丸紅 米ガビロンの買収 穀物大手の取り込みと、穀物事業のヴィテラへの売却

更新:

時期 2012年5月
当時の社長 朝田照男
論点 非資源シフトと商社型M&Aの規律
何をなぜ決めたか
概要

米穀物大手ガビロンの持分取得と、その穀物事業をカナダのヴィテラへ譲渡するまでの一連の経営判断。2012年5月29日に朝田照男社長のもとで持分譲渡契約を締結し、2013年7月5日に國分文也社長のもとで2,712億円を払って取得を完了し、2022年10月3日に柿木真澄社長のもとで穀物事業を手放した。

背景

2000年代の資源ブームで同業が資源権益へ傾くなか、丸紅は資源で出遅れ、非資源の集積で存在感を保っていた。とりわけ穀物では日本・アジアへ売る川下に強い一方、米国の産地で集荷する川上が弱く、米国内に約140の穀物集荷拠点を持つガビロンの取得で、両社の集荷・販売網を融合して収益の拡大を目指した。

内容

当初の契約は穀物・肥料・エネルギーの3事業を約3,600百万米ドルで買うものだったが、中国競争当局の条件付認可を経た2013年6月9日にエネルギー事業を対象から外し、取得価額を約2,600百万米ドルへ引き下げて再契約した。取得により認識したのれんは確定値で106,574百万円にのぼった。

含意

業績は当初の事業計画を下回り続け、2015年3月期にのれん48,053百万円を減損した。米中貿易摩擦が重なった2020年3月期にはのれんと無形資産等88,416百万円を減損し、穀物事業に配分したのれんはゼロとなった。2022年10月の譲渡では受取対価420,385百万円と売却益53,895百万円を得て、肥料事業と穀物エレベーター8基は手元に残した。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

規模を追う商社型M&Aが残したもの

ガビロンの買収と売却は、規模を追う商社型M&Aの難しさを、丸紅自身の歴史のなかで浮き彫りにした。同社は戦後、吸収合併を重ねて商いの幅を広げてきた会社であり、大型の買収で規模を取りにいくという成功体験を長く持っていた。だが取得の翌期には早くも事業計画の見直しを迫られ、2015年3月期に48,053百万円、2020年3月期に88,416百万円と、のれんと無形資産を二度にわたって削っている。穀物の取扱量で世界の上位に立つという目標が、そのまま市場リスクを負うことと表裏であった事実が、減損の帳簿に残された。

もっとも、十年をかけた出口の付け方には、この会社なりの学習も見てとれる。丸紅は穀物事業をそのまま手放したのではなく、譲渡の前に穀物エレベーター8基と西海岸輸出事業の持分の一部を子会社のコロンビア・グレインへ移し、肥料事業を丸紅米国会社へ移したうえで、残りをヴィテラへ渡した。受取対価420,385百万円と売却益53,895百万円は、買収の失敗を資産の取捨によって回収へ振り替えた結果である。取扱量という規模の指標から、投資に見合う利幅が得られるかという問いへ——ガビロンの経験が後年の丸紅が掲げる投資規律をどこまで形づくったのかは、その後の資源・非資源への資本配分が引き続き問うている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収と売却の条件

買収と売却の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Gavilon Holdings, LLC 本社は米国ネブラスカ州オマハ。穀物・肥料・エネルギーの3分野を営む
持分譲渡契約の締結 2012年5月29日 持分100%を取得価額約3,600百万米ドルで取得する内容であった
契約の変更 2013年6月9日 対象をエネルギーを除く穀物・肥料の2事業とし、約2,600百万米ドルへ
取得の完了 2013年7月5日 米国東部時間。各国競争当局の承認を経た。中国は条件付認可であった
現金による対価 271,167百万円 2,702百万米ドル。持分譲渡契約に定める価格調整を実施した後の額
取得対価の公正価値 274,474百万円 取得した持分は100%
取得資産の公正価値 417,278百万円 流動資産215,083百万円、非流動資産202,195百万円
引受負債の公正価値 248,366百万円 流動負債155,485百万円、非流動負債92,881百万円
のれん 106,574百万円 IFRSのため償却せず。取得から生じるシナジー効果から構成される
取得価額の配分の確定 のれんが15,382百万円減少 2014年3月期の暫定額121,956百万円が2015年3月期第1四半期に確定
取得関連費用 3,588百万円 2013年3月期に2,234百万円、2014年3月期に1,354百万円を費用処理
取得日以降の収益 1,178,504百万円 2014年3月期。同期間の当期利益は7,259百万円
優先株式の発行 600億円 2013年8月30日、子会社GAHが国際協力銀行へ。非支配持分として認識
のれんの減損(2015年3月期) 48,053百万円 業績が2期続けて事業計画を下回る見込みとなり帳簿価額を減額した
のれん等の減損(2020年3月期) 88,416百万円 うちのれん35,163百万円、無形資産48,590百万円。税引後では783億円
譲渡の決議日 2022年1月26日 取締役会で決議し、同日にヴィテラと株式譲渡契約を締結した
譲渡の実行日 2022年10月3日 関係当局の承認取得等の手続を経て完了した
現金による受取対価 420,385百万円 ほかに支配喪失時の資産のうち現金及び現金同等物98,236百万円
売却益 53,895百万円 連結包括利益計算書上は「有価証券損益」に含めている

出所:丸紅 有価証券報告書 第89期(2013年3月期)【経営上の重要な契約等】・第90期(2014年3月期)【企業結合】・第91期(2015年3月期)【企業結合】【無形資産】・第96期(2020年3月期)【無形資産】・第99期(2023年3月期)【Gavilon Agriculture Investmentの再編及び株式譲渡について】

ガビロンに対するのれんと減損損失の推移

丸紅:ガビロンに対するのれんと減損損失の推移

(百万円) ガビロンに対するのれん減損損失 備考
2014年3月期 125,0670 取得した期。暫定額を期末日の為替レートで換算した金額
2015年3月期 73,71648,053 取得価額の配分が確定し、取得日ののれんは106,574百万円となった
2016年3月期 70,4620
2017年3月期 70,1550 この期から穀物・農業資材の2つの資金生成単位グループへ再配分
2018年3月期 66,4340 穀物CGUグループへの配分は34,354百万円
2019年3月期 69,4050 穀物CGUグループへの配分は35,890百万円
2020年3月期 32,86388,416 穀物CGUグループへ配分したのれんはゼロとなった
2021年3月期 33,4300 残りは肥料事業。農業資材CGUグループとして減損テストを行う
2022年3月期 36,9570
2023年3月期 40,3210 穀物事業の譲渡後。残るのれんは旧肥料事業のMacroSourceに対するもの
ガビロンに対するのれんと減損損失
ガビロンに対するのれん(百万円)減損損失(百万円)

出所:丸紅 有価証券報告書 第90期〜第99期(連結財務諸表に対する注記 無形資産)

連結業績の推移

丸紅:連結業績の推移

(百万円) 収益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2013年3月期 4,896,048130,143
2014年3月期 7,055,700210,945 ガビロンの新規連結により収益が7,054億円増えた
2015年3月期 7,834,295105,604 資源権益とガビロンののれんの減損により固定資産損益が悪化した
2016年3月期 7,300,29962,264 資源権益の減損で固定資産損益が1,033億円の損失となった
2017年3月期 7,128,805155,350
2018年3月期 7,540,337211,259
2019年3月期 7,401,256230,891
2020年3月期 6,827,641△197,450 一過性損失のうちガビロン穀物事業の減損は税引後783億円
2021年3月期 6,332,414223,256
2022年3月期 8,508,591424,320
2023年3月期 9,190,472543,001 穀物事業の譲渡益53,895百万円を含む
収益と当期利益
収益(百万円)親会社の所有者に帰属する当期利益(百万円)

出所:丸紅 有価証券報告書 第89期〜第99期(主要な経営指標等の推移、連結包括利益計算書)

同じ問いに直面した会社

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海外企業の買収2014年参天製薬眼科用医薬品に加えた抗リウマチ薬事業の承継による製品群の拡張事業ポートフォリオと海外展開
2009年スクウェア・エニックス・ホールディングス13年後のEmbracerへの売却海外開発拠点の保有と資本配分
2019年リログループグローバルリロケーション事業への参入と、5年での撤退海外展開と資本配分
2026年NIPPON EXPRESSホールディングス欧州に続く北米での事業基盤の獲得に向けた、cargo-partner社に次ぐ大型買収欧州に続く北米での事業基盤の獲得
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1990年三菱商事日本企業初の大型LBOと6年越しの黒字化事業投資と海外事業会社の経営
2011年住友金属鉱山チリでの権益取得から、二度の減損を経た全持分の売却までの撤退銅資源権益の取得と撤退
2001年クラレ祖業レーヨンの生産停止と、ポバール・PVB事業への軸足の移行祖業からの撤退と機能素材への資源集中
2026年NISSHA取得から約4か月での全株譲渡と、のれん減損6,759百万円の計上東南アジアの医療機器製造拠点の獲得と、短期での撤退
参考文献
出典・参考
  • 丸紅 有価証券報告書「第89期(2013年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 丸紅 有価証券報告書「第90期(2014年3月期)【経営上の重要な契約等】【企業結合】」
  • 丸紅 有価証券報告書「第91期(2015年3月期)【企業結合】【無形資産】」
  • 丸紅 有価証券報告書「第96期(2020年3月期)【経営成績の分析】【無形資産】」
  • 丸紅 有価証券報告書「第98期(2022年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 丸紅 有価証券報告書「第99期(2023年3月期)【Gavilon Agriculture Investmentの再編及び株式譲渡について】」
  • 丸紅 ニュースリリース「Gavilon の再編及び株式譲渡に関するお知らせ」

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