MTG美容ローラー「ReFa」の発売と、ブランド開発企業への業態転換

作る力か、売る力か——活水器メーカーが自社を「ブランド開発カンパニー」と規定し直すまで

時期 2009年2月
意思決定者(推定) 松下剛 社長
論点 業態転換とブランドの自社開発
概要
2009年2月、MTGが美容ローラー「ReFa」を発売し、同じ月に化粧品製造販売業の許可を取得した経営判断。活水器やウォーターサーバーを手がけてきた名古屋の未上場企業が、企画・開発とブランドを自社に残し生産を外部へ委ねる会社へ、事業の輪郭を作り替えた。松下剛社長の主導による。
背景
松下剛社長は1994年に23歳で中古車販売業を始め、その1年半後にセラミック活水器の代理店販売、次いでメーカーへ転じていた。海外へ出る機会が増えるなかで、技術的に優れた日本製品が海外製品に売り負ける場面をたびたび目にし、技術だけでは勝てないという認識に至っていた。
内容
千円前後の安価な品が出回る美容ローラー市場に、2万円を超える ReFa を投入した。ベアリングの選定から肌に触れる面のプラチナコーティングまで作り込む一方、生産設備は持たず外部委託で賄う。2010年8月に研究開発センターを開設し、2013年4月には本社をそこへ移した。
含意
ReFaは顔用からヘッド用・ボディ用、併用する化粧品へと品種を増やし、2017年9月期には単一ブランドで売上高246億円、2018年7月末には累計出荷1000万本に達した。作る設備を持たない会社が、開発とブランドだけを内に抱える構えが定着した。
筆者の見解

作らない会社が、開発だけを抱えた意味

千円前後で買える美容ローラーに、MTGは2万円を超える値段を付けた。その差を説明するのは自社の工場ではなく、ベアリングの選定とプラチナコーティング、そしてブランドの側であった。生産も受注も行っていないと有価証券報告書に書く会社が、2010年に研究開発センターを建て、2013年には本社をそこへ移している。作る設備を手放すことと開発を会社の中心に置くことは、

ただ、この構えが会社を軽くしたわけではない。2018年の時点で売上高の約8割は主要2ブランドに集まり、次の柱をどう育てるかが外部から課題に挙げられていた。生産を外に出した会社に残るのは、当たったブランドの伸びだけであり、その伸びが会社の伸びとそのまま重なる。2009年の転換で得た速さと、一つのブランドに寄りかかる細さは、同じ判断から生まれた。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

中古車販売から活水器メーカーへ

松下剛社長が会社を法人化したのは1996年1月、愛知県岡崎市においてである。起業そのものは1994年にさかのぼり、23歳で始めた中古車販売業から始まっている。当時の若者にとって自動車を持つことが夢であったから車を売ろうと考えた、と松下氏は後年説明している。その1年半後には、焼き物などセラミック産業の集まる愛知の地の利を見て活水器の代理店販売に入り、やがて自ら活水器メーカーへ転じた[1]

法人としての歩みでは、商品よりも売り先の組み替えが先に立っていた。活水器の販売先は住宅設備会社から訪問販売会社へ移り、社名も1999年8月に株式会社エムティージー、2005年9月に株式会社MTGへと改めている。自社の商品を消費者へ直接届ける事業としては、2004年12月に名古屋市北区で始めたウォーターサーバー「宅水便のキララ」が最初であった[2]

技術だけでは勝てないという認識

転換の理由を、松下社長は海外での見聞に求めている。海外へ出る機会が増えるにつれ、技術的には日本製品のほうが優れているのに海外製品に負けている場面をたびたび目にした。そこから、技術だけでは勝てず、マーケティングとブランディングにもモノづくりと同等の力を入れなければグローバルな競争には勝てない、という認識に至ったと語っている。名古屋で活水器を作っていた会社の経営者が、製造技術の外側に負けの理由を見た場面であった[3]

この認識は、自社で作ることを捨てるという話ではなかった。松下社長が2009年前後から意識するようになったと述べるのは、クリエイション・テクノロジー・マーケティング・ブランディングの4つを同時に進めるモノづくりである。開発だけが先行し、どこで売るのか、客は誰なのか、売り場をどう見せるのかを考えないまま商品ができてしまう順序を、松下氏は無謀と評していた。順序を入れ替えるのではなく、並走させるという設計であった[4]

決断

2万円を超える美容ローラー

2009年2月、MTGは美容ローラー「ReFa」を発売した。同じ月に化粧品製造販売業の許可を取得しており、器具だけでなく肌に塗る商材まで扱える資格を、発売と同時に整えている。美容ローラーは千円前後の安価な品が出回る商品でありながら、ReFa の価格は2万円を超えた。製造技術で差がつきにくい商品を、あえて高い値段で出したことになる[5][6]

価格差を支えたのは、部材と仕上げの作り込みであった。松下社長は、ベアリング一つをとっても他社の品とは異なり、肌に当たる面にはプラチナコーティングを施していると説明している。見た目の付加価値にとどまらず、金属アレルギーのある人にも使えるという理屈であった。デザインからパッケージまで同じ水準でこだわった結果、ReFa を複数買う顧客が多いことを、松下氏は満足の証と受け止めていた[7]

工場を持たず、開発を会社の中心に置く

ReFa を売り出した MTGは、自社の工場を持たなかった。有価証券報告書は、生産および受注活動を行っていないため生産実績・受注実績の記載事項がないと書いている。製造は外部への委託で賄い、2012年10月には委託の窓口として深圳に子会社を設けた。ウォーターサーバー事業では自社の工場と配送を抱えていたのに対し、ReFa では作る設備をいっさい持たない形を選んでいる[8]

一方で、自社に残す機能には施設への投資を続けた。2010年8月に名古屋市中村区へ研究開発センターを開設し、2013年4月には本社そのものをその研究開発センターへ移している。2013年5月には滋賀県彦根市に研究開発事務所も置いた。ReFa の発売から4年のあいだに、会社の住所が開発の場所へ移ったことになる。工場を外に出しながら、開発は組織の真ん中へ引き寄せた配置であった[9]

結果

一つのブランドが会社の規模を変えた

ReFaは一つの商品では終わらなかった。顔用に加えてヘッド用・ボディ用へ品種を増やし、さらにローラーを使うときにつける化粧品まで、カテゴリーを継ぎ足した。週刊東洋経済は、この徹底したシリーズ化を人気の理由に挙げている。ブランドの売上高は2017年9月期に246億円と前期の2倍になり、2018年7月末には累計出荷数が1000万本を超えた[10]

会社の規模も同じ期間に変わった。2014年9月期に単体で153億円であった売上高は、2018年9月期には連結で583億円になっている。販売実績は販売チャネル別に開示され、海外向けのグローバル事業が219億円と前期比87.9%増で最も伸びた。もっとも週刊東洋経済は、主要2ブランドで売上高の約8割を稼いでいると記し、続く柱の育成と海外展開を課題に挙げていた[11][12]

「ブランド開発カンパニー」という自己規定

2018年9月期の有価証券報告書は、事業の内容の冒頭で MTG を「ブランド開発カンパニー」と規定し、クリエイション・テクノロジー・ブランディング・マーケティングの4つを融合した事業ビジョンを掲げている。松下社長が2009年ごろから意識するようになったと述べる4つが、9年後には会社の自己紹介そのものになっていた。ReFa 自体も、身体と生活のすべてを美容の視点で捉えるブランドとして説明されている[13]

会社の切り方にも同じ考えが表れている。MTGは事業セグメントを商品ではなく販売チャネルで区分し、グローバル、リテールマーケティング、ダイレクトマーケティング、ブランドストア、プロフェッショナル、その他の6つに分けていた。従業員1,205人のうち469人は管理・生産管理・開発の全社共通部門に属し、研究開発費は19億7,700万円に達している。何を作るかではなく、どこで売り、何を開発するかで会社を数えていた[14]

出典・参考

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