東武鉄道都筑豊氏が社長就任:24年続いた社長の座を生え抜きへ渡し、前任が代表権のある会長として残る体制

更新:

時期 2023年6月
当時の社長 根津嘉澄
論点 長期政権からの交代と前任の処遇
概要

2023年6月23日に開いた第203期定時株主総会の当日、取締役会は都筑豊氏を代表取締役社長に選び、1999年6月から社長を務めていた根津嘉澄氏は代表取締役取締役会長となった。根津嘉澄氏の在任は24年に及ぶ。

交代後も取締役会の議長は取締役会長が務めており、前任が代表権を持ったまま議長席に残る体制が続いた。根津嘉澄氏が代表権を外れて取締役会長となったのは、それから3年近くのちである。

背景

交代の前年にあたる2023年3月期は、営業収益が前期の5,060億円から6,147億円へ戻り、経常利益は274億円から548億円へ回復した。2021年3月期には営業収益4,963億円、経常損失98億円、当期純損失249億円まで減少している。

取締役の報酬は10%の減額が2023年6月まで続いており、交代はその減額が明ける時期と重なった。

内容

都筑豊氏は1984年4月入社の生え抜きで、鉄道事業本部運輸部長から2013年7月に東武エンジニアリングの社長へ出た。本体に戻って2015年6月に取締役鉄道事業本部副本部長、2016年4月に鉄道事業本部長、2017年6月に常務取締役となる。

2018年6月に常務執行役員となって取締役を外れ、2019年10月から東武商事の副社長、2020年6月には同社の社長を務めた。本体の執行役員に就任したのは2023年4月で、その2か月後に代表取締役社長となっている。

含意

取締役候補者選任案と代表取締役選定案の妥当性は、取締役会の諮問機関である指名・報酬委員会が審議して取締役会へ答申する。委員は独立社外取締役3名と代表取締役2名の5名で、議長は独立社外取締役が務める。2023年3月期の開催は2回で、委員全員が毎回出席した。

交代の理由も後継者計画も公表資料には記載がない。取締役会の実効性評価では、経営幹部の承継と育成のプロセスを体系的に構築する必要があるとの意見が挙がっている。

筆者の見解

渡されたのは社長の職だけだった

この交代で動いたのは社長の職であって、取締役会の重心ではなかった。議長は交代の前後を通じて取締役会長が務め、その席には24年社長を務めた前任が代表権を持ったまま座り続けた。新社長は2018年から5年間にわたって取締役を外れ、子会社の経営に回っていた人である。取締役会の席次でいえば、前任と新任の経験の差は交代の日をもってなお開いたままであった。3年近くを経て前任が代表権を外したことで、ようやく執行の代表が新社長の側へ一本化されたとみられる。

もっとも、渡し方が段階的であったことを、そのまま権限の温存と読むのは急ぎすぎだろう。交代の年度の営業収益は6,359億円、経常利益は720億円で、いずれも新型コロナウイルス禍前の水準を超えた。都筑豊氏は就任の翌年に長期経営ビジョンを起こし、営業利益1,000億円以上という到達点を2030年代半ばに置いている。交代の理由を会社は書き残していないが、回復の局面を引き継いだ社長が自分の目標を掲げ直したことのほうが、交代そのものより手続きとして重い。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
社長交代の日 2023年6月23日 第203期定時株主総会の当日に開いた取締役会で、都筑豊氏を代表取締役社長に選定した
前任の在任 1999年6月から2023年6月まで 根津嘉澄氏。1993年6月に代表取締役、1995年6月に取締役副社長を経ている
新社長の直前の職 東武商事 代表取締役社長 2019年10月に同社の副社長、2020年6月に社長。東武鉄道の執行役員に就任したのは2023年4月
新社長の入社 1984年4月 生え抜き。鉄道事業本部運輸部長、東武エンジニアリング社長、鉄道事業本部長を歴任
取締役を離れていた期間 2018年6月から2023年6月まで 2017年6月に常務取締役、翌年6月に常務執行役員となり、取締役の任を外れていた
前任の交代後の役職 代表取締役取締役会長 取締役会の議長を務める。2025年6月24日現在も代表権を持っていた
前任の代表権の返上 2026年6月22日現在は取締役会長 代表取締役の異動に関する臨時報告書を2026年5月20日に提出している
取締役会の議長 取締役会長 交代の前後を通じて変わらない。社長は議長を務めない
指名の仕組み 取締役会の諮問機関「指名・報酬委員会」 独立社外取締役3名と代表取締役2名の5名。議長は独立社外取締役から選ぶ
委員会が審議する事項 取締役候補者選任案と代表取締役選定案の妥当性 審議して意見を取りまとめ、取締役会へ答申する。決めるのは取締役会である
委員会の開催(2023年3月期) 2回 委員全員が毎回出席している
交代の理由 公表資料に記載がない 有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書のいずれにも記載がない
後継者計画 公表資料に記載がない 取締役会の実効性評価で、承継のプロセスを体系的に構築する必要があると意見が出た
交代時の取締役会 9名(うち独立社外4名) 取締役の人数は社内・社外あわせて15名以内。2026年6月時点では10名のうち社外6名

出所:東武鉄道 有価証券報告書 第203期(2023年3月期)・第204期(2024年3月期)・第206期(2026年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】/コーポレート・ガバナンスに関する報告書

東武鉄道:取締役選任議案の候補者別賛成率

(%) 都筑豊根津嘉澄横田芳美矢ケ崎紀子 備考
2024年6月総会 93.9691.6996.7298.46 交代後はじめて賛成率が開示された総会。取締役9名選任の件
2025年6月総会 96.794.9997.2898.34
2026年6月総会 97.8397.4797.9598.45 取締役10名選任の件。社外取締役が4名から6名へ増えた回

出所:東武鉄道 臨時報告書(株主総会における議決権行使の結果)2024年6月・2025年6月・2026年6月の各定時株主総会

東武鉄道:社長交代前後の連結業績

(百万円) 営業収益経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2019年3月期 617,54362,97228,024
2020年3月期 653,87458,41435,530
2021年3月期 496,326△9,892△24,965 新型コロナウイルス禍で営業収益が15万7,548百万円減り、経常損失を計上した
2022年3月期 506,02327,40613,453
2023年3月期 614,75154,81529,179 交代の前年度。取締役報酬の10%減額は2023年6月まで続いた
2024年3月期 635,96472,03348,164 2023年6月に社長が交代した期。営業収益・経常利益とも2020年3月期を超えた
2025年3月期 631,46172,71651,330
2026年3月期 655,43568,83155,620 鉄道業の維持管理費用と新東武カードの発行費用で営業利益は前期比3.7%減
2027年3月期 第207期は未到来
2028年3月期
2029年3月期
営業収益と経常利益率
営業収益(百万円)経常利益率(%)

出所:東武鉄道 有価証券報告書 第202期・第206期【主要な経営指標等の推移】(連結)

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出典・参考
  • 東武鉄道 有価証券報告書「第203期(2023年3月期)【役員の状況】」
  • 東武鉄道 有価証券報告書「第203期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 東武鉄道 有価証券報告書「第204期(2024年3月期)【役員の報酬等】」
  • 東武鉄道 有価証券報告書「第206期(2026年3月期)【役員の状況】【提出会社の状況】」
  • 東武鉄道 コーポレート・ガバナンスに関する報告書「取締役会全体の実効性についての分析・評価」
  • 東武鉄道 臨時報告書「株主総会における議決権行使の結果(2024年6月・2025年6月・2026年6月)」

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