東北電力女川原子力発電所への株主提案:3年続いた定款変更の請求と、原子力を維持する取締役会の反対

時期 2024年6月
当時の社長 樋口康二郎
論点 株主提案への対応と原子力発電の位置づけ
概要

2024年6月26日の第100回定時株主総会に、個人株主193名が定款の一部変更を求める5件の株主提案を出した。取締役会は全件に反対し、いずれも否決された。同じ形の提案は2025年6月26日の第101回に6件、2026年6月25日の第102回に6件と続き、3年で17件がすべて否決されている。

定款変更は特別決議で、可決には議決権を行使できる株主の議決権の3分の1以上の出席と、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が要る。提案株主が持つ議決権は第100回で3,090個、議決権総数4,984,217個の0.06%にとどまる。

背景

女川原子力発電所は2011年3月の東日本大震災で停止し、第2号機は2020年2月に原子力規制委員会から原子炉設置変更許可を得て安全対策工事を進めていた。第100回総会は再稼働の半年前にあたる。

提案は、元日の能登半島地震で動いた海底断層を北陸電力が志賀原子力発電所の審査で約96kmと評価していた点を引き、女川でも活断層の見落としや連動可能性の過小評価がないかを突いた。道路の寸断と家屋の倒壊によって広域避難と屋内退避を基本とする原子力災害対策が成り立たないことも論拠に置いた。

内容

議案は原子力の停止・撤退、核燃料サイクルの断念、再生可能エネルギーの拡大、取締役の女性比率、特別顧問の廃止に及んだ。反対の論拠として取締役会が繰り返し置いたのは、原子力を安全確保を最優先に安定供給・経済効率性・環境適合の観点から重要な電源と位置づける考えと、業務執行に係る事項を取締役会および取締役に委ねる会社法の建て付けである。

賛成は議案で割れた。原子力の停止・撤退を求めた議案の賛成は10万〜18万個で反対率は94〜96%台、これに対し特別顧問等の廃止は3年とも96万〜99万個を集め、反対率は70〜72%台にとどまった。

含意

女川原子力発電所第2号機は2024年11月に沸騰水型軽水炉として初めて再稼働し、12月26日に営業運転を再開した。同機が停止した場合は年間で600億円程度の火力燃料費が増加するとの試算が示されており、2024年度の連結経常利益2,567億円は再稼働による収支改善を含む。

提案は退けられ続けたが、その議案は毎年入れ替わっている。第102回では特定重大事故等対処施設の完成前の運転や、核燃料サイクルの断念、地熱発電の推進が新たに問われた。

筆者の見解

否決の幅が語るもの

この3年の株主提案は、可決を狙ったものではない。提案株主が持つ議決権は3,090個から2,814個へ細り、議決権総数の0.06%でしかなく、定款変更に要る3分の2にはどう組んでも届かない。それでも毎年6件前後を立て続けるのは、議案という形式でしか会社に文書で答えさせられないからだろう。取締役会の意見は招集通知に載り、原子力を重要な電源とする理由も、業務執行を定款で縛らないという建て付けも、株主の目の前に活字で並ぶ。否決の是非ではなく、答えを引き出すこと自体が提案の機能になっている。

もっとも、賛成の集まり方は議案によってはっきり分かれた。原子力の停止や核燃料サイクルの断念を求めた議案が10万個台にとどまるのに対し、特別顧問等の廃止は3年とも96万個を超え、反対率は70%台まで低下する。金融機関が約29%、外国法人等が約19%を占める株主構成のなかで、原子力政策そのものには乗らない投資家が、退任した会長・社長が会社に残る慣習にだけは票を投じたとみられる。定款で経営を縛る手段は退けられ続けているが、そこに映った票差は、次にどの論点が経営に届くのかを示している。

Yutaka Sugiura

株主提案の条件

科目 概要 備考
提案株主 個人株主193名の共同提案 第101回は189名、第102回は179名。いずれも特定の機関投資家やファンドではない
提案株主の議決権の数 3,090個(第100回) 第101回は2,967個、第102回は2,814個。議決権総数4,984,217個に対し0.06%
対象の株主総会 第100回から第102回までの3回 2024年6月26日、2025年6月26日、2026年6月25日
株主提案の議案 定款一部変更 5件(第100回) 第101回・第102回は各6件。3年で17件。いずれも定款の変更を求める議案
3回とも出された議案 特別顧問等の廃止 経営の透明性と企業統治の強化を理由に、定款へ廃止を明記するよう求めた
提案の理由 原子力からの撤退と再生可能エネルギーへの転換 能登半島地震が示した活断層評価の限界と、広域避難を基本とする災害対策の実効性を論拠とした
取締役会の意見 全17議案に反対 原子力は重要な電源であり、業務執行に係る内容を定款に規定することは適切でないとした
議決の結果 17議案すべて否決 反対率は原子力関連が94〜96%台、特別顧問等の廃止が70〜72%台
可決の要件 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成 定款変更は特別決議。議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提となる

出所:東北電力 第100回・第101回・第102回定時株主総会招集ご通知、臨時報告書(2024年7月1日・2025年7月1日・2026年6月30日提出)

東北電力:株主提案の議案別の反対率

(%) 反対率 備考
2024年 第4号議案 95.84 電気事業から原子力発電を除く定款変更。賛成は127,586個
2024年 第5号議案 96.18 第2号機の耐震安全対策と原子力災害対策の見直し。賛成は115,672個
2024年 第6号議案 95.3 再生可能エネルギー200万kW開発の2030年達成。賛成は146,960個
2024年 第7号議案 96.11 放射性廃棄物と使用済核燃料を増加させない。賛成は118,259個
2024年 第8号議案 71.96 特別顧問等の廃止。賛成は968,429個で、この回の5件で最多
2025年 第4号議案 96.36 原子力発電事業からの撤退。賛成は111,624個
2025年 第5号議案 96.36 グリーンビジネスを展開する事業領域の主軸に。賛成は111,743個
2025年 第6号議案 96.56 使用済燃料の乾式貯蔵施設を設置しない。賛成は104,874個
2025年 第7号議案 89.37 女性取締役を30%以上とする。賛成は351,987個
2025年 第8号議案 70.55 特別顧問等の廃止。賛成は999,458個で、3年17議案で最多
2025年 第9号議案 96.07 日本原子力発電への資金支援の中止。賛成は121,584個
2026年 第4号議案 95.66 脱原発会社宣言を定款に置く。賛成は139,652個
2026年 第5号議案 94.62 女性取締役を育成し将来的に半数とする。賛成は176,315個
2026年 第6号議案 95.72 特定重大事故等対処施設の完成まで運転しない。賛成は138,390個
2026年 第7号議案 95.71 核燃料サイクル事業の断念。賛成は138,378個
2026年 第8号議案 94.58 地熱発電の更なる推進。賛成は178,830個
2026年 第9号議案 71.89 特別顧問等の廃止。賛成は988,008個

出所:東北電力 臨時報告書(2024年7月1日・2025年7月1日・2026年6月30日提出)議決権行使の結果

東北電力:提案株主の規模

(個) 提案株主の議決権の数 備考
2024年 第100回 3,090 提案株主193名。議決権総数4,984,217個に対し0.06%
2025年 第101回 2,967 提案株主189名。議決権総数は4,984,448個
2026年 第102回 2,814 提案株主179名。議決権総数は4,984,527個

出所:東北電力 第100回・第101回・第102回定時株主総会招集ご通知 株主総会参考書類

東北電力:所有者別の議決権比率の推移

(%) 金融機関外国法人等(法人)個人その他 備考
2019年3月期 33.5923.8532.4
2020年3月期 35.9120.0834.1
2021年3月期 32.7221.3134.6
2022年3月期 32.4313.441.66 外国法人等が前期から7.91ポイント下がり、個人その他が7.06ポイント上がった
2023年3月期 30.5116.8642.81
2024年3月期 29.3220.1939.41 第100回総会の基準日を含む期。特別顧問等の廃止に968,429個の賛成が集まった
2025年3月期 29.4218.6338.94
2026年3月期 29.8319.2438.39
2027年3月期 第27期は未到来
2028年3月期
2029年3月期

出所:東北電力 有価証券報告書 第95期〜第101期【所有者別状況】

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出典・参考

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