ワイヤーハーネス国際カルテル(2010年・住友電工の決断)

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論点国際カルテルの摘発にどう対処するか
住友電工:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
日欧中の当局の摘発と競争法コンプライアンス規程の制定2010年2月、自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の取引について公正取引委員会の立入検査を受けた。欧州連合と米国を含む海外の競争当局も同時に調査に入り、処分は日本・欧州・中国の三極に及んだ。公正取引委員会は2012年1月19日に課徴金2,102百万円の納付を命じ、中国・国家発展改革委員会は2014年8月に2億9,040万元を課している。

何をなぜ決めたか:日欧中の当局の摘発と競争法コンプライアンス規程の制定

概要

2010年2月、自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の取引について公正取引委員会の立入検査を受けた。欧州連合と米国を含む海外の競争当局も同時に調査に入り、処分は日本・欧州・中国の三極に及んだ。公正取引委員会は2012年1月19日に課徴金2,102百万円の納付を命じ、中国・国家発展改革委員会は2014年8月に2億9,040万元を課している。

松本正義社長のもとで選んだのは、各国当局の調査に協力する道だった。欧州委員会は2013年7月に欧州競争法に違反する行為があったと決定したが、住友電気工業と英国子会社に対する課徴金は免除されている。

背景

端緒は別の事件にあった。2009年6月、電気通信事業者向け光ファイバケーブル関連製品の国内取引について公正取引委員会の立入検査を受け、翌2010年5月21日には東日本電信電話・西日本電信電話・エヌ・ティ・ティ・ドコモ等との取引で独占禁止法違反行為があったとして、排除措置命令及び課徴金納付命令を受けている。課徴金6,763百万円は、命令案の事前通知を受けた2010年3月期に課徴金引当金繰入額として特別損失へ計上した。

この立入検査に伴い、外部専門家を起用して他の違反行為の有無を調査し、独占禁止法違反行為の発見・根絶を図っている。2012年1月の課徴金納付命令が認定したのは、こうした施策を講じる以前の行為であった。

内容

処分は三極で異なる方式になった。国内では2012年1月19日に公正取引委員会から課徴金納付命令を受け、2,102百万円を同期の特別損失に計上した。欧州委員会は2013年7月に住友電気工業と英国子会社の欧州競争法違反を決定したが、調査への協力により課徴金は免除されている。中国・国家発展改革委員会は2014年8月に行政処罰決定書を発し、2億9,040万元の課徴金を課した。

米国・カナダ・豪州でも調査に協力し、刑事処分や行政処分を受けることはないとしている。一方で米国等では集団訴訟が提起され、2015年9月に原告の一部である間接購入者原告と、和解金50百万米ドルで和解合意に至った。

含意

金銭の重みは、当局の課徴金よりも民事の和解にあった。課徴金は国内2,102百万円と中国4,851百万円の計6,953百万円にとどまる一方、和解金は2014年3月期から2017年3月期までの4期で50,764百万円を特別損失に積み上げている。処分の名宛人は子会社ではなく住友電気工業自身であった。

再発防止として2010年6月に制定した「競争法コンプライアンス規程」は、専任組織である競争法コンプライアンス室が各本部の推進責任者と連携し、運用と遵守の状況を監視する仕組みである。その後も競争法コンプライアンスを最重要の課題と位置づけている。

いつ何が起きたか9件
考察:主力に据え直した事業が抱えていたもの
考察

考察:主力に据え直した事業が抱えていたもの

摘発されたのは、会社が主力に据え直したばかりの事業であった。2006年に独フォルクスワーゲン ボードネッツェを買収し、2007年8月には住友電装を株式交換で完全子会社として、ワイヤーハーネスをグループの中核へ引き上げた直後の時期の取引が、違反行為として認定されている。しかも命令の名宛人は現場を担う子会社ではなく、住友電気工業そのものであった。事業を囲い込むという資本の判断と、その事業が背負っていた取引慣行とが、数年遅れで一つの帳簿の上で出会っただろう。

もっとも、協力という選択が報われたのは当局の制裁までであった。欧州では課徴金を免除され、中国では減額を受け、米国・カナダ・豪州では刑事処分も行政処分も免れている。それでも米国の集団訴訟と自動車メーカーとの賠償交渉は残り、和解金は4期で50,764百万円と、日中の課徴金の7倍を超えた。当局に早く手を挙げることと、買い手からの請求を抑えることは別の問題だったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る2表

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図と表

住友電工:競争法違反に伴う特別損失

課徴金(百万円)和解金(百万円)
住友電工:競争法違反に伴う特別損失
(百万円)課徴金和解金備考
2006年3月期00
2007年3月期00
2008年3月期00
2009年3月期002009年1月に高圧・特別高圧電力ケーブルの取引で公正取引委員会の立入検査を受けた
2010年3月期6,7630光ファイバケーブルの課徴金納付命令の事前通知を受け、命令案の額を計上した
2011年3月期002010年6月に競争法コンプライアンス規程を制定。課徴金6,763百万円を支払った
2012年3月期2,10202012年1月19日のワイヤーハーネスの課徴金納付命令を受けて計上した
2013年3月期00
2014年3月期09,998和解金として特別損失に計上。損益計算書に内訳の注記はない
2015年3月期4,8519,970課徴金は中国・国家発展改革委員会の行政処罰決定書によるもの
2016年3月期020,6612015年9月に米国の間接購入者原告と50百万米ドルで和解合意に至った
出所:住友電気工業 有価証券報告書 第136〜147期(連結損益計算書・特別損失)
出所:住友電気工業 有価証券報告書 第136〜147期(連結損益計算書・特別損失)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
端緒2009年6月光ファイバケーブルの立入検査を受け、外部専門家を起用して社内調査を実施した
立入検査2010年2月自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の取引について公正取引委員会が実施
認定された行為の時期2008年ないし2009年以前競争法コンプライアンス体制の強化を講じる以前の行為が処分の対象となった
国内の課徴金納付命令2012年1月19日公正取引委員会。命令を受けたのは子会社ではなく住友電気工業であった
国内の課徴金2,102百万円2012年3月期に課徴金引当金繰入額として特別損失に計上した
欧州委員会の決定2013年7月住友電気工業と英国子会社に欧州競争法に違反する行為があったとする決定
欧州の課徴金免除欧州委員会の調査への協力により課徴金を免除された
中国の行政処罰決定2014年8月中国・国家発展改革委員会。中国独占禁止法に違反する行為があったとされた
中国の課徴金2億9,040万元2015年3月期に課徴金4,851百万円として特別損失に計上した
米国・カナダ・豪州刑事処分・行政処分なし調査に協力し、今後これらの当局から処分を受けることはないとしている
米国の集団訴訟の和解2015年9月原告の一部である間接購入者原告との間で和解合意に至った
和解金(米国の集団訴訟)50百万米ドル間接購入者原告との和解によるもの
和解金の計上4期で50,764百万円内訳は9,998/9,970/20,661/10,135百万円(2014〜2017年3月期)
損害賠償の交渉一部の自動車メーカー2019年3月期の有価証券報告書まで交渉中と記載していた
再発防止の規程2010年6月「競争法コンプライアンス規程」を制定し、グループ全体へ適用した
再発防止の体制競争法コンプライアンス室各本部の専任組織・推進責任者と連携し、運用と遵守状況を監視する
出所:住友電気工業 有価証券報告書 第140〜147期(2010年3月期〜2017年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【損益計算書注記】
出所:住友電気工業 有価証券報告書 第140〜147期(2010年3月期〜2017年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】【損益計算書注記】
参考文献

参考文献

参考
  • 住友電気工業 有価証券報告書「第140期(2010年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】」
  • 住友電気工業 有価証券報告書「第141期(2011年3月期)【対処すべき課題】【連結キャッシュ・フロー計算書】」
  • 住友電気工業 有価証券報告書「第142期(2012年3月期)【対処すべき課題】【その他】【損益計算書注記】」
  • 住友電気工業 有価証券報告書「第144期(2014年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】」
  • 住友電気工業 有価証券報告書「第145期(2015年3月期)【事業等のリスク】【損益計算書注記】」
  • 住友電気工業 有価証券報告書「第146期(2016年3月期)【事業等のリスク】」

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