わかもと製薬ナナホシの中期経営計画提案を否決:ROE・WACC・セグメント別ROICの開示を定款へ書き込ませる要求と、17.08%で退けた第131回総会

更新:

時期 2026年6月
当時の社長 平井友行
論点 中期経営計画の数値目標をどこまで開示し、誰が決めるか
概要

2026年6月22日の第131回定時株主総会で、ナナホシマネジメントが第4号議案として定款変更を提案した。毎事業年度、その年度を初年度とする3事業年度の中期経営計画を策定し、ROE・営業利益・当期純利益・投下資本の目標、WACCと株主資本コストの前提、3年間の資金配分方針、セグメント別ROICの実績値と目標値を計画に含めて開示せよという内容である。取締役会は5月15日に反対を決議し、議案は賛成17.08%で否決された。可決には出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要だった。

背景

わかもと製薬は2024年度から5か年の中期経営計画「Wakamoto 100―承継と挑戦―」を実行しており、2028年度を最終年度としてROE8.0%以上、配当性向50%以上、政策保有株式を純資産比10%以下とする目標を掲げている。自己資本利益率の実績は2022年3月期の2.09%から2025年3月期の0.55%まで下がり、2026年3月期は1.92%だった。提案の直前にあたる2026年4月1日、代表取締役社長は五十嵐新氏から平井友行氏へ交代している。

内容

提案の理由に挙げたのは、現行計画にセグメント別利益目標すら開示されておらず、進捗を外部から客観的に検証することが困難だという点だった。計画は開始から2年が経過し、概ね計画通りに進捗しているとして新社長が就任したが、その進捗判断は経営陣の自己評価に依拠しているとしている。

取締役会は、資本コストや事業特性に基づき最適な指標を選定して計画を策定・実行するのが企業価値向上に最も資するとして反対した。医薬品事業は研究開発に長期間を要し国の政策の影響も大きいため、施策の成果を短期的に評価して見直すことには馴染まず、毎年の改定の義務付けは短期的な業績の偏重につながるとしている。

含意

第4号議案は17.08%で否決された。一方、会社提案の取締役4名の賛成率は85.71〜86.00%にとどまり、監査等委員である取締役候補の98.93%とは13ポイント離れている。2026年3月期は「マキュエイド眼注用」の供給再開などで売上高が前期比27.2%増の99億6百万円となり、2期続いた営業損失から2億5千5百万円の営業利益へ戻した。定款には一行も加わらなかったが、中期経営計画の進捗をどう検証させるかという問いは、議決権の17%と役員選任の13ポイント差として残った。

筆者の見解

検証可能性を定款へ求める

提案が求めたのは新しい事業でも還元でもなく、計画の書式だった。ROE、WACC、セグメント別ROICと投下資本の前提条件まで並べた条文は、経営の中身ではなく、外から採点できる形で数字を置けという要求である。中期経営計画は取締役会が作る業務執行の産物で、その粒度も改定の時期も取締役会が決める。そこを定款へ移せば、粒度の決定権が総会へ移る。自己資本利益率が0.55%まで低下した翌年に、概ね計画通りと自己評価したうえで社長が代わった経緯を踏まえれば、提案株主が突いたのは業績そのものではなく、進捗を会社しか測れない状態のほうだったとみられる。

もっとも、17.08%という数字は、その要求が株主の多数に支持されなかったことを示している。医薬品の開発は数年単位で進み、毎年の計画改定を定款で義務付ければ運用は硬直する、という会社の反論には相応の説得力がある。ただし同じ総会で、取締役4名の賛成率は85%台にとどまり、監査等委員候補の98.93%と13ポイント開いた。定款に条文は加わらず、計画の書式も変わらない。それでも2026年3月期は売上高が27.2%増え、2期続いた営業損失が営業利益へ戻った。数字で答えるほかに、この問いを閉じる道はないのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

株主提案の条件

科目 概要 備考
提案株主 株式会社ナナホシマネジメント 所有株式数と所有比率は公表資料に記載がなく、大株主の状況にも載っていない
対象の株主総会 第131回定時株主総会(2026年6月22日) 会社提案は第1号から第3号議案、株主提案は第4号議案の1件
株主提案の議案 第4号議案 定款一部変更の件 現行定款に第8章「中期経営計画」と第39条を新設する
議案の要領 毎事業年度、3事業年度の中期経営計画を策定する 最終事業年度の数値目標の達成状況を、毎事業年度これを開示するものとする
計画に含めさせる項目 ROE・営業利益・当期純利益・投下資本の目標 いずれも最終事業年度のもの。投下資本は目標と内訳の両方を求めている
計画に含めさせる項目(2) WACCと3事業年度合計の資金配分の方針 WACC算定時における株主資本コストの前提条件も開示の対象とする
計画に含めさせる項目(3) セグメント別ROICの実績値と最終年度の目標値 実績値・目標値の算定に用いた投下資本の前提条件も含める
提案の理由 セグメント別利益目標すら開示されていない 進捗の判断が経営陣の自己評価に依拠し、外部からの客観的な検証が困難だとした
会社提案と重なる議案 なし 取締役4名と監査等委員である取締役1名の選任は会社提案のみで、対抗候補はない
取締役会の意見 反対(2026年5月15日) 医薬品事業は研究開発に長期間を要し、短期的に評価して見直すことには馴染まない
議決の結果 否決(賛成17.08%) 賛成51,286個・反対247,775個。会社提案の第1号から第3号議案はすべて可決
可決の要件 出席した株主の議決権の3分の2以上 議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提。会社提案の議案は過半数

出所:わかもと製薬 第131回定時株主総会招集ご通知(2026年6月)・株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ(2026年5月15日)・臨時報告書(2026年6月25日提出)

わかもと製薬:第131回定時株主総会の議案別賛成率

(%) 賛成率 備考
第1号 剰余金処分 99.23 会社提案。1株につき3円50銭の期末配当、総額121,470,594円
第2号 平井友行 85.75 会社提案。2026年4月1日付で就任した代表取締役社長
第2号 五十嵐新 85.71 会社提案。2026年3月まで代表取締役社長
第2号 葛西洋芳 86 棄権が38,657個あり、反対は2,247個にとどまる
第2号 谷口誠 85.99 棄権が38,657個あり、反対は2,287個にとどまる
第3号 樋川加奈 98.93 会社提案。監査等委員である社外取締役
第4号 定款一部変更 17.08 株主提案。3分の2以上の賛成が必要で否決された

出所:わかもと製薬 臨時報告書(2026年6月25日提出)第131回定時株主総会の議決権行使結果

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出典・参考

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