三機工業受注拡大策の撤回と、規模に見合った採算重視受注への転換

増収のまま創業以来はじめての経常赤字に落ちた三機工業は、受注量と工事採算のどちらを取ったか

時期 2007年3月
意思決定者(推定) 宅清光・有馬修一郎 社長
論点 受注方針と工事採算
概要
2007年3月期に三機工業グループが創業以来はじめての経常損失87億8,200万円を計上し、業績の悪化が顕著になった第4四半期になって、仕事量を最大限確保することによって利益を確保するという戦略を降ろし、利益重視への方針転換を明確にした経営判断。翌2008年3月期からは受注量の拡大を追わず、規模に見合った採算重視の受注へ改めた。
背景
民間非住宅建築投資が3年連続で増える一方、民間新築工事は受注競争の激化から工事採算の低落傾向が続き、資機材価格の上昇と労務費の高騰も重なっていた。下半期に集中した大型再開発物件の施工時期が重なって巨額のコストアップ要因が発生し、売上高2,461億円余の増収でありながら大幅な採算の悪化に見舞われた。
内容
受注拡大施策を改め、技術力・施工力・要員数など自社の能力に応じた規模を見極める3カ年計画を2007年度から始めた。大型再開発物件等の採算性の厳しい受注と、官公庁向けの入札価格の厳しい受注を回避した結果、2008年3月期の受注高は2,182億円余と前期比7.9%減、繰越高は1,082億円余と前期末比25.1%減となった。
含意
連結売上高は2008年3月期の2,544億円余から2010年3月期の1,592億円余へ2期で4割近く減り、その2010年3月期に営業利益50億2,700万円・経常利益54億5,600万円を確保した。2026年3月期は2007年3月期とほぼ同じ売上規模で、経常利益292億8,700万円を計上している。
筆者の見解

量を積んでも利益が残らなかった増収期

売上高2,461億円余は前期を3.6%上回っており、2007年3月期の三機工業は仕事を取り損ねたわけではなかった。それでも経常損益は87億8,200万円の損失に落ちる。仕事量を最大限確保すれば利益がついてくるという前提は、資機材価格と労務費が同時に上がり大型再開発物件の施工時期が重なった年度には成り立たなかった。第4四半期の方針転換は、量を積む戦略そのものが利益を生まなくなったことを期の途中で認めた行為にあたるとみられる。

ただ、方針を改めてから損益が追いつくまでには2期を要した。2008年3月期の当期純利益31億3,400万円は固定資産と投資有価証券の売却益を含む特別利益107億3,200万円で作られたもので、経常損益は33億700万円の損失のままであった。受注の選別で防げる損失にも限りがある。2013年3月期には経常利益を確保しながら、大型賃貸物件等への70億7,100万円の減損損失で当期純損失49億9,200万円を出した。採算で受注を選ぶ規律は、工事の外から来る損失までは覆わない。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

仕事量の最大確保という戦略と、低落する工事採算

2007年3月期の三機工業グループは、仕事量を最大限確保することによって利益を確保するという戦略にしたがい、業容の拡大を図っていた。市場は追い風にみえる。公共投資が8年連続の減少となる一方で民間非住宅建築投資は3年連続の増加となり、電子・電機・化学等の製造業でも設備投資が伸びた。受注を積める物件が目の前に並んでいた[1]

ところが工事の採算は逆を向いていた。民間新築工事では受注競争の激化から採算の低落傾向が続き、資機材価格の上昇に労務費の高騰も加わり、建設業全般が極めて厳しい状況に置かれた。それでも受注は積み上がる。建設設備部門1,847億円余、プラント設備部門483億円余に不動産事業を足した受注高は2,370億円余となり、前期を0.7%上回った[2]

増収のまま計上した創業以来はじめての経常損失

売上高も伸びた。建設設備部門は大型再開発物件の完成工事高と工事進行基準による決算高が増えて2,030億円余となり、プラント設備部門と不動産事業を含む全体では2,461億円余と前期を3.6%上回った。利益はそこから消えた。当下半期に集中した大型再開発物件の施工時期が重なり、巨額の労務費等のコストアップ要因が発生して、大幅な採算の悪化を招いた[3]

従来から利益の源泉であったリニューアルをはじめとする小口工事からの積み上げもできず、翌期以降の繰越工事については受注工事損失引当金を積み増した。営業損失95億200万円、経常損失87億8,200万円、当期純損失65億3,600万円。設備工事事業の営業損益は前期の営業利益7億1,800万円から115億3,400万円の損失へ振れた。有価証券報告書はこの経常損失を、グループ創業以来はじめてのものと記している[4][5]

決断

第4四半期の方針転換と、背伸びをしない計画数値

業績の悪化が顕著になった第4四半期になって、三機工業グループは利益重視への方針転換を明確にした。期首から掲げてきた仕事量の最大確保という戦略を、期の途中で降ろした形になる。三機工業は業績を大幅に悪化させた原因の究明と反省を踏まえて中期計画を根本的に見直し、2007年度から新たな3カ年計画を始めた。決算期の末を待たずに戦略を差し替えた点に、採算の崩れ方の速さがうかがえる[6]

計画の中身は、受注拡大施策を改めて利益重視体質へ変換することにあった。連結業績の最大化をめざしてグループ全体で事業領域を見直し、技術力・施工力・要員数など自社の能力に応じた規模を見極めて、背伸びをしない計画数値にもとづく目標を設定した。過当競争による低価格受注、度重なる資機材の高騰、労務費の上昇が収益構造を悪化させているという認識が、その前提に置かれた[7][8]

2期連続の経常赤字と、資産売却で確保した当期純利益

翌2008年3月期、三機工業グループは受注量の拡大を追わず、規模に見合った採算重視の受注を図った。建設設備部門は大型再開発物件等の採算性の厳しい受注を回避して1,761億円余と前期を4.7%下回り、プラント設備部門も官公庁向けの下水処理施設や廃棄物処理施設等で入札価格の厳しい受注を回避して382億円余と21.0%減らした。全体の受注高は2,182億円余で7.9%の減少となる。繰越高も工期の長い低採算物件を避けたことで、前期末比25.1%減の1,082億円余まで落ちた[9]

損益が追いつくには時間を要した。上半期には過年度に受注した大型再開発物件等で資機材価格と労務費の高騰によるコストアップ要因が発生し、経常損失33億700万円と2期連続の経常赤字になる。そこでキャッシュ・フローと当期純利益の改善を目的に有形固定資産と投資有価証券を徹底して見直し、固定資産売却益20億4,300万円・投資有価証券売却益85億9,700万円等の特別利益107億3,200万円を計上して、当期純利益31億3,400万円を確保した[10]

結果

2期で4割近い減収と、減収下で確保した利益

受注を選んだ結果は売上高に表れた。2008年3月期に2,544億円余であった連結売上高は、2010年3月期には1,592億円余まで縮み、2期で4割近く減った。世界同時不況後の設備投資の落ち込みも重なり、2010年3月期の受注高は建設設備部門が1,158億円余と前期比23.4%減、プラント設備部門が233億円余と29.6%減となった[11]

それでも利益は残った。2010年3月期は21.7%の減収でありながら、営業利益50億2,700万円、経常利益54億5,600万円、当期純利益31億4,100万円を計上した。繰越高も工期の長い不採算物件の受注を回避したことにより776億円余となり、前期末から17.0%減っている。売上規模を落としたまま利益を出す形へ、損益の組み立てが入れ替わっていた[12]

受注方針では防げなかった減損と、施工現場の生産性

転換後の道のりは一本調子ではなかった。2013年3月期、三機工業は工事採算の改善を進めて経常利益26億8,000万円を確保しながら、神奈川県大和市所在の大型賃貸物件等の所有不動産に70億7,100万円の減損損失を計上し、当期純損失49億9,200万円となった。減損の対象は工事ではなく、賃貸に回していた自社の不動産にあたる。受注の選び方では届かない損失が、そこから出た[13]

採算で受注を選ぶ方針が利益率に効いてきたのは、施工現場そのものに手を入れてからにあたる。2019年3月期、建築設備事業では電子調達を導入し、現場支援組織を立ち上げ、設計支援体制を整えて生産性の向上に努め、利益率の高水準維持につなげた。産業空調が大型物件を中心に伸びて建築設備事業の受注高は前年度を19.0%上回る1,825億3,300万円となり、連結では売上高2,123億1,400万円、営業利益106億3,700万円を計上した[14][15]

同じ売上規模で入れ替わった損益と、全社最適受注

2026年3月期の連結売上高は2,546億7,400万円、営業利益279億9,100万円、経常利益292億8,700万円、親会社株主に帰属する当期純利益236億8,800万円であった。2007年3月期の売上高2,461億円余とほぼ同じ規模でありながら、経常損益は87億8,200万円の損失から292億8,700万円の利益へ入れ替わった。受注時と施工時の利益改善に向けた取り組みが増益に寄与した[16]

受注の前段で採算を決める仕組みも整えた。名古屋和宏社長は2026年5月15日の2025年度決算説明会で、受注から施工までの早い段階で設計・施工計画の精度を高め手戻りを減らすフロントローディングを、エンジニアリング推進本部の立上げによって進めていると説明した。同本部は工事の大型化に伴う全社最適受注の推進も担う。2026年度は繰越工事が豊富で市場環境は良好としながら、施工体制を考慮して受注高を抑えた予想を置いた。戦略的に取るべき案件には半導体工場・データセンター・都市再開発を挙げている[17][18]

出典・参考
  • 三機工業 有価証券報告書(2007年6月27日提出)【業績等の概要】
  • 三機工業 有価証券報告書(2007年6月27日提出)【対処すべき課題】
  • 三機工業 有価証券報告書(第84期)【業績等の概要】
  • 三機工業 有価証券報告書(第86期)【業績等の概要】
  • 三機工業 有価証券報告書(第89期)【業績等の概要】
  • 三機工業 有価証券報告書(第95期)【業績等の概要】
  • 三機工業 有価証券報告書(第102期)
  • 三機工業 2025年度決算説明会 質疑応答(2026年5月15日)

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