北米の半導体向け装置事業への参入(2023年・栗田工業の決断)

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栗田工業:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
顧客工場での建設に代わる、完成済み装置のモジュール納入による米国半導体工場の開拓2023年5月12日、栗田工業は中期経営計画「PSV-27」を公表し、電子市場向けの施策の一つに「欧米における新たな事業基盤構築」を置いた。北米では現地拠点のリソースを活用し、最先端半導体向けの装置事業の獲得に挑む。2023年4月に社長に就任した江尻裕彦氏のもとで策定した最初の計画である。

何をなぜ決めたか:顧客工場での建設に代わる、完成済み装置のモジュール納入による米国半導体工場の開拓

概要

2023年5月12日、栗田工業は中期経営計画「PSV-27」を公表し、電子市場向けの施策の一つに「欧米における新たな事業基盤構築」を置いた。北米では現地拠点のリソースを活用し、最先端半導体向けの装置事業の獲得に挑む。2023年4月に社長に就任した江尻裕彦氏のもとで策定した最初の計画である。

方式は、装置を顧客の工場内で建設せず、完成済みの水処理装置をモジュール化して顧客工場内で組み立てる「EP(Engineering&Procurement)+モジュール化」とした。2022年のフィジビリティスタディから事業体制の構築を経て、2025年以降に事業基盤を確立する工程を描いた。

背景

北米には足場があった。1996年に米国でクリタ・アメリカを設立し、2019年3月にU.S.ウォーター・サービスを買収、2020年4月には米国の精密洗浄会社ペンタゴン・テクノロジーズ・グループを連結子会社にした。ペンタゴンへの出資の狙いは「戦略市場である米国、重点事業領域である電子産業分野における市場競争力強化」であった。

もっとも、米国で栗田工業が持っていたのは薬品と精密洗浄の顧客であり、最先端の半導体工場に超純水装置を納めた実績ではなかった。米国では、CHIPS法の署名で約6.5兆円の半導体産業投資が始まっていた。欧州では2015年1月に独BK Giulini GmbHの事業を取得原価32,317百万円で譲り受けている。同じ2023年、荏原製作所も中期経営計画「E-Plan2025」で精密・電子を成長分野に位置づけ、セグメント営業利益率17.0%以上を掲げた。

内容

装置の規模は追わない計画だった。PSV-27は電子市場の2028年3月期の売上高を2,100億円、事業利益率を20%と置いたが、伸びの中心はサービス事業で、装置はサービスにつながるものを厳選して獲得するとした。北米の第一号案件は2024年3月期に一部を先行受注し、全体の規模は「日本においても大型案件と言える水準」で、2~3割が先行受注だった。

採用の理由について、会社は『今回の評価を受けて、EP+モジュールのアプローチは正しかったと考えている』と答えた。残りの受注は権利関係の整理など契約の詳細の調整で遅れ、2025年3月期第4四半期に北米の半導体産業向け大型装置案件として受注した。

含意

受注は続いた。2025年5月には米国と欧州で採用された「EP+モジュール」を新たなモデルとみて電子の売上目標を上積みし、2026年3月期第3四半期には北米で大手ファウンドリ向けの第一号案件も受注した。他方、2025年11月には北米の大型案件で顧客工場の稼働時期に合わせて工事計画を見直した。精密洗浄のペンタゴンは2025年4月に減損損失165億円を計上し、2026年6月に株式譲渡を完了した。

2026年10月29日、クリタ・アメリカが施工中の電子産業向け大型案件で、米国固有の規格・設計認証への対応から設計の見直しとモジュールの再製作が要るとして、連結損益に合計184億円の損失影響が出ると開示した。前回予想からの減益影響は通期で236億円と見込み、損失の全体はまだ確定していない。

いつ何が起きたか12件
筆者考察
考察

考察:買えなかった装置の実績

この決断は、海外の新しい市場に、買収ではなく自社の工法を持ち込んで参入するかという問いへの答えである。栗田工業は米国の半導体投資の拡大を前に、顧客工場での建設をやめ、完成済みの装置をモジュールで納める方式を選んだ。受注の面では、この方式は通用した。2025年3月期第4四半期に北米の大型装置案件を受注し、2026年3月期には大手ファウンドリ向けの第一号案件も受注している。しかし第一号の大型案件では、米国固有の規格・設計認証への対応でモジュールの再製作が必要になり、連結184億円の損失影響が出た。方式は顧客に評価されたが、米国の規格に合わせて設計する力が追いついていなかったとみられる。

欧米で栗田工業が積み上げてきたのは、買収による足場である。2015年1月に独BK Giulini GmbHの事業を取得原価32,317百万円で譲り受け、2019年3月にU.S.ウォーター・サービスを買収し、2020年4月にはペンタゴンを連結子会社にした。薬品と精密洗浄の顧客は買収で得たが、最先端の半導体工場に超純水装置を納めた実績は買収では得ていなかった。2023年の決断は、買収で得た現地拠点のリソースに、日本で培った装置の設計を載せる試みである。そのペンタゴンも2025年4月に減損損失165億円を計上し、2026年6月に株式譲渡を完了した。米国の半導体工場向けの事業では、買収した精密洗浄と自前の装置の両方で損失が出たことになる。

同じ2023年、荏原製作所も中期経営計画「E-Plan2025」で精密・電子を成長分野に位置づけ、セグメント営業利益率17.0%以上を掲げた。栗田工業が電子市場に置いた目標は2028年3月期の事業利益率20%で、装置の規模は追わず、サービス事業で利益率を高める計画だった。違いは、栗田工業が利益率の改善を、米国で実績の無かった大型装置の工事を起点に求めた点にある。装置の受注をサービスの入口とみる計画では、最初の装置で損失を計上すると、続くサービスの利益で取り戻すまでの期間が長くなる。会社はPSV-27の目標を据え置いたが、損失の全体はまだ確定していない。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

数字で見る

栗田工業:北南米の売上高の推移

栗田工業:北南米の売上高の推移

北南米の売上高(百万円)北南米の売上高率(%)

北南米の売上高は2025年3月期に74,129百万円まで伸びた

栗田工業:北南米の売上高の推移
(百万円)北南米の売上高うち電子市場連結売上収益備考
2019年3月期5,589−−IFRS移行時の比較情報。連結は日本基準のため載せない
2020年3月期28,826−264,845U.S.ウォーター・サービスを連結
2021年3月期36,994−267,749ペンタゴンを2020年4月に連結
2022年3月期46,351−288,207
2023年3月期60,198−344,608区分は水処理薬品・水処理装置。市場別の内訳なし
2024年3月期63,57717,746384,825PSV-27の初年度。北米の第一号案件の一部を先行受注
2025年3月期74,12919,106408,888第4四半期に北米の半導体向け大型装置案件を受注
2026年3月期57,1226,945402,889ペンタゴンを非継続事業に区分した継続事業の値
出所:栗田工業 有価証券報告書 第84〜90期【セグメント情報等】(地域別の売上高)
出所:栗田工業 有価証券報告書 第84〜90期【セグメント情報等】(地域別の売上高)
当時の取締役10名

取締役10名(2022年6月株主総会決議)

区分役員名役職
取締役業務執行担当領域
業務執行兼務江尻裕彦取締役:取締役業務執行:代表執行役社長担当:
山田義夫取締役:取締役業務執行:常務担当:イノベーション本部長
鈴木恭男取締役:取締役業務執行:常務担当:グローバル営業本部長、グローバル事業管掌
天野克也取締役:取締役業務執行:担当:グループ生産本部長、プラント事業管掌
門田道也取締役:取締役業務執行:会長担当:
城出秀司取締役:取締役業務執行:代表執行役専務担当:
独立役員杉山涼子学者取締役:取締役業務執行:担当:非常勤
田中径子官僚取締役:取締役業務執行:担当:
鎌居健一郎取締役:取締役業務執行:担当:非常勤
宮﨑正啓取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2022年6月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

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