住友金属鉱山チリ・シエラゴルダ銅鉱山の権益取得と、二度の減損を経た全持分の譲渡

非鉄メジャーをめざして買った鉱山を、住友金属鉱山はなぜ10年で手放したか

時期 2011年5月
意思決定者(推定) 家守伸正・野崎明(社長/2021年の譲渡決定時) 社長
論点 銅資源権益の取得と撤退
概要
住友金属鉱山は2011年5月、住友商事と共同で、カナダのクアドラFNXマイニングがチリに保有するシエラゴルダ銅鉱山開発プロジェクトへ参画した。開発資金拠出分を含め約7億2,400万米ドルを出資し、権益の45%を取得している。生産開始後に二度の減損を計上し、2021年10月に全持分の豪サウス32への譲渡を決め、2022年2月に実行した。
背景
別子銅山の閉山以降、同社は海外から鉱石を買って国内で製錬する買鉱製錬型に依存していた。資源メジャーの合従連衡で原料交渉が苦しくなるなか、2009年の中期経営計画は銅の権益シェア分生産量を年30万トンとする長期ビジョンを掲げ、資源事業の拡大を成長戦略の柱に置いた。
内容
可採鉱量約13億トン・含有銅量約500万トンの大型案件で、20年の操業期間中に平均年22万トンの銅を産出する計画であった。開発投資額は約29億米ドル。住友側は生産量の50%の引取権を得た。これは日本の銅精鉱総輸入量の約9%に相当した。
含意
生産開始は計画から1年遅れ、2016年2月と2017年2月に持分法による投資損失689億41百万円・799億26百万円を計上した。2021年10月にサウス32への譲渡を決定し、2022年3月期に売却益743億74百万円を計上している。権益分銅30万トンの目標は、ケブラダ・ブランカへ引き継がれた。
筆者の見解

十年後の値踏み

この一件を、見通しの甘い海外投資の失敗として片づけるのは後知恵にすぎる。参画した2011年は金属価格の高騰が続き、権益を持たない製錬業の先細りが目前の懸念であった。狂ったのは相場観よりも、更地から大型鉱山を立ち上げる難度の見積もりだったとみられる。生産開始は1年遅れ、操業は当初から安定しなかった。中里佳明社長が、いい買い物だったと評価されるのは10年後だと語ったのは、二度目の減損の翌月であった。

もっとも、失われた額は小さくない。二度の減損で計上した持分法による投資損失は689億41百万円と799億26百万円、合わせて1,400億円を超え、二期続けて赤字に沈んだ。10年後に手にした売却益743億74百万円は、その半分に届かない。それでも権益分銅30万トンの目標は下ろされず、資金と人はケブラダ・ブランカへ移された。中里社長の言う10年の値踏みは、次のチリの鉱山に持ち越されたとみることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

買鉱製錬型からの脱却という課題

住友金属鉱山の銅事業は、長らく自前の鉱山を持たない構造の上に立っていた。江戸期に開坑した別子銅山は1973年に閉山し、国内の金属鉱山はほぼ姿を消す。以後の非鉄各社は海外の鉱山から鉱石を買い、国内で製錬して地金を売る買鉱製錬型へ移った。2000年代に入ると海外の資源メジャーが合従連衡を進め、原料価格の交渉で国内勢が押される場面が目立ってくる。同社の阿部一郎専務執行役員は、製錬業だけで生き残るのは厳しくなってきたと語っていた[1]

打開策として同社が選んだのは、鉱山権益そのものを持つ道であった。2010年2月に発表した中期計画で事業区分を資源・製錬・材料の三つに改め、資源を主力事業の一つに置く。前年の2009年中期経営計画には、銅の権益シェア分生産量を年30万トンとする長期ビジョンを掲げていた。折しも新興国の需要拡大と投資マネーの流入で金属価格は高騰し、権益を確保する妙味が増していた時期にあたる。家守伸正社長は非鉄メジャー入りを長期目標として公言していた[2][3]

決断

クアドラFNXマイニングとの投資契約

2011年5月15日、住友金属鉱山は住友商事とともに、カナダの中堅鉱山会社クアドラFNXマイニングと投資契約に調印した。対象は同社がチリ北部アントファガスタ近郊に保有する大型の銅・モリブデン案件、シエラゴルダ銅鉱山開発プロジェクトである。両社はチリに持株比率70対30の合弁会社を設け、権益保有会社の第三者割当増資に応じる形で、開発資金拠出分を含め約7億2,400万米ドルを出資し、株式の45%を取得した[4]

案件の規模は、それまで同社が参画した海外鉱山のなかでも大きかった。可採鉱量は約13億トン、含有する銅は約500万トンで、20年の操業期間を通じて平均年22万トンの銅を産出する計画であった。生産開始は2014年を予定し、開発投資額は約29億米ドルと見込んでいる。住友側は生産量の50%にあたる銅地金換算で年11万トンの引取権を得た。これは日本の銅精鉱総輸入量の約9%に相当する量であった[5]

結果

二度の減損

生産開始は計画より1年遅れ、2015年7月であった。その半年後の2016年2月5日、住友金属鉱山は2016年3月期第3四半期において、シエラゴルダ鉱山社の減損に伴う持分法による投資損失689億41百万円を営業外費用に計上したと発表する。鉱山運営会社が銅価格の下落を踏まえ、固定資産の簿価を全額回収することは困難と判断したためである。同日、通期の経常損益予想は40億円の損失へ引き下げられ、会長と社長は基本報酬の30%を3カ月自主返上した[6][7][8]

損失は一度では終わらなかった。2017年2月7日、鉱山運営会社は足元の操業実績と中長期の銅価格の動向から長期事業計画を見直し、二度目の減損に至る。住友金属鉱山が計上した持分法による投資損失は799億26百万円、親会社株主に帰属する四半期純損失への影響額は725億35百万円であった。2016年3月期の連結経常損益は127億64百万円の損失、2017年3月期の親会社株主に帰属する当期純損益は185億40百万円の損失と、二期続けての赤字となった[9][10]

それでも同社は資源開発から退かなかった。二度目の減損の翌月、中里佳明社長は誌上のインタビューで、資源は有限であり、何もしなければ先代の経営者から受け継いだ権益を食い潰していくだけだと述べ、巨額の減損を計上しても資源開発を続ける方針に変わりはないと語っている。鉱山買収の時機については、いい買い物だったと評価されるのは10年後になると答えた。減損を計上した2016年5月には、米モレンシー銅鉱山の権益を追加取得している[11][12]

全持分の譲渡と、残ったもの

2020年10月8日、住友金属鉱山と住友商事は、シエラゴルダの権益について売却を含む戦略的選択肢の検討に入ったと公表した。1年後の2021年10月14日、譲渡先が豪州のサウス32に決まる。住友金属鉱山が持つ全権益31.5%の譲渡価額は約11億9,000万米ドルで、2025年末までに銅価格や生産量が一定の条件を満たせば、追加で最大3億5,000万米ドルを受け取る内容であった。住友商事の13.5%と合わせた売却額は約17億ドル、日本円で約1,900億円にのぼった[13][14]

譲渡は2022年2月22日に実行された。2022年3月期の資源セグメントには売却益743億74百万円が計上され、同期の親会社の所有者に帰属する当期利益は2,810億円と過去最高になった。ただしこの売却益には過年度に積んだ貸倒引当金の戻入れに相当する額が含まれ、配当の算定では除かれている。譲渡から1年半を経た2023年度にも、シエラゴルダ関連費用として49億円のマイナスが業績に残った[15][16][17]

権益分の銅生産量を年30万トンとするビジョンは、譲渡後も下ろされなかった。2021年10月の公表文は、目標の実現に向けて2019年に権益を取得したケブラダ・ブランカ2プロジェクトを進めるとともに、新たな優良プロジェクトの獲得に取り組むと述べている。シエラゴルダで10年を費やした資金と人は、チリの別の銅鉱山へ振り替えられた。同じ国の、同じ金属で、もう一度やり直す構図であった[18][19]

出典・参考

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