ミャンマー・ヤンキン地区複合開発への参入(2017年・鹿島建設の決断)

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鹿島建設:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
請負に代わる、ミャンマー政府とのBOT契約による賃貸資産の自社開発2017年11月、鹿島建設はミャンマー政府とBOT契約を締結し、ヤンゴンのヤンキン地区でオフィス・ホテル・商業施設を一体で開発する事業に着手した。敷地は約27,000㎡、延床は約173,200㎡で、当初は他社を入れない単独事業として2018年末の着工を予定していた。2015年6月に社長に就任した押味至一氏のもとでの決断である。

何をなぜ決めたか:請負に代わる、ミャンマー政府とのBOT契約による賃貸資産の自社開発

概要

2017年11月、鹿島建設はミャンマー政府とBOT契約を締結し、ヤンゴンのヤンキン地区でオフィス・ホテル・商業施設を一体で開発する事業に着手した。敷地は約27,000㎡、延床は約173,200㎡で、当初は他社を入れない単独事業として2018年末の着工を予定していた。2015年6月に社長に就任した押味至一氏のもとでの決断である。

事業はシンガポールのKYP・インベストメントが統括した。同社の資本金は2018年3月期末の14,850千米ドルから、2019年3月期末に39,750千米ドル、2020年3月期末に100,000千米ドル、2021年3月期末に170,000千米ドルへ積み増され、傘下にカジマ・ミャンマー・ホールディングと事業会社のカジマ・ヤンキン・PPPを置いた。

背景

鹿島建設は1954年に、賠償第一号工事となるビルマ・バルーチャン発電所に着工した。1988年4月にはシンガポールにカジマ オーバーシーズ アジア(現カジマ アジア パシフィック ホールディングス)を設立し、アジアでの事業の足場を置いた。国内では1971年1月に住宅事業・不動産取引業務を事業目的に加え、請負の外に開発の事業を持っていた。

2017年6月には、シンガポールで住宅・商業・公共施設の複合開発(ウッドレイ)の土地を落札し、商業施設の企画・運営に長けた現地デベロッパーとの共同事業として進めた。アジアの開発事業の狙いは、安定収益を生む優良賃貸案件の創出にあった。同業の大林組は2012年7月に大林クリーンエナジーを設立し、連結営業利益に占める国内建設以外の営業利益の割合を約40%に高める目標を掲げ、太陽光発電から風力・バイオマス・地熱へ広げる方針を示していた。

内容

建物はアジアの統括会社の重要な設備の新設計画に載った。2018年3月期には投資予定総額42,496百万円・既支払額334百万円、2018年12月着工の予定だった。2019年3月期には総額67,570百万円・既支払額2,819百万円、2018年9月着工・2024年8月完成予定と改めた。

本体工事は2019年5月に着工し、2020年3月にはJOINが参画して共同事業となった。KYP・インベストメントに対する持分は75.0%となる。2021年3月期末の計画は総額66,271百万円、既支払額15,002百万円で、資金は銀行借入等で調達する予定だった。

含意

ミャンマーの政変発生以降、現場は維持管理の作業だけになった。カジマ・ヤンキン・PPPは2021年12月に事業計画の変更(スケジュールの変更)を決め、社員や技能労働者の安全、品質の確保、投下資金の回収可能性の観点から工事を再開する条件が整わないと判断した。2022年3月期に帳簿価額の全額を減損し、ヤンゴン市の賃貸用資産には建設仮勘定13,829百万円と使用権資産2,377百万円が含まれる。親会社株主に帰属する当期純利益への影響は約120億円である。

2026年10月27日、事業ポートフォリオの最適化を目的に、KYP・インベストメントの全株式を譲渡すると決めた。傘下のカジマ・ミャンマー・ホールディングとカジマ・ヤンキン・PPPも連結子会社から外れる。異動は2027年4月までの予定で、関係当局の承認等によっては2028年4月まで延びる可能性があり、譲渡はまだ済んでいない。譲渡先と譲渡額は示されていない。

いつ何が起きたか12件
筆者考察
考察

考察:保有は国の危険まで負う

この決断は、請負で収益を上げてきた建設会社が、海外で建物を自ら保有し、賃料で回収する側へ移るかという問いへの答えである。鹿島建設はヤンキン地区で、ミャンマー政府とのBOT契約に基づき、オフィス・ホテル・商業施設を自ら開発すると決めた。請負なら工事の完了とともに代金を回収できるが、保有では回収が完成後の長い運営期間にかかる。その期間の手前で政変が起き、既支払額16,207百万円まで積んだ資産は帳簿価額の全額を減損した。純利益への影響は約120億円で、2026年10月には統括会社ごとの譲渡を決めた。完成も回収も果たさずに撤退へ向かった点で、この投資は失敗に終わったと言える。

鹿島建設とミャンマーの関わりは、1954年のビルマ・バルーチャン発電所の着工にさかのぼる。請負から開発への広がりも新しくはなく、国内では1971年1月に住宅事業・不動産取引業務を事業目的に加えている。2017年の決断は、この二つの系譜が海外で交わった地点にある。同じ2017年6月にシンガポールで落札したウッドレイは、現地デベロッパーとの共同事業だった。ヤンキンは単独で始め、JOINが参画して共同事業となったのは本体工事の着工後の2020年3月である。相手を入れずに始めたことが、政情の危険を自社だけで負う構造を生んだとみられる。

同業の大林組は2012年7月に大林クリーンエナジーを設立し、連結営業利益に占める国内建設以外の営業利益の割合を約40%に高める目標を掲げた。請負の外に収益源を求める点で、鹿島建設のヤンキンと同じ問いへの答えである。違いは、保有を始める資産の規模と順序にある。大林組は太陽光発電から入り、風力・バイオマス・地熱へ広げる順を描いた。鹿島建設は、契約の相手が政府である国で、初めから延床約173,200㎡の複合開発に入った。保有型の事業では、資産を置く国の政情が回収の前提になる。ヤンキンの減損は、その前提が崩れたときに一度で失う額の大きさを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

数字で見る

鹿島建設:アジアの開発事業の設備新設計画

鹿島建設:アジアの開発事業の設備新設計画

既支払額(百万円)投資予定総額(百万円)

既支払額は2022年3月期に16,207百万円まで積み上がった

鹿島建設:アジアの開発事業の設備新設計画
(百万円)投資予定総額既支払額備考
2018年3月期42,4963342017年11月にBOT契約。カジマ オーバーシーズ アジアの計画として記載
2019年3月期67,5702,8192018年9月着工・2024年8月完成予定
2020年3月期65,14511,5132019年5月に本体工事着工
2021年3月期66,27115,002カジマ・ヤンキン・PPPの計画として記載
2022年3月期68,85016,207完成時期未定。帳簿価額の全額を減損
出所:鹿島建設 有価証券報告書 第120〜126期【設備の新設、除却等の計画】(海外関係会社)
出所:鹿島建設 有価証券報告書 第120〜126期【設備の新設、除却等の計画】(海外関係会社)
鹿島建設:KYP・インベストメントの資本金

鹿島建設:KYP・インベストメントの資本金

資本金(千米ドル)

資本金は3年で14,850千米ドルから170,000千米ドルへ増加した

鹿島建設:KYP・インベストメントの資本金
(千米ドル)資本金備考
2018年3月期14,850議決権の所有割合100%
2019年3月期39,750
2020年3月期100,000
2021年3月期170,000JOINの参画で議決権の所有割合は75.0%
2022年3月期170,000
2023年3月期170,000
出所:鹿島建設 有価証券報告書 第121〜126期【関係会社の状況】
出所:鹿島建設 有価証券報告書 第121〜126期【関係会社の状況】
当時の取締役12名

取締役12名(2017年6月株主総会決議)

役員名役職
取締役業務執行担当領域
中村満義取締役:代表取締役業務執行:会長担当:
押味至一取締役:代表取締役業務執行:会長・社長執行役員担当:
小泉博義取締役:代表取締役業務執行:副社長執行役員担当:建築管理本部長
鹿島昭一取締役:取締役業務執行:相談役担当:
日名子喬取締役:取締役業務執行:副社長執行役員担当:営業本部長
平泉信之官僚取締役:取締役業務執行:担当:
茅野正恭取締役:代表取締役業務執行:副社長執行役員担当:土木担当
古川洽次商社取締役:取締役業務執行:担当:
坂根正弘取締役:取締役業務執行:担当:
齋藤聖美金融取締役:取締役業務執行:担当:
内田顕取締役:取締役業務執行:専務執行役員担当:財務本部長
石川洋取締役:取締役業務執行:副社長執行役員担当:営業担当
この一覧は2017年6月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

  • 鹿島建設 2019年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料(2018年8月)【海外プロジェクト】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第121期(2018年3月期)【役員の状況】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第121〜123期(2018年3月期〜2020年3月期)【関係会社の状況】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第124期(2021年3月期)【関係会社の状況】
  • 鹿島建設 公式サイト「沿革」
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第124期(2021年3月期)【沿革】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第123期(2020年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第128期(2025年3月期)【沿革】
  • 大林組 有価証券報告書 第116期(2020年3月期)【沿革】
  • 大林組 有価証券報告書 第108期(2012年3月期)【対処すべき課題】
  • 大林組 有価証券報告書 第109期(2013年3月期)【対処すべき課題】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第121期(2018年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第122期(2019年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 鹿島建設 2021年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料(2020年8月)【海外プロジェクト】
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第124期(2021年3月期)【設備の新設、除却等の計画】
  • 鹿島建設 2022年3月期 第3四半期決算短信(2022年2月10日)
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第125期(2022年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • 鹿島建設 2019年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料(2018年8月)
  • 鹿島建設 2020年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料(2019年8月)
  • 鹿島建設 2021年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料(2020年8月)
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第120〜126期【設備の新設、除却等の計画】(海外関係会社)
  • 鹿島建設 有価証券報告書 第121〜126期【関係会社の状況】
  • 鹿島建設 臨時報告書「臨時報告書(特定子会社の異動)」
  • 鹿島建設 決算説明会資料「海外事業説明資料(海外関係会社セグメント)」
  • 鹿島建設 決算短信「2022年3月期 第3四半期決算短信」
  • 鹿島建設 決算説明会資料「2021年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料」
  • 鹿島建設 決算説明会資料「2019年3月期 第1四半期決算説明会 参考資料」
  • 鹿島建設 有価証券報告書「第121〜126期【設備の新設、除却等の計画】【関係会社の状況】」
  • 鹿島建設 有価証券報告書「第125期(2022年3月期)【連結損益計算書関係】」

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