三井物産との合弁による海外メンテナンス——2019年に始めた段階展開
2019年実施国内が国策で拡大するなかで、岸本達也社長はなぜ三井物産と組んで海外の補修事業へ乗り出したのか
- 概要
- 2019年4月、岸本達也社長のもとでショーボンドホールディングスが三井物産と合弁会社SHO-BOND & MITインフラメンテナンス(SB&M)を設立し、メンテナンス事業の海外展開を始めた経営判断。三井物産の世界的な網を足がかりに、東南アジアから北米へと段階的に進出した。
- 背景
- 国内は笹子トンネル事故後にインフラ老朽化対策が国策となり、国土強靭化予算の拡大を追い風にメンテナンス市場が広がっていた。一方、海外でもインフラの老朽化が深刻になりつつあり、補修技術を展開する余地があったが、現地の顧客網を持たない同社が単独で進出するのは難しかった。
- 内容
- 2019年4月に三井物産と合弁SB&M(ショーボンド51%・三井物産49%)を設立し、三井物産の世界62カ国・124拠点の網を活用。2020年にタイのCPAC社と合弁CPAC SB&M Lifetime Solutionを設立し、2023年7月に米国のStructural Technologies社へ出資、2024年7月にはショーボンド建設に海外事業部を置いた。
- 含意
- 製品販売にとどまらず施工指導や技術提供まで含む「総合メンテナンス体制」を海外へ持ち出すモデルへ転換した。2025年6月期にはタイのCPAC SB&Mが創業以来初の黒字となり、海外事業は収益化の第一歩を踏んだ。
国策依存へ引いた、海外という補助線
この判断の核心は、国内が国策で広がっているさなかに、あえて海外へ次の成長の余地を求めた点にある。需要の多くを国内の公共投資に頼る構造は、政策が縮めば業績も縮む裏返しでもあった。好調なうちに、三井物産の世界的な商流という他社の強みを借りて海外へ地歩を築いておく——単独では届かない現地市場への距離を、合弁によって縮めた選択だった。
もっとも、海外事業の規模はまだ小さく、2025年6月期のタイの黒字化は収益化の第一歩にすぎない。それでも、相手の販売網に乗る製品販売から、自ら施工と技術を提供する直接展開型への転換は、国内で磨いた「総合メンテナンス体制」を海外でどう活かすかという問いに一つの答えを与えている。国内偏重の構造にどう備えるか——この決断は、その問いを収益が好調な時期に経営の中心へ置いた点で意味を持つ。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内メンテナンス市場の国策化
2012年12月、中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡する事故が起きた。この事故を機に国内のインフラ老朽化対策が急務となり、政府が定めたインフラ長寿命化基本計画にもとづいて、2015年度からは高速道路リニューアルプロジェクトが進められた。2011年の東日本大震災の後には国土強靭化基本計画にもとづく取り組みも進み、補修専業のショーボンドは国策の後押しを受けて業績を伸ばしていた[1]。
国内の事業環境は、社会資本のメンテナンスを国が長期に予算化する枠組みのもとで安定して広がる見通しにあった。しかし、需要の多くを国内の公共投資に頼る構造は、裏を返せば、国内政策の増減にそのまま左右されることでもある。次の成長の柱をどこに求めるかを考えるとき、目は自然と海外へ向いた[2]。
海外インフラの老朽化という余地
高度成長期に集中して造られた構造物が傷むという現象は、日本に限った話ではない。海外でも社会インフラの老朽化が深刻になりつつあり、日本で50年以上にわたり補修の技術と施工ノウハウを積み上げてきた同社には、その技術を海外の課題解決に役立てる余地があった。ただし、補修工事は発注者の多くが官公庁で、現地に顧客との接点や販売網を持たない企業が単独で入り込むのは容易ではなかった[3]。
決断
三井物産との合弁で海外へ踏み出す
2019年4月、ショーボンドホールディングスは三井物産と合弁会社SHO-BOND & MITインフラメンテナンス(SB&M)を設立し、メンテナンス事業の海外展開を始めた。合弁の出資はショーボンドが51%、三井物産が49%で、経営の主導権はショーボンド側に置きつつ、三井物産の世界62カ国・124拠点にわたる網を足がかりに用いる組み合わせであった。技術と施工ノウハウを持つ側と、世界に商流を持つ側とが手を組むことで、単独では届かない現地の案件に近づく狙いだった[4]。
東南アジアから北米への段階展開
合弁の設立を皮切りに、進出は段階を踏んで広がった。2020年には、タイの複合企業サイアム・セメント・グループ(SCG)傘下のCPAC社と合弁でCPAC SB&M Lifetime Solutionをバンコクに設立し、SCGの販売網を通じて東南アジアの工事案件を取り込む足場を築いた。相手の持つ現地の商流に乗る形で、まず東南アジアへ地歩を固めた[5]。
2023年7月には米国のインフラ補修事業者Structural Technologies社へ出資し、北米にも足がかりを得た。さらに2024年7月、ショーボンド建設のなかに海外事業部を設け、工事材料を売るだけでなく、施工の指導や技術の提供まで含めて、国内で磨いた「総合メンテナンス体制」を海外でも提供できる体制を整えた。合弁・出資・組織づくりを重ね、東南アジアと北米の二つの市場に橋頭堡を置いた[6]。
結果
タイの黒字化と、モデルの転換
段階展開の成果は、まず東南アジアで現れた。2025年6月期には、2020年に設立したタイのCPAC SB&M Lifetime Solutionが創業以来初めての黒字を達成した。設立から数えて数期をかけての黒字転換であり、海外事業が収益を生む第一歩を踏んだ。国内で積み上げた補修の技術と施工ノウハウが、環境の異なる海外の市場でも通用しうることを示す結果となった[7]。
この過程で、海外事業のかたちそのものが変わった。当初は工事材料を売る製品販売が中心だったが、海外事業部の設置とあわせて、施工の指導や技術の提供までを組み合わせる直接展開型へと組み替えた。開発から材料供給、施工までを一貫して担う国内の「総合メンテナンス体制」を、そのまま海外へ持ち出す形である。相手の商流に乗る合弁から、自ら現地で施工と技術を提供する事業へと、少しずつ性格を移していった[8]。
- ショーボンドHD 統合報告書2025