カナダ物流大手Metro Supply Chain Groupの買収と資産圧縮の同時進行

聖域なき資本効率改善で得た原資を、史上最大の北米M&Aへどこまで振り向けるか

更新:

時期 2026年4月
意思決定者 堀切智 社長
論点 資本配分の転換と北米シフト
概要
2026年4月17日、NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は、カナダ・米国・英国で物流事業を展開するMetro Supply Chain Groupを総額約2,070億円で買収すると発表した。NXHD史上最大のM&Aであり、堀切智社長のもとで進む北米シフトの中心を成す判断となった。
背景
NXグループは2023年に欧州のcargo-partner社を買収して海外基盤を広げたのち、2024年1月に堀切智が社長へ就任した。同時期、江東区の大型物流施設をブラックストーンへ1,000億円超で売却するなど、収益性の低い資産を手放して資本効率を高める方針が明確になっていた。
内容
買収は持株会社などから株式を取得する形で進め、2026年7〜12月にかけて完全子会社化を目指す。トランプ米政権下で製造業の北米回帰が進み、物流需要が拡大するとの見立てのもと、cargo-partner買収に続く地域シフトの第二弾であった。
含意
発表後、NXHDの株価は4営業日続落し、財務負担への警戒感がうかがえた。一方で2026年1〜3月期は純利益が前年同期の3.9倍となり、最大500億円の自社株買いも発表された。資産売却・大型M&A・株主還元を同時に進める資本配分のあり方が問われることとなった。
筆者の見解

資本配分の行方をめぐる論点

この一連の動きを通して見えるのは、NXHDが資産の売却・大型M&A・株主還元という三つの資本配分を、ほぼ同時に進めている点である。江東区の大型施設をブラックストーンへ手放し、その原資も背景にしながら史上最大となるカナダのMetro Supply Chain Group買収に踏み切り、なお最大500億円の自社株買いを重ねる——収益性の低い資産を圧縮し、成長が見込める地域へ資本を振り向けるという方針は一貫しているとみることができる。株価の続落は、その一貫性そのものよりも、複数の大型判断が短期間に重なったことへの財務面の警戒として現れたと考えられる。

本稿執筆時点(2026年7月)では、Metro Supply Chain Groupの株式取得は完了しておらず、統合後の収益貢献や北米事業の実際の伸びは本文未確認である。2023年のcargo-partner買収が欧州で狙い通りの成果を上げたかという評価も含め、地域シフトの成否は今後の決算でしか測れない。資産圧縮によって得た原資を北米に集中させる判断が、NXHDの成長戦略の骨格としてどこまで定着するのかは、なお時間をかけて見極める必要があるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

cargo-partner買収と北米シフトへの布石

NXグループは2023年5月、オーストリアの物流企業cargo-partner社を845百万ユーロ(当時約1,267億円)で買収すると発表し、中東欧を含む欧州の事業基盤を一気に広げた。2024年2月に公表した中期経営計画では、グループ売上高3兆円・海外売上高比率40%を掲げ、海外M&Aを継続する枠組みを整えていた。欧州で得た足場をどう広げるかが、次の焦点になりつつあった[1]

2024年1月には堀切智が社長に就任し、日本事業の再構築とカンパニー制の導入を進めた。同時期の経営計画では、2037年の創業100周年に向けて海外売上高比率50%を掲げる長期ビジョンからのバックキャストが示されており、北米を含む地域シフトは、この長期目標に沿った既定路線として社内で進められていたとみられる[2]

「聖域なき資本効率改善」という前段

2025年12月22日、NXHDは東京都江東区にある大型物流施設「Tokyo C-NX」を、投資会社ブラックストーンへ1,000億円超で売却すると発表した。竣工2017年・延べ床面積約15万平方メートルの拠点であり、2025年の物流施設売買としては最大規模とされた。欧州事業の減損を穴埋めするとともに、大型不動産を手放して資本効率を高める狙いがあったと報じられた[3]

2026年3月には、この売却を含む一連の動きが「聖域なき資本効率改善」として報じられた。従来は象徴的な存在として維持されてきた施設であっても、収益性が低ければ手放すという方針を示すもので、時価総額1兆円・ROIC10%を掲げる目標と、非中核資産の売却方針の延長線上に置かれた動きであったといえる[4]

決断

史上最大2,070億円の北米M&A

2026年4月17日、NXHDはMetro Supply Chain Groupを総額約2,070億円で買収すると発表した。同社はカナダを中心に米国・英国でも物流事業を展開しており、持株会社などから株式を取得したうえで、2026年7〜12月にかけて完全子会社化を進める計画とされた。買収額はNXグループのM&Aとして過去最大であった[5]

買収の狙いは、トランプ米政権下で製造業の現地回帰が進むなか、拡大する北米の物流需要を取り込むことに置かれた。2023年のcargo-partner買収で欧州基盤を固めたのち、資産売却で得た原資を北米シフトへ振り向ける動きであり、地域シフトの第二弾にあたる判断であった[6]

市場が示した財務負担への警戒

発表を受けてNXHDの株価は4営業日続落し、142円安の3,705円まで下げる場面があった。北米シフトの方向性そのものよりも、大型買収に伴う財務負担や統合リスクを市場が警戒した動きであり、資産圧縮と大型M&Aを同時に進める資本配分のあり方に、投資家の視線が向いていたことがうかがえる[7]

NXHDは同時期、時価総額1兆円・ROIC10%を目標に掲げ、非中核資産の売却を進める計画を示していた。インドなど新興国での事業展開にも意欲を見せており、北米に限らず複数地域で成長機会を探る動きが、市場の慎重な受け止めの背景にあったとみられる[8]

結果

1〜3月期決算と自社株買いの発表

2026年5月13日、NXHDは2026年1〜3月期の決算を発表し、連結純利益は45億円と前年同期の3.9倍になった。売上収益は6,523億円(前年同期比1%増)、営業利益は149億円(同32%増)で、ユーロに対する円安と国内物流事業の値上げ、前期の希望退職者募集による費用減少が利益を押し上げた[9]

同時に、発行済株式総数の7%にあたる1,700万株を上限に、最大500億円の自社株買いを5月14日から11月30日まで実施すると発表した。通期予想は、売上収益が前期比5%増の2兆7,000億円、純利益が前期比22.3倍の600億円とされ、価格転嫁や物流需要の取り込みで業績を確保する方針が示された[10]

出典・参考