研究拠点の横浜集約(2019年・中外製薬の決断)

更新:
論点二つの研究所を一拠点に集約するか
中外製薬:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
富士御殿場・鎌倉の両研究所の閉鎖と、創薬機能を一カ所に集約する選択

何をなぜ決めたか:富士御殿場・鎌倉の両研究所の閉鎖と、創薬機能を一カ所に集約する選択

概要

2019年5月、中外製薬は横浜市戸塚区に建てる新研究拠点への投資を公表した。2022年竣工・総投資額1,273億円を計画し、全額を自己資金で賄うとした。2019年6月に着手した中外ライフサイエンスパーク横浜は2022年10月に竣工し、11月から研究機能の移転が始まる。2023年3月に富士御殿場研究所と鎌倉研究所を閉鎖し、同年4月から全面稼働した。

背景

国内では御殿場と鎌倉に研究拠点を配置し、連携して創薬の研究を行う体制が長く続いていた。1987年6月に建設した富士御殿場研究所の2017年12月末の帳簿価額は164億円、鎌倉研究所は172億円で、両所に621人が勤めていた。用地の手当ては早く、2016年3月には横浜市戸塚区の事業用地購入434億円に着手している。

内容

土地434億円に建物設備等1,288億円を積み、延床面積119,500㎡・全16棟の拠点を建てた。実験エリアと居室を結ぶ300mの廊下「スパイン」を中心に、異なる分野の研究者が行き交う設計とした。2022年10月15日から減価償却が始まり、同期には建物・構築物の償却方法を定率法から定額法へ変えている。

含意

御殿場と鎌倉に分散していた創薬研究機能を統合した国内唯一の創薬研究拠点となり、勤務者は2023年12月末の785人から2025年12月末の900人へ増加した。閉鎖した2カ所の跡地は売却が進み、2023年12月期に固定資産売却益139億円、2025年12月期に87億円を計上している。2024年2月には中分子創薬のスクリーニング技術をシンガポールへ移し、横浜は中分子創薬の技術開発に注力する体制へ移行した。

いつ何が起きたか11件
当時の取締役7名

当時の取締役(2019年3月株主総会決議)

考察:一年分の利益を、一つの建物へ
考察

考察:一年分の利益を、一つの建物へ

土地と建物設備を合わせた1,718億円は、投資を公表した2019年12月期の営業利益2,106億円に迫る。ロシュの傘下で中外が担うのは創薬と初期開発で、後期開発と海外での販売は親会社が引き受ける。売上の半分近くが営業利益として残る構造は、その分業と引き換えに得たものである。分業のなかで自らの手に残った機能へ、一年分の利益に相当する資本を単一の敷地に注いだことになる。御殿場と鎌倉を残して増改築を重ねる選択肢もあったが、選ばれたのは1987年から積み上げた設備を捨てて更地から建て直すほうだった。創薬の自律性を保つ根拠を、拠点の形として据え直したのだろう。

もっとも、集約が創薬の生産性を上げたのかは、まだ数字に出ていない。横浜の勤務者は2023年12月末の785人から2025年12月末の900人へ増加したが、集約そのものの成果と切り分けられる数字ではない。閉鎖した二カ所の跡地は2023年と2025年に売れ、事業所再編費用は差引きで収益へ転じた。土地の始末は済んでいる。残るのは、300mの廊下ですれ違う研究者たちが、御殿場と鎌倉に分かれていたころより多くの新薬候補を生むかどうかで、その答えが出るのはこれからである。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る4表

数字で見る

図と表

中外製薬:研究拠点の帳簿価額

富士御殿場研究所(百万円)鎌倉研究所(百万円)
中外製薬:研究拠点の帳簿価額
(百万円)富士御殿場研究所鎌倉研究所中外ライフサイエンスパーク横浜備考
2017年12月期16,40317,185−横浜は事業用地の購入段階で、主要な設備の状況に拠点として現れない
2018年12月期15,85916,828−建設は未着手。この期の設備の新設計画に横浜の記載はない
2019年12月期14,51115,452−投資を公表し6月に着手した期。既投資額は22,916百万円
2020年12月期12,53913,428−建設中で建設仮勘定に計上。既投資額は65,221百万円
2021年12月期10,45711,390−既投資額は96,358百万円。旧2研究所は償却が進み帳簿価額が半減
2022年12月期5,9805,683164,28610月に竣工し11月から移転を開始。旧2研究所は加速度償却が進んだ
2023年12月期−−168,4583月に旧2研究所を閉鎖し、主要な設備の状況から消えた
2024年12月期−−165,918
2025年12月期−−163,223
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107〜115期(2017年12月期〜2025年12月期)【主要な設備の状況】
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107〜115期(2017年12月期〜2025年12月期)【主要な設備の状況】

中外製薬:設備投資額と事業所再編費用等

設備投資額(億円)
中外製薬:設備投資額と事業所再編費用等
(億円)設備投資額事業所再編費用等備考
2017年12月期343−この期のNon-Core調整に事業所再編費用等の記載はない
2018年12月期718−この期のNon-Core調整に事業所再編費用等の記載はない
2019年12月期54028設備投資の主要なものは横浜の建設と藤枝工場の原薬製造棟
2020年12月期75247
2021年12月期72055
2022年12月期61868費用は御殿場・鎌倉の加速度償却や撤去費用。内訳の開示はない
2023年12月期683△55閉鎖関連費用より跡地の売却益が大きく、差引きで収益に転じた
2024年12月期5275
2025年12月期634△841月の鎌倉の土地売却による固定資産売却益8,708百万円を含む
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107〜115期(2017年12月期〜2025年12月期)【設備投資等の概要】【経営成績等の状況の概要】
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107〜115期(2017年12月期〜2025年12月期)【設備投資等の概要】【経営成績等の状況の概要】

中外製薬:研究拠点の従業員数

中外製薬:研究拠点の従業員数
(人)富士御殿場研究所鎌倉研究所中外ライフサイエンスパーク横浜備考
2017年12月期334287−
2018年12月期331293−
2019年12月期300337−投資を公表した期。旧2研究所の研究者は合わせて637人
2020年12月期307351−
2021年12月期313385−旧2研究所の合計は698人で、集約前の最多
2022年12月期25428918812月末時点。移転の途上で3拠点に分かれている
2023年12月期−−7854月に全面稼働。旧2研究所は閉鎖され横浜のみとなる
2024年12月期−−859
2025年12月期−−900
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107〜115期(2017年12月期〜2025年12月期)【主要な設備の状況】
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107〜115期(2017年12月期〜2025年12月期)【主要な設備の状況】

研究拠点集約の条件

研究拠点集約の条件
科目概要備考
集約前の研究拠点富士御殿場研究所・鎌倉研究所国内では御殿場と鎌倉に研究拠点を配置し、連携して創薬の研究を行っていた
新拠点中外ライフサイエンスパーク横浜所在地は神奈川県横浜市戸塚区。設備の内容は医薬品の研究
事業用地の取得43,400百万円横浜市戸塚区の事業用地購入。着手2016年3月、完成予定2018年12月
建物設備等の投資予定額128,799百万円2019年12月末の計画は127,265百万円、2020年12月末は128,499百万円
投資額の総計土地430億円・建物設備等1,288億円用地取得と建設を合わせた額。統合報告書2022に記載
資金調達方法自己資金全額を自己資金で賄う予定とし、資金流動性や財務基盤への影響は軽微とした
建設の着手2019年6月2019年に起工式を挙行。工事請負契約の相手方は鹿島建設
竣工2022年10月当初の完成予定年月は2022年8月。減価償却は同年10月15日から開始
研究機能の移転開始2022年11月
旧2研究所の閉鎖2023年3月富士御殿場研究所及び鎌倉研究所(神奈川県)を閉鎖
全面稼働2023年4月御殿場と鎌倉に分散していた創薬研究機能を統合した国内唯一の創薬研究拠点
敷地面積159千㎡2022年12月末の主要な設備の状況。土地の帳簿価額は40,653百万円
延床面積119,500㎡建物構造は全16棟
竣工時の帳簿価額164,286百万円2022年12月末。建物及び構築物92,238、機械装置及び備品31,395百万円
減価償却方法の変更定率法から定額法へ建物・構築物について2022年12月期に変更。営業利益等が1,884百万円増加
旧拠点の除却計画記載なし重要な設備の除却等の計画はありませんと各期の有価証券報告書に記載
跡地の処分2023年12月期・2025年12月期に売却固定資産売却益は13,910百万円と8,708百万円
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107期(2017年12月期)〜第115期(2025年12月期)【設備の状況】【経営成績等の状況の概要】、統合報告書2022
出所:中外製薬 有価証券報告書 第107期(2017年12月期)〜第115期(2025年12月期)【設備の状況】【経営成績等の状況の概要】、統合報告書2022
当時の取締役7名

当時の取締役(2019年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 中外製薬 有価証券報告書「第106期(2016年12月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 中外製薬 有価証券報告書「第109期(2019年12月期)【経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容】【設備の新設、除却等の計画】」
  • 中外製薬 有価証券報告書「第109期(2019年12月期)【研究開発活動】【主要な設備の状況】【経営上の重要な契約等】」
  • 中外製薬 有価証券報告書「第111期(2021年12月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • 中外製薬 有価証券報告書「第112期(2022年12月期)【経営成績等の状況の概要】【主要な設備の状況】【会計方針の変更】」
  • 中外製薬 有価証券報告書「第113期(2023年12月期)【沿革】【その他の営業収益及びその他の営業費用】」
  • 中外製薬 有価証券報告書「第115期(2025年12月期)【経営成績等の状況の概要】【その他の営業収益及びその他の営業費用】」
  • 中外製薬 統合報告書「アニュアルレポート2022」
  • 中外製薬 決算説明会 質疑応答「2022年12月期 決算説明会 質疑応答」
  • 中外製薬 決算説明会 質疑応答「2023年12月期 決算説明会 質疑応答」
  • 中外製薬 決算説明会 質疑応答「2025年12月期 第3四半期決算説明会 質疑応答」

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