パソナグループ純粋持株会社パソナグループ設立:人材派遣を軸にした単体経営の終了と、グループ戦略・資源配分の持株会社への移管

更新:

時期 2007年7月
当時の社長 南部靖之
論点 グループ経営体制と事業ポートフォリオ
概要

2007年7月20日、パソナの取締役会が単独株式移転による純粋持株会社の設立を決議した。8月22日の第19期定時株主総会が計画を承認し、12月3日に資本金5,000百万円の株式会社パソナグループが設立され、東京証券取引所市場第一部と大阪証券取引所ヘラクレス市場へ上場した。

移転比率はパソナ1株に対し持株会社1株で、株式移転交付金の支払いはない。発行済株式434,403株がそのまま持株会社の株式になり、旧パソナは持株会社の上場に伴い上場廃止となって、人材派遣・請負と人材紹介を担う完全子会社の事業会社に戻った。

背景

創業以来「社会の問題点を解決する」という理念のもとで雇用機会の拡大を図ってきたが、雇用を取り巻く環境が大きく変わり、働く人々と企業のニーズも多様化していた。人材派遣事業を中心とした経営体制のままでは、より総合的な人材事業ポートフォリオを展開できない——移行はこの判断から出ている。

実際、2007年5月期の売上高2,312億円のうち人材派遣・請負と人材紹介が2,153億円を占め、再就職支援43億円とアウトソーシング98億円は足しても全体の1割に届かなかった。

内容

移行は二段階で組まれた。第一段階が2007年12月3日の単独株式移転で、パソナを株式移転完全子会社、パソナグループを株式移転設立完全親会社とする。共通支配下の取引にあたり、損益への影響はなく、のれんも発生していない。

第二段階は2008年1月24日の取締役会決議と同日締結の吸収分割契約に基づき、3月1日にパソナの関係会社管理機能と、行政機関・民間企業に対する雇用創出に関する新規事業を持株会社が承継した。持株会社の第1期は設立日から2008年5月31日までの6か月で、連結の当期は2007年6月1日からの12か月として組まれている。

含意

移行を挟んだ2008年5月期は、人材紹介が前期比15.5%増、再就職支援が32.9%増、アウトソーシングが34.3%増と、派遣以外の3事業が揃って伸びた。売上高は2,369億円となり、総合化戦略の効果が構成比に表れ始めた。

一方で営業利益は24.2%減の64億円に減少した。派遣スタッフ向け福利厚生施設の拡充、グループ戦略を推進する中枢拠点の新設、成長分野への人的投資で販管費が43億円増えたためで、持株会社体制移行に伴う費用も営業外費用に立った。体制を構築した期の利益は、それを使うための先行投資に食われている。

筆者の見解

器を先に作り、中身は後から詰めた

単独株式移転は、資本関係も株主構成も動かさない。移転比率は1株に1株、交付金はゼロ、共通支配下の取引としてのれんも生じない。財務諸表の上では何も起きていない決断である。それでも2007年にこれを選んだのは、事業会社の頂点に立ったままでは人材派遣以外へ資源を振り向けられないという読みがあったからだと思われる。決議した期の売上高は9割超が人材派遣・請負と人材紹介で、再就職支援とアウトソーシングを足しても1割に届かない。「総合的な人材事業ポートフォリオ」という掲げた言葉に見合う中身は、この時点ではまだ無かった。

もっとも、器が中身を呼ぶとは限らない。移行の翌期から派遣以外の3事業は揃って伸びたが、2010年5月期には主力の派遣が1,548億円まで落ち、連結売上高は移行前を2割近く下回った。雇用調整で再就職支援が跳ね、派遣が縮んだ結果で、最初の数年に構成比を変えたのは経営判断よりも外部環境だったとみられる。持株会社という器が値打ちを持つのは、傘下に置いた事業をどう組み替え、どこへ資本を配るかを自ら決めたときである。その問いは、設立から十数年を経たグループ再編の局面まで持ち越された。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

持株会社移行の条件

科目 概要 備考
移行の方式 単独株式移転 パソナを株式移転完全子会社、パソナグループを株式移転設立完全親会社とする
株式移転承認取締役会 2007年7月20日 純粋持株会社体制への移行と、株式移転による完全親会社の設立を決議
株式移転承認定時株主総会 2007年8月22日 株式会社パソナ第19期定時株主総会
企業結合日 2007年12月3日 株式会社パソナグループの設立日。本店所在地は東京都千代田区
株式移転比率 パソナ1株に持株会社1株 株式移転交付金の支払いは行っていない
交付した株式数 普通株式434,403株 設立日の発行済株式総数と同数
持株会社の資本金 5,000百万円 資本準備金も同額の5,000百万円を計上
持株会社の事業内容 人材ビジネス関連会社の株式所有による支配・管理
持株会社の上場 2007年12月3日 東京証券取引所市場第一部および大阪証券取引所ヘラクレス市場
旧パソナの上場廃止 持株会社の上場に伴い廃止 2001年12月の大証ナスダック・ジャパン上場、2003年10月の東証一部上場から
新株予約権の承継 同等の完全親会社新株予約権を発行し割当て 対象は第2回・第4回・第5回新株予約権。新株予約権付社債は発行していない
会計処理 共通支配下の取引 連結財務諸表上の処理で、損益に与える影響はない。のれんは発生しない
第二段階の吸収分割 2008年3月1日 2008年1月24日に取締役会決議と契約締結。パソナを分割会社、持株会社を承継会社とする
承継した事業 関係会社管理機能と雇用創出の新規事業 行政機関・民間企業に対する雇用創出に関する新規事業を含む
移行の目的 グループ戦略の策定と成長分野への資源配分 コーポレートガバナンスの強化と経営の透明性向上、事業子会社の機動的な業務執行

出所:株式会社パソナ 有価証券報告書 第19期(2007年5月期)【重要な後発事象】/株式会社パソナグループ 有価証券報告書 第1期(2008年5月期)【企業結合等関係】

パソナグループ:事業区分別の売上高(外部顧客)

(百万円) 人材派遣・請負、人材紹介再就職支援アウトソーシングその他連結売上高 備考
2003年5月期 第17期以前の事業区分別の内訳は、手元の有報で照合できていない
2004年5月期
2005年5月期 167,9743,6225,7761,782179,156
2006年5月期 189,8754,0007,9441,995203,815
2007年5月期 215,3724,3929,8781,588231,231 移行を決議した期。人材派遣・請負と人材紹介が売上高の93.1%を占める
2008年5月期 216,1685,85513,3091,577236,945 12月に持株会社を設立。人材紹介15.5%増、再就職支援32.9%増、アウトソーシング34.3%増
2009年5月期 196,9205,78914,3081,681218,699
2010年5月期 154,83713,51013,5341,265183,515 第3期より区分の名称をエキスパートサービス、アウトプレースメント等へ変更
2011年5月期 152,2349,80514,4641,550178,806
2012年5月期 155,6089,58714,7341,567181,498
2013年5月期 176,18412,23217,3871,881207,685
人材派遣・人材紹介とそれ以外の売上高
人材派遣・請負、人材紹介(百万円)それ以外の3事業(百万円)

出所:株式会社パソナ 有価証券報告書 第18〜19期/株式会社パソナグループ 有価証券報告書 第1〜6期【事業の種類別セグメント情報】【セグメント情報】

パソナグループ:連結業績の推移

(百万円) 売上高経常利益当期純利益 備考
2003年5月期 135,6255,3732,027
2004年5月期 156,9797,3293,647
2005年5月期 179,1568,2894,363
2006年5月期 203,8157,8443,588
2007年5月期 231,2318,8074,198 移行を決議した期
2008年5月期 236,9456,6372,962 販管費が43億円増え営業利益は24.2%減。持株会社体制移行に伴う費用も営業外費用に
2009年5月期 218,6993,361312
2010年5月期 183,5154,044204
2011年5月期 178,8062,571412
2012年5月期 181,4982,09129
2013年5月期 207,6853,187610
経常利益と経常利益率
経常利益(百万円)経常利益率(%)

出所:株式会社パソナ 有価証券報告書 第19期【主要な経営指標等の推移】/株式会社パソナグループ 有価証券報告書 第1〜6期(連結損益計算書)

同じ問いに直面した会社

株式上場2008年ウエルシアホールディングスウエルシア関東と高田薬局の共同株式移転による持株会社の発足と東証二部上場業界再編を前にした規模拡大と持株会社体制への移行
2009年雪印メグミルク分かれていた乳業二社を一つにした雪印メグミルクの発足市乳と乳製品の再結合と原料乳の調達力
2003年博報堂DYホールディングス三社を一つの共同持株会社の下に置く、博報堂DYホールディングスの設立広告業界の再編とグループ経営体制
2002年エディオン共同持株会社エディオンの設立と、三市場一部への上場業界再編と規模の確保
2006年野村不動産ホールディングス独立した不動産持株会社としての船出と、株式公開による資本市場入り資本構造と資金調達
持株会社化とグループ再編2006年ポーラ・オルビスホールディングス事業会社の上に器を置いたままの、東証一部への直接上場グループ経営体制とブランド戦略
2010年大塚HD公募・売出約2200億円を集めた、同業に大きく遅れての株式公開資本政策と創業家によるグループ統治
2004年GMOペイメントゲートウェイ資本の傘を得たうえで進めた同業の決済代行2社の連続取得資本の帰属と事業規模の確保
2002年パイロットコーポレーション3社共同の株式移転による事業会社の吸収合併によるグループ一体化グループ各社の法人格と資本関係
2013年東急不動産ホールディングス持株会社体制への移行と、東急コミュニティーを含む三社の一斉上場廃止グループ経営体制の再編と資本の集約
出典・参考
  • パソナ 有価証券報告書「第19期(2007年5月期)【重要な後発事象】」
  • パソナ 有価証券報告書「第19期(2007年5月期)【対処すべき課題】」
  • パソナ 有価証券報告書「第19期(2007年5月期)【経営上の重要な契約等】」
  • パソナグループ 有価証券報告書「第1期(2008年5月期)【企業結合等関係】」
  • パソナグループ 有価証券報告書「第1期(2008年5月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】」
  • パソナグループ 有価証券報告書「第2期(2009年5月期)【対処すべき課題】」

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