期 21,293.568,358.8
2024年3月期 20,553.668,403.5
2025年3月期 20,553.667,345.7
2026年3月期 19,659.865,481.4 大株主の状況で30.02%の筆頭。取得前の水準
2027年3月期 1,865.459,876.1 臨時報告書の議決権ベース。議決権割合3.12%。残りは貸株分で、行使期限までに最大で同数が減る
日本製紙の所有株式数と持株比率
日本製紙の所有株式数(千株)日本製紙の所有株式数率(%)

出所:リンテック 有価証券報告書 第128期〜第132期(大株主の状況、所有者別状況) / リンテック 臨時報告書(2026年9月8日・主要株主の異動)

自己株式の取得と自己資本の推移

リンテック:自己株式の取得と自己資本の推移

(百万円) 自己株式の取得による支出自己資本総資産 備考
2022年3月期 6,539209,307302,865
2023年3月期 3,555226,435304,881
2024年3月期 1232,217333,590 自己株式の取得は単元未満株式の買取りのみ
2025年3月期 3,094245,368340,471 2025年2月に決議した取得の開始分
2026年3月期 5,240257,481342,725
2027年3月期 29,999.6−− ToSTNeT-3での取得額29,999,556,000円のみ。期中のほかの取得と期末の残高は未到来
自己株式の取得額
自己株式の取得による支出(百万円)

出所:リンテック 有価証券報告書 第128期〜第132期(連結キャッシュ・フロー計算書、連結貸借対照表) / リンテック ニュースリリース(2026年8月24日・自己株式の取得結果)

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参考文献

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