加賀電子 新光商事をTOBで買収 純資産を下回る1株1,580円の据え置きと、下限引き下げによる72.45%の取得

更新:

時期 2026年5月
当時の社長 門良一
論点 簿価を下回る価格での同業商社の取り込み
何をなぜ決めたか
概要

2026年5月15日、加賀電子が取締役会で新光商事株式の公開買付けを決議した経営判断。目的は完全子会社化で、買付価格は1株1,580円とした。期間を3度延ばし、買付予定数の下限を引き下げたうえで8月3日に締め切り、応募20,938,007株を全部買い付けた。

8月10日に議決権72.45%を取得して連結子会社とした。これに伴い2027年3月期の第2・第3四半期に負ののれん発生益60億円を特別利益として計上する見込みで、金額は第1四半期末時点の暫定値である。

背景

『中期経営計画2027』(2024年11月公表)はM&Aを成長ドライバーに据え、2028年度の売上高1兆円を志向する。2025年7月には協栄産業をTOBで連結子会社化し、取得原価11,706百万円に対して負ののれん発生益7,594百万円を計上していた。

新光商事の株式は2024年3月頃から純投資として市場で買い進め、515,000株(1.74%)を持っていた。2025年9月の面談で資本提携への関心を確かめ合い、10月には公開買付けによる完全子会社化が望ましいとの認識に至った。

内容

価格は2026年4月7日の初回1,420円から1,490円、1,510円、1,530円、1,550円と刻み、5月11日の1,580円を提示できる最大限の価格とした。1,580円は新光商事の1株当たり連結純資産1,778円を約11.14%下回る。新光商事は賛同したが、十分なプレミアムが付いていないとして応募の判断を株主に委ねた。

狙いは同社のLSIデザインセンターと300人超のエンジニアを共有して設計・開発力を強め、加賀電子のEMS生産インフラで同社のアセンブリ事業の付加価値を高めることにある。

含意

公表後、新光商事の株価は1,580円を上回って推移した。加賀電子は7月8日と7月29日に価格を変えないと表明し、29日には上限かつ最終の価格だとして引き上げを否定した。代わりに7月17日、下限を19,226,700株(所有割合64.93%)から15,988,500株(53.99%)へ下げた。

結果は72.45%で3分の2を超え、株式併合による完全子会社化と上場廃止へ進む。第2四半期以降の業績影響は売上高1,000億円前後、営業利益15億円前後と見積もっている。

いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
筆者の見解

簿価割れの値札を最後まで守る

この買収の芯は、成長への上乗せ価格ではなく、純資産を割り引いて買うことにあったと思われる。1株1,580円は新光商事の1株当たり純資産1,778円を下回り、その差が負ののれん発生益60億円として加賀電子の利益に立つ。富士通エレクトロニクスの2,164百万円、エクセルの7,963百万円、協栄産業の7,594百万円と、同業商社を簿価割れで取り込むたびに同じ利益が出てきた。市場が低く値付けする電子部品商社を、自社の規模と利益に置き換える型が、ここで出来上がっていたとみられる。

もっとも、その値付けは新光商事の株主にすんなりとは受け入れられていない。株価は公開買付価格を上回って推移し、期間は3度延び、加賀電子は価格ではなく下限を下げることで成立させた。取得した72.45%は完全子会社化に足りるが、残る株主は値札に納得したわけではない。しかも負ののれんは一度きりの利益で、取り込んだ事業の営業利益率は1.5%前後と見積もられている。安く買えたことより、薄い利幅を引き上げられるかが、この買収の成否を決めるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

業績の推移
負ののれん発生益と当期純利益の推移

加賀電子:負ののれん発生益と当期純利益の推移

(百万円) 負ののれん発生益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2022年3月期 015,401
2023年3月期 023,070
2024年3月期 48120,345 加賀FEIがCandera GmbHの株式を取得した際に発生
2025年3月期 017,083
2026年3月期 7,79731,099 協栄産業分7,594と蘇州加賀智能設備の連結によるもの
負ののれん発生益と当期純利益
負ののれん発生益(百万円)当期純利益(百万円)

出所:加賀電子 有価証券報告書 第55期〜第58期(連結損益計算書、報告セグメントごとの負ののれん発生益に関する情報、主要な経営指標等の推移) / 加賀電子 臨時報告書(2026年10月1日)

純資産と総資産の推移

加賀電子:純資産と総資産の推移

(百万円) 純資産額総資産額 備考
2022年3月期 105,800272,139
2023年3月期 129,737286,217
2024年3月期 151,231286,792
2025年3月期 166,379305,671
2026年3月期 183,516403,694 協栄産業の連結と期末の大口スポット販売で総資産が膨らむ
純資産と負債
純資産額(百万円)負債(百万円)純資産額率(%)

出所:加賀電子 有価証券報告書 第58期(2026年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 加賀電子 新光商事株式会社の普通株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ(2026年5月15日、対象者の概要)

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参考文献
出典・参考

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