筆者の見解
現地企業を取り込む型の海外進出が残したもの
1986年の判断で目を引くのは、白紙から現地法人を設立したタイ方式と異なり、すでにボンベイ証券取引所に上場していた現地企業をそのまま取り込んだ点である。塗料は輸送コストの制約が大きく、現地生産・現地販売の性格が強い業種であり、ブランドと販売網を持つ既存企業を子会社化するほうが、市場への浸透は速かったと推察される。経営陣を入れ替えずに運営を委ねるやり方も、この時期から一貫して保たれてきたとうかがえる。
もっとも、この判断が海外事業全体の中核になるまでには、40年近い年月を要した。1985年から2007年にかけて5年おきに積み上げた現地企業との資本提携の連なりのなかで、インドは結果として最も成長した拠点になった。欧州のHelios買収が構造改革の対象になっている一方で、インドがアフリカと並ぶ成長市場として名指しされている現状は、新興国の現地企業を取り込む型の海外進出が、買収から数十年を経てようやく評価の定まる長期の賭けだったことを示している。
Yutaka Sugiura, 2026年7月