リログループBGRS買収によるグローバルリロケーション参入と5年での撤退
世界8カ国14拠点を255億円で買い、SIRVAとの統合を経て476億円を落とすまで
- 概要
- 2019年6月、リログループがグローバルリロケーション大手のBGRS Limitedを255億35百万円の現金で100%取得し、海外モビリティ事業へ参入した。2022年に同業SIRVAと統合し、2024年に関連資産476億円を全額減損したうえで2024年8月に持分を手放した。
- 背景
- 国内では借上社宅管理・福利厚生の二本柱がすでに首位級に達し、人口減による市場の縮小が見えていた。中期経営計画「第三次オリンピック作戦」は国内シェアの確保と並んで世界市場へリーチする土台づくりを掲げていた。
- 内容
- 2019年4月25日の取締役会で決議し、6月28日に株式取得を完了した。のれん127億29百万円と顧客関連資産112億36百万円が計上され、取得資金は長期借入461億18百万円などで賄われた。有利子負債は178億円から693億円へ膨らんだ。
- 含意
- 買収の翌年にコロナ禍で赴任需要が消え、2020年3月期にのれん減損95億円を計上した。統合先SIRVAが抱えた約600ミリオン米ドルの借入金と米国の金利上昇が重なり、2024年3月に格付CCCへの低下を受けて関連資産476億円を全額減損した。
買った資産と、買えなかった時間
この投資で買ったものは、世界8カ国14カ所の拠点と、フォーチュン・グローバル500企業を含む顧客名簿であった。国内で借上社宅管理と福利厚生を積み上げてきた手つきからすれば、赴任という同じ事象の川下を海外まで延ばす選択には筋が通っている。ただし国内の事業が会費や管理戸数という月次の積み上げで成り立っていたのに対し、買った先の収益は赴任の発生件数と住宅の売買に連動するフロー型であった。門田CFOが撤退時に挙げた理由も、パンデミックへの脆弱さとフロー収益への依存であった。
減損の内訳を見ると、失ったのは買収代金255億円だけではない。統合後に積み上がった未収債権100億円と貸付金99億円が、優先株式276億円と並んで落ちている。持分を23%まで薄めながら債権では残り続けたことが、損失の総額を買収額の倍近くまで押し上げた。2024年3月期に476億円を落とし、翌期は日本ハウズイング株式の売却益187億円を得て当期利益433億円で終えている。海外で開いた穴を塞いだのは、2009年から持っていた国内の持分であった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内で行き着いた先と、人口減という前提
2010年代のリログループは、借上社宅管理と福利厚生代行という2つのストック事業を軸に、隣接領域の小型M&Aを重ねて規模を伸ばした。2019年3月期の連結売上高は2,509億円、営業利益179億円で、国内の主力事業はいずれも首位級に達していた。一方で顧客は日本企業の人事部に限られ、その先にある国内の就業人口は減っていく。同社は2011年4月からの「第二の創業」で、日本企業の世界展開を支援することを使命に掲げ、「グローバル・リロケーションカンパニーNo.1」をビジョンに置いていた[1][2]。
2019年5月に始まった中期経営計画「第三次オリンピック作戦」は、国内市場シェアの確保と、世界の市場へリーチする土台づくりを二本立てで掲げた。買収の3年前にあたる2016年9月には、地域別の生活費・住宅費・税務データを持つAssociates for International Researchを取得している。海外赴任の条件を算定するデータ基盤を先に押さえ、実際の赴任者を動かす実務は後から買う、という順序であった。門田康CFOは後年、この時期の判断の前提を「人口減による日本市場の縮小、またそれを見越した日本企業の海外展開への加速を念頭に」と説明している[3][4]。
買う相手としてのBGRS
BGRSは、カナダのトロントに本社を置くグローバルリロケーション企業で、旧社名をBrookfield RPS Limitedという。赴任管理サービスとその基盤となるシステム、赴任制度のコンサルティング、海外赴任の総合支援を手がけ、世界8カ国14カ所に拠点を持つ。30年以上にわたり業界を牽引する技術とアウトソーシング能力を備え、フォーチュン・グローバル500に入る多数の企業と政府機関を顧客としていた。業界では3位に位置していた[5]。
リログループが国内で扱ってきた海外赴任支援は、日本企業の駐在員を日本側から支える仕事にとどまっていた。赴任先で住居を探し、現地の税務や引越しを差配する部分は、現地の事業者に委ねるほかない。BGRSを傘下に入れれば、北米から欧州・アジアまで自社グループで完結でき、日本企業の駐在員に限らず、世界企業で働く人の異動そのものを顧客にできる。買収の理由として同社が挙げたのも、この体制の構築であった[6]。
決断
255億円の現金と、461億円の借入
2019年4月25日、リログループは取締役会でBGRSの株式取得を決議し、同日付で株式譲渡契約を結んだ。取得はカナダに設立したRelo Group Ontario Inc.を通じて行われ、6月28日に議決権100%を握った。取得原価は現金255億35百万円、アドバイザリー報酬などの取得関連費用が5億64百万円。のれん127億29百万円が18年6カ月の均等償却で計上され、顧客関連資産にも112億36百万円が配分された。買収額の大半が、既存顧客との関係と将来の超過収益力に対する値付けであった[7][8]。
資金は借入で賄った。2020年3月期の投資キャッシュ・フローでは、BGRSと駅前不動産ホールディングスの株式取得に534億52百万円を支出し、財務側では長期借入461億18百万円と短期借入の純増106億15百万円を調達している。有利子負債は前期末の178億円から693億円へ、のれんは92億円から155億円へ膨らんだ。従業員数も前期末から1,978名増え、うち海外事業が1,777名を占めた。ストック型の営業キャッシュフローを積んで小型M&Aを重ねてきた会社が、初めて桁の違う借入を抱えた[9][10]。
コロナ禍と、SIRVAとの統合という二度目の決断
買収の翌年、新型コロナウイルスの流行で企業の海外赴任が止まった。BGRSは人員削減とデジタル化で体質改善を進めたが需要は戻らず、リログループは2020年3月期に将来の事業計画を見直し、のれんの減損損失95億円を特別損失へ計上した。親会社株主に帰属する当期純利益は前期の130億円から38億円へ落ちた。海外事業セグメントの総資産は812億円に達しており、買収から1年での減損は投資家の想定を超えていた[11][12]。
2022年5月6日、同社は取締役会でSIRVAグループを保有するGlobal Relocation and Moving Servicesとの再編を決議し、7月29日に取引を終えた。BGRSの全株式を譲渡し、対価として受け取ったのはSIRVA Holdingsの株式である。受取対価623億円のうち、SIRVA優先株式が244億99百万円、未収入金が215億31百万円を占めた。門田CFOによれば、条件交渉の結果は「先方が77%、当方が23%の株式シェア、かつキャッシュをおよそ200億円引き上げられる」というもので、統合会社を100%買収できるコールオプションもあわせて得た[13][14]。
結果
600ミリオンの借入金と、米国の金利
統合会社は業界首位の規模を持ち、営業は好調で米軍の引越しでも大型受注を得ていた。弱点は財務にあった。度重なるファンドによる買収の結果、およそ600ミリオン米ドルの借入金を抱え、本来ならキャッシュフローで減らすべきところをコロナ禍で進められずにいた。そこへ2022年から2023年にかけての米国の急速な金融引き締めが重なる。支払金利は約18ミリオン米ドル、証券化コストを含めると35ミリオン米ドル程度の負担増となった[15]。
収入の側も細った。米国では転勤にあたって自宅を買い替える慣行があり、SIRVAはその際の一時買取やローンの斡旋を主要な収入源としていた。住宅ローン金利の急上昇で転勤を渋る人が増え、企業も負担を避けて転勤の発令を減らした。資金繰りは圧迫され、2024年3月には外部の格付機関が同社の発行体格付をトリプルCまで引き下げた。リログループはこれを受け、優先株式276億円、合併時の未収債権100億円、貸付金99億円の合計476億円を全額減損すると決めた[16][17]。
手放し方と、その後の決算
2024年3月期の連結決算では、持分法適用会社に対する投資および金融債権の減損損失475億99百万円(投資に係る減損27,653百万円、金融債権に係る減損19,946百万円)が計上された。親会社の所有者に帰属する当期損益は前期の209億円の黒字から278億円の赤字へ転じ、自己資本比率は一時13%まで下がった。門田CFOは決算説明会で、優先株と債権を持ったまま距離を置いて見ていく関係になると説明し、資金支援は考えていないと述べている[18][19]。
撤退は同年8月に実行された。有報の沿革は「SIRVA-BGRS Holdings, Inc.の株式を売却し非関連会社化」と記すが、注記では優先株式および子会社の債権を放棄したことによる持分法適用範囲からの除外と説明されている。すでに全額を落とした資産を手放す処理であり、2025年3月期には持分法による投資損益30億円が計上された。同じ期に日本ハウズイング株式の売却益187億円が加わり、連結の当期利益は433億円と過去最高になった。門田CFOは「一旦撤退し、今後の海外展開については改めて仕切り直してまいります」と述べた[20][21]。
- リログループ 有価証券報告書(2020年3月期・連結)
- リログループ 有価証券報告書(2023年3月期)
- リログループ 有価証券報告書(2024年3月期)
- リログループ 有価証券報告書(2025年3月期)
- リログループ 2024年3月期 決算説明会(2024年5月9日)
- リログループ 2025年3月期 決算説明会(2025年5月8日)