中国依存6割の輸入PBを支える調達網の分散と、輸出入子会社・ベトナム現地法人の設立

2025年進行中

安さの源泉である中国調達を、円安と米中対立の下でどこまで手放せるか

更新:

時期 2025年10月
意思決定者 沼田博和 神戸物産 社長
論点 調達網の中国依存と分散
概要
業務スーパーの輸入PB商品は中国の構成比が6割前後を占める。円安と米中対立で輸入依存の危うさが増すなか、神戸物産が約50の国・地域の協力工場網の開拓を続け、2024年12月に輸出入専業のKB TRADING、2025年10月にベトナム現地法人を設立して調達網の分散を進めている経営判断。本稿の時点で進行中である。
背景
PB比率34.5%のうち輸入PBが23.7%と国内PBの2倍超を占め、その調達先は中国が最大で構成比6割前後に達する。為替予約は外貨決済の3割前後にとどまり、円安が輸入原価を直撃する一方、中国メーカーは値下げ攻勢を強めるという、離れがたい構造があった。
内容
2024年12月2日に食品・資材の輸出入を担うKB TRADINGを横浜に設立し、2025年10月17日にはホーチミン市にKOBEBUSSAN VIETNAMを設立して、現地法人網は中国・エジプト・ミャンマー・ベトナムの4カ国になった。約10年かけて東欧・アジアで取引先を開拓し、複数国での並行調達を進めている。
含意
分散を進める最中の直近1〜2年、中国の値下げ提案と品質の安定を背景に、中国のシェアはむしろ再上昇した。安さを競争の軸に据える限り、最も安く安定して作れる国へ戻る引力が働く。調達網の分散は保険の確保であって移転ではなく、本稿の時点で決着していない。
筆者の見解

保険としての分散、引力としての中国

この判断の要点は、分散が「中国からの撤退」ではなく「選択肢の確保」として設計されているところにある。中国の値下げ提案は受け取り、品質の安定にも乗りながら、一方で50の国・地域の協力工場と4カ国の現地法人という逃げ道を維持する。輸入の6割を占める調達先を短期に置き換えれば、安さという競争の軸そのものが崩れる以上、この両にらみは合理的な構えであるとみることができる。1992年に中国へ工場を建てた判断が安さの出発点であったとすれば、この分散は、その一国に寄りかかりすぎた構造への保険にあたる。

ただし保険は、掛け続けている間は費用でしかない。開拓した他国の取引先は、中国より高い間は使われず、調達の実勢はむしろ中国へ戻っている。米中対立や為替が急変してはじめて、この分散網が価格の代わりに供給をつなぐ装置として働く。安さで選ぶ日常と、備えで持つ非常のあいだで、調達網の分散はなお途上にある。中国依存6割という数字が数年後にどこへ動いているか——本稿の時点で答えは出ておらず、この判断の成否もそこで測られることになる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

輸入PBの過半を握る中国

業務スーパーの安さは、輸入PB商品に支えられている。2024年10月期第4四半期のPB比率34.5%の内訳は、国内PBが10.8%、輸入PBが23.7%で、輸入が国内の2倍を超える。そしてその輸入PBの調達先は中国が最大であった。沼田博和社長は2024年6月の決算説明会で、輸入PBに占める中国商品の構成比について、最も低いときで5割程度、足元では6割前後と説明している。1992年の大連工場に始まる中国調達の蓄積が、30年を経てなお商品構成の背骨であった[1][2]

この構造は、2025年に入って地政学の変数を抱え込んだ。米中の関税戦争が再燃した2025年6月、週刊東洋経済は神戸物産を、輸入商品の66%を中国を含むアジア地域から調達する企業として米中対立の影響銘柄に挙げた。仕入れ網そのものは広く、約50の国・地域の協力工場から商品を仕入れる体制を敷いている。それでも、米国へ輸出できない中国製品が日本へ流れれば安く仕入れる機会になる一方、対立が調達路を細らせる方向に振れれば、輸入の6割超を占めるアジア調達は同じだけの振れ幅でリスクに変わる位置にあった[3][4]

円安と価格攻勢が同時に来る

為替は、この調達構造の急所であった。神戸物産は外貨決済のうち3割前後を目安に為替予約を行っているが、裏を返せば7割は相場の変動をそのまま受ける。2024年春に1ドル155円を超える円安が進んだ際には、その水準が一過性か続くのかを読み切れず、新規の為替予約をいったん保留した結果、為替差益が減る場面もあった。想定レートを超える円安が来るたびに値上げで追いかける対応は、価格改定のたびに出荷動向を見極める神経戦を強いていた[5][6]

一方で、中国を離れられない事情も同時に強まっていた。景気の悪化した中国のメーカーは出荷を落とさないために価格攻勢を強め、他国が値上げに動くなかで値下げの提案を持ち込んでくる。沼田社長は2025年6月にも、中国からの値下げ提案が他国と比べて多いと述べている。カントリーリスクを理由に減らしたい調達先が、価格の面では最も魅力的な調達先でもある——分散の判断は、この矛盾の上に置かれていた[7][8]

決断

輸出入の専業会社と、4カ国目の現地法人

体制の手当ては、2つの会社設立という形をとった。2024年12月2日、神戸物産は横浜市西区にKB TRADING株式会社を100%出資で設立した。有価証券報告書に記された事業内容は食品・資材の輸出入で、本体が担ってきた貿易機能を専業子会社として切り出す設計である。次いで2025年10月17日には、ベトナム・ホーチミン市にKOBEBUSSAN VIETNAM COMPANY LIMITEDを100%出資で設立した。現地法人網は中国・エジプト・ミャンマー・ベトナムの4カ国に広がった[9][10]

ベトナムを選んだ背景には、調達と販売の両面がある。業務スーパーの海外展開は2024年末時点で香港2店、マレーシア2店に対しベトナムが14店と最も多く、3カ国のうちで最も好調と説明されていた。ただし新設のベトナム法人について、有価証券報告書の関係内容の欄に記されたのはミャンマー法人と同じ社内システムの開発であり、調達の前線というより、現地に人と機能を置く足場作りの段階にあたる。分散は一足飛びではなく、拠点の設置から積み上げる形で進んでいる[11][12]

10年がかりの取引先開拓

会社設立の手前には、地道な取引先の開拓があった。沼田社長は2026年1月のインタビューで、輸入PBの調達先は中国が全体の約半分を占めるが、この10年間は東欧やアジア各国で取引先を積極的に開拓してきたと語っている。複数の国で並行して調達する体制を作れば、原料となる農産物が特定の国で不作になっても、ほかの国から調達できる。一国の政治や作柄に商品供給を左右されない冗長性を、協力工場の数と国の数で確保する発想である[13]

分散は、突発の危機で鍛えられてもいた。紅海情勢でスエズ運河の航行が滞った際には、輸入PBの在庫を通常より積み増して供給をつなぎ、海上物流の安定後に在庫を適正水準へ戻している。出荷が伸びる一部の商品では新規取引先の開拓を並行して進めた。会社としても、気候変動対応の開示で国内外の製造拠点の分散化を進め、災害や作物の生育不良による調達難のリスク回避に努める方針を明記しており、調達網の多重化は場当たりではなく開示に載る経営方針になっている[14][15]

結果

分散のさなかに起きた逆流

皮肉なことに、分散を進めた直近の1〜2年で、中国のシェアはむしろ高まった。沼田社長は2025年6月の決算説明会で、中国への依存度を下げるためにそれ以外の国での商品開拓を強化してきたが、直近約1〜2年で中国のシェアが再度高まっていると認めている。理由は他国が値上げするなかでの中国からの値下げ提案と、品質の安定である。安くて良いものを選び続ける限り、調達は最も競争力のある国へ引き寄せられる。分散の装置を整えることと、実際に調達が分散することは、別の話であった[16]

業績の面では、輸入依存の構造は当面の追い風の側にある。2025年10月期の連結売上高は5,517億円、営業利益は399億円と伸び、為替の安定も利益を支えた。2026年10月期は1ドル150円と足元より円高の水準を前提に予算を組み、円安が長引く場合は価格改定で対応する構えである。KB TRADINGとベトナム法人は設立から日が浅く、輸出入機能の分社と現地拠点が調達構成をどこまで動かすかは、本稿の時点でまだ数字に表れていない[17][18]

出典・参考

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