九州電力全原発停止下での家庭向け料金値上げと、川内1・2号機を先頭に置いた再稼働申請
3,325億円の純損失をどう止めるか——料金改定・合理化上積み・審査対応を同時に走らせた2013年
- 概要
- 原発6基の停止で燃料費が膨らみ2期連続の赤字となった九州電力が、2012年11月に規制部門の電気料金値上げを申請し、2013年4月2日の認可を経て5月1日に実施した判断。あわせて合理化目標を上積みし、新規制基準の適合性審査には川内1・2号機を先に出した。
- 背景
- 2011年3月の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を受けて原発6基が順次停止し、代替の火力を高稼働で回した結果、燃料費が急増した。2012年4〜9月期の連結最終損益は1,495億円の赤字となり、中間配当も見送られた。
- 内容
- 規制部門は平均8.51%の申請が査定を経て平均6.23%(1キロワット時あたり1円24銭)で認可され、2013年5月1日に実施。自由化部門は当初表明の14.22%から11.94%へ改めた。年間1,130億円としていた合理化目標は1,400億円規模へ引き上げられた。
- 含意
- 2013年3月期の純損失は3,325億円と上場以来最大となり、自己資本比率は10%前後まで下がった。2015年8月11日の川内1号機の再稼働と同年10月21日の2号機の再稼働を経て、2016年3月期は4期ぶりの黒字に戻った。
1円24銭と、2年3か月
2013年の判断は、三つの時間軸が噛み合わないところで下されている。燃料費は月単位で出ていき、料金の改定には申請から認可まで半年近くを要し、原発の適合性審査には年単位の時間がかかった。九州電力が選んだのは、いちばん速く効く手段で当座を支え、いちばん遅い手段に収支の回復を託す組み合わせであった。値上げ幅が申請の8.51%から6.23%へ削られたことは、その当座の支えが査定によって決まる性質のものであったことを示している。
数字の置きどころによって、この判断の見え方は変わる。会社の側から見れば3,325億円の赤字と1,400億円規模の合理化であり、需要家の側から見れば1キロワット時あたり1円24銭、標準的な家庭で月およそ220円の負担増であった。立地地域の側には、250億円を超える電源交付金と500億円を超える固定資産税、そして人口の過半数に達した署名が並んでいる。値上げの実施から2年3か月後の2015年8月11日、川内1号機の原子炉が起動した。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
6基が止まり、火力が回り続けた2年
2011年3月の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を受け、九州電力の原発6基はストレステストと定期点検を経て順次停止した。2012年5月に北海道電力泊3号機が止まったことで国内の原発は全基停止となり、九州電力も2011年から2014年にかけて原発なしで供給を続けた。代替として石炭・LNG・石油の火力を高い稼働率で回した結果、燃料費は急増した。2012年3月期の経常損失は2,135億円にのぼった[1]。
原子力の比率が1990年度に33%へ達していた電源構成は、稼働がゼロになれば、その分を丸ごと燃料費に置き換える構成でもあった。原発停止に伴う燃料費の増加は単年度で2,400億円規模に達し、損失は月300億円のペースで積み上がった。自己資本比率は震災前の26.1%から10%前後へ下がり、財務の余裕は短い期間で失われた[2][3]。
値上げを口にするまでの半年
2012年10月30日、九州電力は4〜9月期の連結最終損益が1,495億円の赤字になったと発表した。前年同期の赤字は133億円で、1年で赤字幅は10倍を超えた。中間配当は見送られた。瓜生道明社長は同じ席で「年度を通して大幅な赤字が見込まれ、財務状況も厳しいなか、実施時期、幅などの具体的な検討を始めた」と述べ、電気料金の値上げの検討を公にした。通期の業績見通しと期末配当については、原発の再稼働時期と冬の節電内容が定まらないとして「未定」に置いた[4]。
値上げの申請と再稼働の申請は、いずれも社外の同意を要する手続きであった。前年の2011年6月、玄海原子力発電所2・3号機の運転再開に向けて経済産業省が主催した佐賀県民向けの説明番組をめぐり、九州電力が関係会社の社員らに再稼働を支持する電子メールの投稿を求めていたことが明るみに出ている。九州電力は7月末に第三者委員会へ調査を依頼し、9月末に提出された最終報告書と自社の見解は食い違ったまま、10月14日に経済産業省へ報告書を提出した。当時の眞部利應社長は同日の記者会見で続投を表明している[5]。
決断
平均8.51%の申請が、6.23%で認可されるまで
2012年11月、九州電力は規制部門の電気料金について平均8.51%の値上げを申請した。公聴会と査定を経て、経済産業大臣の認可が下りたのは2013年4月2日で、認可された値上げ率は平均6.23%であった。申請からの圧縮幅は1キロワット時あたり0.45円、率にして2.28ポイントにあたる。実施は同年5月1日で、規制部門の値上げ幅は1キロワット時あたり1円24銭、標準的な家庭では月およそ220円の増加となった。あわせて自由化部門の値上げ率も、先に表明していた14.22%から11.94%へ改めた[6][7]。
値上げの理由として九州電力が挙げたのは、原子力発電所の停止に伴う火力発電の燃料費などの大幅な増加と、それによって急速に悪化した財務の状況であった。総括原価方式のもとでは、燃料費の増加分を料金へ反映させるには認可が要り、認可までの間の負担は自社が抱える。逆にいえば、認可された時点で負担の一部は需要家へ移る。2013年5月の実施は、その移し替えが実際に起きた日付にあたる[8]。
合理化の上積みと、川内を先に出す選択
料金だけで穴を埋める計画ではなかった。九州電力は当初年間1,130億円としていた合理化目標を1,400億円規模へ修正し、約300億円のコスト削減を上積みした。手段として挙げたのは修繕費の削減と資産の売却であった。役員報酬の削減、社員給与の削減、設備投資の繰り延べ、人員配置の見直しも並行して実施している。値上げ、合理化、投資の先送りという3つを同時に走らせても、収支の正常化そのものは別の条件に委ねられていた[9][10]。
その条件が原発の再稼働であった。瓜生社長は、国が2013年7月に原発の新規制基準を決めた時点で川内1・2号機の再稼働を申請する考えを示している。再稼働が遅れれば月200億円のコスト増になるとの見通しも示された。九州電力が保有する原発は玄海4基と川内2基だが、審査には川内の2基を先に出した。瓜生社長は「速やかな原発再稼働を強く望む」と述べ、川内1・2号機について「活断層の疑いがなく、敷地が高くて津波で浸水する恐れも小さい」と説明していた[11][12]。
結果
上場以来最大の赤字と、2年3か月の待ち時間
値上げの認可から1か月足らずの2013年4月30日、九州電力は2013年3月期の連結決算を発表した。売上高1兆5,459億円に対し営業損失2,994億円、経常損失3,312億円、親会社株主に帰属する当期純損失は3,325億円で、上場以来最大の赤字となった。赤字は2期連続で、幅は前の期の約2倍に広がった。翌2014年3月期も1,314億円の経常損失を計上し、3期続けて1,000億円を超える赤字が並んだ[13][14]。
審査は2年を超えた。川内1号機の使用前検査は2015年3月30日に始まり、九州電力は7月上旬の原子炉起動と8月中旬からの営業運転を想定していた。実際の起動は2015年8月11日で、8月14日に発電を再開している。新規制基準のもとで国内初の再稼働にあたり、関西電力大飯3・4号機が停止した2013年9月以降およそ2年続いた国内の原発ゼロもここで終わった。川内2号機は同年10月21日に再稼働した[15][16][17]。
4期ぶりの黒字と、地元に残った数字
川内2基の再稼働による燃料費の削減効果は、年間1,500億円規模と見込まれた。2016年3月期の連結業績は売上高1兆8,357億円、経常利益909億円、親会社株主に帰属する当期純利益735億円となり、4期ぶりの黒字に戻った。2015年末の時点で、新規制基準の適合性審査を通って再稼働にこぎつけた原発は川内1・2号機だけであった。値上げと合理化で当座をしのぎ、収支の正常化は再稼働に賭けるという2013年の組み立ては、この2年半の順序どおりに動いた[18][19]。
立地地域の側には、別の数字が積み上がっていた。原発の建設以来、国と鹿児島県から薩摩川内市への電源交付金は250億円を上回り、九州電力が同市へ納めた固定資産税は500億円を超える。再稼働の同意は、2014年10月に薩摩川内市の市長と市議会が示した。隣接するいちき串木野市では、2014年6月に避難計画の不備を理由とする再稼働反対の署名が人口の過半数に達し、市議会は同年9月末、再稼働の同意が必要な「地元」の範囲に同市を加えるよう求める意見書を鹿児島県知事あてに採択している[20]。
- 九州電力 有価証券報告書(2013年3月期・連結)
- 九州電力 有価証券報告書(2016年3月期・連結)
- 九州電力「電気料金値上げの認可について」(2013年4月2日)
- 九州電力CSR報告書 2013
- 九州電力公式 再稼働関連情報
- 日本経済新聞(2012年10月30日)「九電、電気料金値上げ検討を正式表明」
- 日本経済新聞(2013年1月30日)「九電、4〜12月大幅赤字 自己資本比率 最低、10%前後見通し」
- 日本経済新聞(2013年4月2日)「経産省、九州電の家庭電力料金引き上げ6.23%で認可 5月から」
- 日本経済新聞(2013年4月30日)「九電、過去最大の赤字 前期3324億円、リストラ加速」
- 日本経済新聞(2015年8月11日)「川内原発1号機が再稼働 原発ゼロ、約2年ぶり解消」
- 週刊東洋経済 2011年12月13日号「【特集 ガバナンス不全症候群】 PART1 経営者はなぜ暴走するのか CASE1 九州電力 第三者委の報告を『無視』 大臣巻き込む泥仕合に」
- 週刊東洋経済 2015年4月3日号「核心リポート05 安全誇示する川内原発 不安と疑念が募る地元」
- 週刊東洋経済 2015年12月18日号「【特集 2016年大予測】 PART3 日本経済・政治 38 原発再稼働 九州電力の次は不透明」
- プレジデント(2014年1月11日)「九州電力社長 瓜生道明 -「腰の低さ」で原発再稼働へ」