パーソルホールディングス豪Programmed Maintenance Servicesの全株式取得によるオセアニア人材サービスへの本格進出

アジア太平洋で最大の市場をどう取るか——691億円で豪州首位を丸ごと買う選択

時期 2017年7月
意思決定者(推定) 水田正道 社長CEO
論点 海外事業と資本配分
概要
2017年7月14日、パーソルホールディングスは豪州証券取引所に上場するProgrammed Maintenance Services Limitedの全株式を取得する契約を結び、同年10月以降に企業結合を完了した経営判断。取得価額は691億円で、同社にとって当時最大の海外投資となった。
背景
前年の2016年7月、米Kelly ServicesのAPAC子会社17社を連結子会社化し、グループ統一ブランド「PERSOL」を導入していた。人材派遣市場はアジア太平洋で390億米ドル、うち豪州が146億米ドルと域内最大で、Programmedはその豪州でシェア10%超の首位にあった。
内容
Programmedは1951年に塗装サービスの会社として創業し、2007年にIntegrated Group、2015年にSKILLED Groupを傘下に収めた豪州最大の人材サービス企業である。2017年3月期の連結売上高は26.91億豪ドル、従業員25,003名のうち派遣スタッフが20,048名を占めた。
含意
連結売上高は2018年3月期に7,222億円へ拡大した一方、2020年3月期にProgrammedのStaffing事業ののれん126億円を減損した。有価証券報告書は当面、海外での新規の大型企業買収の優先度を下げると記し、2020年4月には投資委員会を設置している。
筆者の見解

市場の大きさを買うということ

この買収の理屈には、資料の上では隙が少ない。アジア太平洋で最大の市場は豪州であり、その市場で首位の会社を丸ごと買えば、拠点をひとつずつ作るより早く上位に立てる。実際に連結売上高は2年で5,920億円から9,258億円へ伸び、海外売上高3,000億円という目標にも近づいた。ただ、市場の大きさと自社が稼げる利益とは別の量である。豪州の人材派遣市場が域内最大であることは、そこで買った会社が日本と同じ収益性で回ることを意味しない。減損の理由として挙げられたのは、想定していた収益が見込めなくなったという一文であった。

もうひとつ残るのは、施設メンテナンスという事業をどう位置づけるかという問いといえる。Programmedは買収時点でEBITAの6割をMaintenanceから得ており、人材派遣の会社であると同時にインフラ請負の会社でもあった。人材サービスの尺度で測れば異質な事業を、人材サービスのセグメントに収めたまま今日に至っている。有価証券報告書が海外での大型買収の優先度を下げると書き、投資委員会を設けたのは、金額の大きさへの反省であると同時に、買う対象の中身をどこまで見極めていたかへの問い直しでもあったとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

Kellyとの合弁で始めたアジア太平洋

パーソルホールディングスの海外事業は、米Kelly Servicesとの関係から始まった。2010年5月に同社株式の買取契約を結んで協力関係の協議に入り、2016年7月には合弁事業化契約に基づいてKellyのAPAC地域子会社Kelly Services (Singapore) Pte. Ltd.および子会社16社を連結子会社化した。シンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア・ベトナム・インドなどの拠点が、Kelly側から日本側へ移った。同じ2016年7月、グループ統一ブランドとして「PERSOL」を導入し、翌2017年7月には持株会社と中核子会社の商号を一斉に切り替えている[1][2]

ただし東南アジアの拠点を集めても、市場そのものの大きさには限りがあった。買収時の説明資料によれば、世界の人材派遣市場4,280億米ドルのうちアジア太平洋は390億米ドルで、内訳は豪州146億米ドル、中国101億米ドル、インド45億米ドルと続く。シンガポールは9億米ドル、インドネシアは6億米ドルにとどまる。域内で最大の市場は、パーソルがまだ拠点を持たない豪州であった[3]

豪州首位という買い物

Programmed Maintenance Servicesは1951年に塗装サービスの会社として創業し、その後、設備・機器メンテナンスへ事業を広げた。2007年に豪州の人材サービス大手Integrated Groupと合併し、2015年10月には同国トップのSKILLED Groupを買収して、豪州最大の人材サービス企業になっている。2017年3月末の従業員は25,003名で、うち無期社員1,991名・有期社員2,964名・派遣スタッフ20,048名。豪州とニュージーランドを中心に100を超える拠点を持ち、2017年3月期の連結売上高は26.91億豪ドルであった[4]

事業の内訳は、豪州とニュージーランドでの人材派遣・人材紹介を担うStaffingと、官民パートナーシップのインフラ事業や製造業・鉱工業向けの施設・設備管理を担うMaintenanceの二本立てであった。2017年3月期の売上高はStaffingが51%、Maintenanceが49%とほぼ半々だが、EBITAではMaintenanceが62%を占める。買い手にとっては、人材派遣の会社を買うと同時に、日本国内では扱ってこなかった施設メンテナンスという請負事業を抱えることでもあった[5][6]

決断

691億円と海外売上高3,000億円

2017年7月14日、パーソルホールディングスはProgrammedの全株式を取得する契約を締結したと発表した。取得価額は691億円で、1豪ドル87.32円で換算した金額である。企業結合日は2017年10月以降とされ、貸借対照表は同年12月末から、損益計算書は翌2018年1月から連結に取り込む計画が示された。前年に東南アジアの17社を子会社化したばかりの会社が、そのおよそ1年後に1件で691億円を投じた。2013年のインテリジェンス買収の514億円を上回る、当時としては最大の投資であった[7][8]

買い手が掲げた狙いは明快であった。説明資料は、海外事業をコア事業の一つとして育成・強化することは必須であるとしたうえで、アジア太平洋で域内最大の豪州市場を強化し、同市場でトップシェアを持つProgrammedを買収して量的な拡大を実現すると述べている。これにより海外売上高3,000億円を目指せる規模になり、名実ともにアジア太平洋で上位の位置を確立できるとした。前年の合弁で得た東南アジアの拠点網に、豪州の首位企業を足し合わせる算段である[9]

商号変更と同じ月に決めたこと

契約の締結は、持株会社がテンプホールディングスからパーソルホールディングスへ商号を変更した2017年7月と重なる。同じ月に水田正道氏が代表取締役社長CEOに就任し、創業者の篠原欣子氏は前月の株主総会で取締役を退任していた。創業から44年使ったテンプスタッフという社名を子会社名から外し、統一ブランドで海外に出るという流れのなかに、この買収が置かれている。国内の買収を重ねてきた会社が、経営体制の入れ替わりと同時に海外へ最大の投資を決めた[10][11]

買収の説明では、ホワイトカラー系に強いパーソルの人材ノウハウとアジアのネットワークに、Programmedが持つ設備・施設メンテナンスの運営ノウハウと大規模プロジェクトの経験を組み合わせ、既に事業を持つアジア太平洋地域にメンテナンス事業を広げるという相乗効果が挙げられた。人材派遣という共通項の上に、両社の異なる強みを重ねる構図である。ただし施設メンテナンスは、日本国内のグループが経験を持たない請負型の事業でもあった[12]

結果

売上一兆円への接近と、のれんの減損

連結の数字は買収の直後に跳ねた。2017年3月期に5,920億円だった連結売上高は、Programmedを取り込んだ2018年3月期に7,222億円、2019年3月期には9,258億円へ伸びる。営業利益も334億円から361億円、441億円と増えた。ただし2018年3月期の当期純利益は78億円で、前期の178億円から半分以下に落ちている。同期にはPERSOLKELLY事業に係る買収子会社で減損損失が計上されており、東南アジアで前年に迎えた事業の収益が、早い段階で想定を下回っていた[13][14]

Programmed自体の評価が下がったのは、買収から3年目である。2020年3月期、パーソルホールディングスはProgrammedおよびその傘下会社が豪州を中心に営むStaffing事業ののれんについて、想定していた収益が見込めなくなったとして12,688百万円を減損した。同期の減損損失は全体で13,378百万円にのぼり、うちAsia Pacificセグメントが12,768百万円を占める。同セグメントの2020年3月期の外部売上高は2,732億円だが、セグメント損益は4億円の赤字であった[15][16]

大型海外買収の優先度を下げるという記述

減損を受けて、会社は買収方針そのものを書き改めた。2021年3月期の有価証券報告書は、2020年3月期のProgrammedのStaffing事業ののれん減損と、2018年3月期のPERSOLKELLY事業に係る減損を並べて挙げたうえで、当面、海外での新規の大型企業買収の優先度を下げ、Asia Pacific SBUの事業の最適化と収益基盤の確立に取り組むと記した。あわせて2020年4月、多額の事業投資案件を専門的な見地から審議して経営陣に助言する投資委員会を設けている。買収で規模を積む方法に、社内の手続き上の歯止めが加わった[17]

コロナ禍の2021年3月期、Asia Pacificセグメントの外部売上高は2,514億円、セグメント損益は15億円の赤字となった。同期末ののれん未償却残高はグループ全体で667億円、うちAsia Pacificが279億円を占める。当時の和田孝雄社長は誌面のインタビューで、17年に買収した豪プログラムド社などについて、ポートフォリオの組み替えも含めて収益をどう強化していくかが大きなテーマであると述べている。買った事業をどう扱うかという問いが、買収から4年を経て経営の正面に置かれた[18][19]

出典・参考

免責事項およびポリシー